「ねえ、何をしているの?」
……。
ルーク・ビッドは、戦争に行きたくないと思っていた。
戦争に行ったら、死ぬ運命なのだ。
だから、ずっと仮病を使い、ベッドの上で寝たきり状態になっていた。
前世で、僕は朝倉 涼太という名前だった。
僕には、涼という兄貴がいた。兄貴は、小学校の頃、苛めが原因で自殺した。
そのため両親は、兄貴の悩みに気が付かなかった自分たちを責めていた。俺にはしょっちゅう『無理するな。学校で嫌なことがあったら行かなければいい』と言ってくれた。
そうやって甘やかされて育ったガキだった。
僕は兄貴の分までがんばろうと勉強をがんばり大学にも行った。そして、とある企業に就職した。ここから地獄が始まった。
そこはブラック企業というもので毎日夜遅くまで働かされた。人間関係も上手くいかず、ストレスが溜まっていった。毎日、働きたくないと思いながら働いていた。死にたい、死にたいと思いながら働いていた。お金だけを追い求める家畜のようにはたらいた。
違う。
僕はこんな人生を送りたかったわけじゃない。
夢を追ってまっすぐに生きたかった。
けれども、もう何もかも手遅れである気がした。
怒鳴られ、叱られ、バカにされ、プライドをズタズタにされ、寝不足になり、頭がいたくても、それでも必死に泥のような人生を這いつくばりながら生きていた。
そして、働き始めて一年後、うつ病と診断された。その瞬間、今までせき止めていた何かが壊れた。
僕は引きニートとなり家に閉じこもった。
両親は、最初の頃は僕を『今までよくがんばったね』と甘やかしてくれた。
アニメを見て、小説を読んで、ゲームをするだけの日々が続いた。
どうせ僕は、ゴミだ。
ゴミで、カスで、クズで、死んだ方がいい奴だ。
そう思いながらも、もう外に出ることが怖かった。
誰よりも変わりたいと願ったくせに、変わることを恐れていた。
やがて、両親は僕に苦言を言ったり、愚痴をこぼしたり、叱ったりすることが多くなった。
ある日、台所で両親が『涼じゃなくて、涼太が死ねばよかったのに』と言っていたのを聞いてしまった。
それは、僕自身もずっと思っていたことだった。
けれども、誰かから言われることは別だった。
音もなく涙が頬を流れていく。
これほど生きていることを恥ずかしく思ったことは初めてだった。
僕は、『今までごめんなさい』から始まる短い遺書を書いて自殺した。
そして生まれ変わったらルーク・ビッドとなっていた。
結局、僕は、社会から逃げ、両親から逃げ、戦争から逃げ、寝ているだけのダメな奴……。
このままでいいのか。
こうして生きていて何の意味がある?
引きこもりだった頃、ずっと思っていた。
目標が欲しい。大きな夢が欲しい。
生きている意味が欲しい。
生まれてきた意義をください。
南部のために死ぬということは、すばらしい夢じゃないだろうか。
だったら、南部のために戦うべきじゃないか。
全力でぶつかってみるべきじゃないか。
自分でも何かができるってことを証明できるんじゃないだろうか。
夜明け前、僕は死ぬ運命であることを受け入れ戦争に行くことを決意した。
臆病者呼ばわりされていた僕が戦争へ行くということは、すぐに噂になった。
やがて、その噂はノエル・アンショーの耳にも入り、少女は僕の家へと飛んできた。
チャイムも鳴らさず、乱暴に僕の家を入ってきた。
「ルーク、戦争に行くなんて嘘だよね。あなた、戦争に行くふりをしてちゃんと脱走する計画は練っているんでしょうね」
……ひどい言われようだった。
「違うよ。僕は南部のために死のうと思っているんだ」
「あなた、死ぬのよ」
「僕もわかっている。だけど、自分で決めたことだ。
どうせ死ぬなら大きな夢のために朽ち果てたい」
ノエルは、僕のエメラルドグリーンの瞳を見て何かを悟ったようだった。
僕の手をぎゅっと掴み握り締めた。
ルークが戦争に行くということを知った私は、すぐさま彼の元へ飛んできた。
私は、彼を説得しようとしたが無理だった。
はちみつ色の金髪、エメラルドグリーンの瞳をしたルークは、いきなり深呼吸をしだした。そして何かを決意したようにこう告げる。
「ノエル。最後にお願いがある。
僕とセックスをしてくれないか?」
そう言ってルークは、土下座をしてきた。
ちなみに私が誰かに土下座されたことは初めてである。
「ほえ?」
「僕は前世でも童貞だった。
当時からセックスに対して強い憧れがあった。せっかく生まれ変わったのに、童貞のまま死にたくない!セックスをしたい!」
ルークは、魂の叫びでも言うかのようにそう言った。
耳まで真っ赤になっている。少しかわいいと思ってしまった。
「ば、バカ!」
私は真っ赤になってどなりつけた。
「無理だったら断ってくれてかまわない。
こ、こんなのむちゃぶりだったわかっている。だ、だ、だから、おっぱいを触らせてくれるだけでもかまわない。いや、むしろそれだけでもう思い残すことはない」
ルークは、リンゴのように真っ赤になりながら下を向いてそう言った。
もしも、これが他の人間だったら私は思いっきり殴っていただろう。
けれども、ルークは、死ぬ運命の人間なのだ。このままだと、彼は、前世でも、今世でも童貞のまま朽ち果ててしまうのだ。
そんな彼の唯一であり、人生最後かもしれない願いを突き放していいのだろうか?
そう簡単に突き放せない。
「しょ、しょうがないわね。べ、別にいいわよ」
「えええええええええええ!いいの?」
逆に困ったような顔をされた。
「そうよ。何でもしてあげるわ」
ルークは死んでしまうのだ。だ、だ、だから、しかたないわ。
しかし、ルークは予想以上にヘタレチキン男だった。
「や、や、やっぱりノエルを抱くなんて恐れ多い。僕には無理だ。恐れ多いことを口にして、ごめんなさい」
そう言ってルークは、縮こまって震えだした。
「もう、男だったらさっさと腹を決めなさい!」
私は、こうなったら意地でも抱かれてやると思いルークの手をつかみ自分のふくよかな胸に押し付けた。
「うわああああああああああ!」
真っ赤になりながら、断末魔の叫びをあげるルーク。
そんなに嬉しいのね。私も勇気を振り絞ったかいがあったわ。うふふふふ。
「ねえ、何をしているの?」
エリック・ブラウンの冷たい声が響き渡った。
彼は、いつの間にこの部屋に入ってきたのだろうか。
彼の目は、私がルークの手を取り自分の胸に押し付けている様子を写している。
これじゃあ、まるで淫乱女だ。
あ……。
そういえば、私にはエリックという婚約者がいたな……。
これって浮気なのか。
私とルークの顔がみるみる青ざめていった。
読んでくださりありがとうございます。




