黒羽 皐月について
ああ……今日は、やってしまった。
気分は生まれてごめんなさい。
今日、反省したら明日元気になろう。
尊敬する人は、真冬に生足を出す女子高生。
憧れる人は、バイトをばっくれられる人。
嫌いな人は、私の悪口を言う人。
好きな言葉は、明日は明日の風が吹く。
最近の悩み、髪の毛が抜けること。
多分、ストレスがたまっているのだろう。
いつも、他人に嫌われることを恐れていた。
どこか世の中をなめていたバカな女の子。
名前、黒羽 皐月。
期待に応えたい。
嫌われたくない。
人によく思われたい。
そういうのって誰にもある感情でしょう。
そういうのを持ってない振りをして行動していたらきっと苦しくなってしまうと思う。
なのに……そうやって嫌われないように、見捨てられないように頑張っていたのに……神様、私はこんなにも押しつぶされそうです。
精一杯、自分を守ってきたはずなのに……おかしいな。
あの頃の私はお人よしで、優柔不断で、人に合わせてばかりいる女の子だった。バカな子供だった。
高校2年生になった時、私はアルバイトを始めた。
「ちょうどよかった。人手不足で困っていたの」
……そう言って……私は週7日間バイトをいれさせられた。
しかも、朝5時からの朝7時までの時間帯だった。
「できそう?学校が始まる前の時間だけどできるよね」
「……はい、できます」
怖いお姉様の目力に負けてそう答えてしまった。
結果、私は毎日4時に起きることになった。
友達はいないわけではないけれど、いつも3人組だった。
つまり、こうなる。
授業中の体育の時間。
「二人組を作ってください」
「あ、皐月。ごめんね」
そう言って仲がよかった二人が体育でペアになった。
「全然、いいよ。私は先生とペアを組むから」
……先生とペアを組むなんて動物園の動物になった気分で嫌だった。
みんなと違う行動をとることが恥ずかしかった。
友達とうまく仲良くできない自分が劣っているような気分に陥った。
小学生の頃から夜はベッドに入ってからも1時間以上は眠れない日々が続いた。
友達に本当は嫌われているような気がしたり、あの時の自分のセリフはだめだったんじゃないかと思ったりして眠れなかった。
学校へ行きたくないな。
明日は熱になりますように。
でも学校へ行かなくてみんなに仮病じゃないかって思われるのも嫌だ。
中学校の頃から好きだった男の子がいた。名前は森下 達也。
ある日友達がこう言った。
「私、達也君のことが好きなの。応援してくれる?」
「もちろん」
私は笑顔で答えた。ハリウッド女優級の素晴らしい演技だったと今でも思う。
「皐月は好きな人とかいるの?」
「いないよ」
……そういう子だった。
今月はお金がない。
大体他人よりもお小遣いが少ない。
「ねえ、今日の放課後。みんなでおそろいの服を買いに行こう」
智香が私たちのグループにそう語りかけてきた。
私は、お金ががないから断らないと。
そう思いながら、言葉にすることができなかった。
人と違った行動をすることが怖かった。
結果、私は買いたくもない服を着るためにお年玉に手を出した。
夜になって泣きながら服をベッドにたたきつけた。
いい人とかお人よしというのは、いつも損をする。
他の人がいい思いをする踏み台になるだけだ。
自分の意見を言えない子なんてただのバカだ。
なのにいつもと違った行動をとることを恐れた。
テレビを検索すると人気絶好調のアイドルがストレスのあまりうつ病になったと報道されていた。
きっと彼女も大変なんだろう。
どこか輝いて見える人も、苦労しているんだと知るとほっとした。
嫌な奴だな。
そう思いながらもそれが自分だと諦めていた。
そんなある日、私は一冊の本に出会った。
本のタイトルはGone with the memory.
ヒロインは、セイラ・ミルフィーユとノエル・アンショー。
私は、ノエルにとても憧れた。
自分とは全然違って、生きたいように生きるその姿を尊敬した。
もしも、私がノエルに生まれ変わったらあんな風に生きるのに。
いや、もっと自由に生きるのに。
憧れはいつしか願いに変わった。
段々、私は変わっていった。
悪女であるはずの彼女が私の中にヒーローになって
自分がひどくちっぽけな人間に思えて
ひどく被害者ぶりながら
必死で言い訳をして今の生き方をしょうがないと正当化していた自分が
ひどくダメな存在に思えた。
それは突然訪れた。
いつものように私はバイトを終えて家へと帰宅しようとしていた。
「じゃあ、明日もバイトよろしく」
「……はい」
そう言いながら、私はブラックバイトから出ていった。
その時心の声がした。
あんたは一生そのままでいいのか?
ずっと人に譲って損をしていていいの?
そんな生き方で満足なの?
あの時、私の中で何かが壊れた。
私は気が付いたらバイト先へと引き返していた。
読んでくださり、ありがとうございます。




