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貞操逆転世界にTS転生したのってハードモードでは?俺前世でそんな悪いことした?  作者: スノーマン
幼少編

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10/13

フィクションだと楓って名前は多いけど、現実だといないよね?

俺たちの住むこの田舎には、保育園も幼稚園もない。何せ、周囲は田んぼとビニールハウスしかないような場所だ。子どもの数も少く、保育施設はおろか公園さえ存在しない。

だから俺たちは天使の農作業中は畑で遊ぶことになる。ナチュラルに遊ぶって思考になるの怖い。もう社会人には戻れないな。戻りたくもないけど。扶養されるの最高!地元最高!


「ここで遊んででね。遠くにいっちゃダメよ?」


そう言って、天使は農作業を始める。うちはイチゴ農家である。字面だけなら天使にピッタリすぎてビビるかもしれないが、実態は過酷である。力仕事も多ければ泥だらけにもなる、つまりは華やかとは程遠い、泥臭い仕事である。


季節は秋。今は育った苗をビニールハウスへ移植している。機械を使わず、自分の目と手で剪定しながら、一つ一つ丁寧に植え替えている。

その真剣なまなざしはまさに職人。凛々しすぎてつい見惚れてしまう。俺じゃなきゃ惚れてしまうね。

なぜ俺は大丈夫なのかって?もちろん既に惚れているからだ。


飛鳥さんも一緒だ。2人で畑仕事をしながら、俺たちの様子を時々見守っている。小鳥遊家とは、まるで一つの家族のような付き合いである。

……実は夫婦だったとか言わないよね?たとえ飛鳥さんでもうちの天使はやらんぞ!


そんなバカなことを考えつつ、雀と畑の隅で遊ぶ。

この辺は剪定された後の苗の残骸が残るのみであり、今年度はもう踏み荒らしてもなんの問題もない場所だ。

そんな場所で2歳児が何をするのかといえば、みんな大好き昆虫採集である。子どもはみんな虫が好きなのだ。前世での小学生夏休みの記憶を探ると、ほぼほぼ虫取りしかしていない。

……ただ単に古の記憶すぎて、何していたか覚えていないだけだなこれ。


過去なんてどうでもいい。いまが大事。

そして今、これがなかなか楽しい。

大人になってからは虫など触ることもなかった。生活スペースを犯してくるやつらなんて見たくもなかったし、外で大合唱している種類のやつらも、風情を感じるよりうるさいと思う気持ちの方が優ってしまう。


しかし、何故かこの小さな体で虫を探すのは、意外と楽しい。時には土を掘り返し、大きな石をどけ、草をかき分ける。そこには結構な数の小さな生命が息づいている。


「かえちゃ、みて!」


雀がそう言って、何かを持ってくる……うわぉ。でっかいミミズだった。いや、ほんとにデカいな?

俺や雀の首になんなく巻けるくらいはでかい。

そしてめっちゃ元気に暴れてる。流石にこの大きさはキモいな。ちょっとドン引き。おい!ミミズ!ちょっとなのか、ドン引きなのか、どっちなんだい!


「すーちゃん、それミミズだよ」

「みみず?」

「うん。普段は土の中にいるんだよ」

「すごいね!」


雀は目を輝かせている。その純粋な反応に俺は少し和む。たとえキモサイズのミミズを鷲掴みにして、握った拳の両端からミミズが全力で暴れ回っていようとも、雀の可愛さに和めるね!


それにしてもまじでめっちゃ暴れてる。なんか紐状の武器を使ったスキル発動中では?と一瞬思ってしまう。残像しか見えないくらい早いぞこいつ。

この畑の主だったりする?早くリリースした方がいいのでは?


暴れるミミズをものともせず、ニコニコしている雀と、しばらく無言で見つめ合う。

……とてつもなく嫌な予感がする。心なしかこちらに差し出している気がする。

現実逃避はやめよう。間違いなく差し出している。やめてほしい。いや本当に。


「かえちゃ、あげる!」


トドメの一撃!2歳児に空気を読んでと期待するのが間違いだった。

受け取るしかないのか……何か、何か手は無いのか。諦め……た。そこで試合終了です。

だって雀の顔が悲しみを帯びてきたんだもの。完全負け試合です。


「……ありがとう」


俺は受け取る。暴れ続けるミミズ。というか勢い凄くない?俺の力では結構辛いんだけど?

俺の親指位の太さあるぞ?この世界ではこれが普通なの?私の常識、低すぎ?

というか、力加減が難しい。下手につぶしてしまったらと考えると絶望しかない。

2歳児は手加減できないんだよ。我ながら力加減下手で!もう伸びしろしかないのよ!下がないという意味で!


なんて、馬鹿なことを考えているうちに耐えきれず、ミミズを逃がしてしまう。

わざとじゃないんだ。ほんとだよ?試合終了した(諦めた)だけだよ?


「あー!逃げた!」


残念。魔王からは逃げられない!ミミズは回り込まれてしまった!

とか言ってる場合じゃない。再捕獲を何とか阻止しないと。

またあの太くて長くてヌメヌメしたものを握らされる!女の子なのに!


「すーちゃん、潜っていくとこ見よ!」


完璧な提案。さっき土の中にいることを教えた時、目を輝かせていたことを思い出した。

……問題は、何度か見たがる可能性があることだ。その場合、このミミズは潜った途端掘り起こされ、否が応でも地上に舞い戻されるであろう。同情するよミミズ。お前のことは視界からいなくなるまで忘れない。色んな意味で薄情な俺を許せ。


結局、みみずに飽きるまで5回ほどキャッチアンドリリースが繰り返された。

最後の方は動きが緩慢になってたので、こいつも試合終了したのかもしれない。


***


「かえちゃついてこないで!」


おっと。さっきまでニコニコしていたのに、イヤイヤが始まった。可愛いけど、めんどい。

ふっ。2歳児とは言え、立派な女の子だな。将来はきっとあまたの男を振り回すことであろう。

……この世界では無理か。そんなふうになって欲しくはないしな。


俺は雀を見守るために、いつも彼女の後をつけまわしている。

何かと心配性なのだ。雀が何か危険なことをしないか、変なものを口に入れないか転んで怪我をしないか。そんな心配で、彼女の後を追いかける。要は過保護である。


しかし、雀はそれがたまにウザくなるらしい。2歳児にして思春期を迎えている。

世の中のパパたちは。めげずにぜひとも頑張ってほしいものだ。俺はめげない。

パパでは無いけど。前世でも独身だったけど。


じゃあ何がめんどくさいのかと言うと、追いかけることがである。

フィジカルお化けVS引きこもり幼女。どちらが逃走劇で勝つか、天使(固有名詞)が天使(代名詞)であることより明らかである。

それでも俺は走る彼女を追いかける。よちよち歩きで。ええい、2歳児がそんなに速く走るな。

そして持ってくれ俺の足!既にガクガクしているけれども!


「すーちゃん待って!」

「やだ!」


……間髪入れずである。むしろかぶせ気味でもあった。骨の髄までイヤイヤ期である。


「どこ行くの?危ないよ!」

「すー、ひとりでできるの!」


何をですかね?一体何を思い立ってしまったんだ。

トイレに行きたいとか、手を洗いに行きたいとか、お腹が減ったとか、まともなことであればまだ良いのだが、雀はたまにとんでもないことを思いつく。

蜂を追いかけ巣を見つけたり、野良猫をどこまでも追いかけようとしたり、お隣の牧場まで牛を見に行こうとしたり。最後のは牛乳目当てだったそうな。食いしん坊ってかわいいよね。


その自立心と好奇心は素晴らしいと思うが、二歳児はできなことの方が多い。

もはや、やる気と元気が空回りしている動物である。いや、雀はなんだかんだ本当にいろいろできてしまう。前世の記憶での普通の2歳児と比べてだが。

勝手口の鍵を開けて外に出ることもできてしまう。危うく大惨事になるところだった。俺が必死に止めたが、彼女は「おさんぽいく!」と引かなかった。最終的に天使が騒ぎを聞きつけて、何とか気を逸して止めることができたが、あの時は本当に冷や汗をかいた。


そんな苦労が絶えないイヤイヤ期であるが、自我の成長を伺えるし悪くはないと思ってしまう。

むしろ、いい。いいぞもっとやれ。もっと成長するんだ。そしていつか俺を越えてみろ!

なぜか、破滅願望のある敵のボスムーブになってしまった。解せぬ。


「かえちゃうざいの!」


そう言われると少し傷つく。いや、二歳児に「うざい」と言われる日が来るとは思わなかった。前世では、女性から避けられることはあっても「うざい」と言われたことはなかった。いや、陰で言われていたかもしれないが。しかし、面と向かって言われるとやはり堪える。

全国のパパ、オラに力を分けてくれ!というか、全国のパパはこれ(娘からのうざい)に年単位で耐えてるの?耐久力のステータスえぐくない?防御極振りなの?こっちの楓は紙装甲ですけど?


泣きそうになりながら必死に追いかけてるうちに「うそ。かえちゃすき」と言って近寄ってくる。雀は「全く私が面倒見てあげなきゃなぁ」という顔をしている。

…… 2歳児に憐れまれる49歳児爆誕である。違うんだ。俺はまだ頑張れた!勝負はついてなかった!

でもおとなしく終戦を受け入れておく。心は大人なので。しょうがないなぁ。決して息も絶え絶えだからではない。肩で息をしているのも気のせいです。

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