#08. Zデイから五五日目 『剣客商売』
彼女を見たとき、私が最初に思ったことは、「すごい、侍がいる!」というものだった。
それも、ただの侍ではない。なんと、女子高生の侍なのだ。
「なにあれ! JKだ、JK! 侍JK!」
はしゃいで、騒いだ。まるで大好きなアイドルを見る、熱心なファンみたいに。
そのくらいに、格好良かった。
黒のセーラー服に、目が覚めるような真っ赤なタイ。
そして手にしているのは、日本刀。
その刀で、少女が、ゾンビの群れを斬り払っているた。
ゾンビの群れは、全部で三〇体ほどもいるだろうか。
半分囲まれているような状態でも、JK剣士は怯む様子がない。
「なんか、こんなの見たことあるような気がする……映画だったかな? いや、持っていたのは日本刀じゃなくて、銃だったっけ?」
朧げな記憶を掘り起こそうとしたけど、無理だったよ。
とにかくそれは、あまりに現実感のない光景だった。
私は慌てて、屋上のフェンスに立てかけておいたライフルを手にした。
立ち膝の姿勢になって、フェンスの上部に銃身を乗せ、スコープを覗く。
ここのところの訓練で、大分銃の扱いにも慣れてきた、と思う。
それなりに落ち着いて、私はゾンビに照準を合わせた。
「それにしても、ゾンビの数が多すぎないかな!?」
侍女子高生は、また数体のゾンビを斬り捨てたが、それでもまだ、ゾンビはたっぷり残っている。
多分、ずっとゾンビの群れと戦いながら、こんな山の中まで逃げて来たんだろうね。
どこからやって来たのかはわからないけれど、あんな数に囲まれるなんて、あの子は相当に運が悪いと思う。
だってさ、この辺りは世界がこうなる前から、あまり人気のない場所なんだよね。
ということは、必然的にゾンビの数だって少ない。人の死体がゾンビ化するんだから。
そうそうゾンビの群れに出会うことなんて、ないはずだ。
ひと月半前、私がこの『要塞』に来たときに襲ってきたゾンビだって、たった二体だったからね。
それでも私にとっては十分脅威で、命からがらようやくここにたどり着いたんだけど。
もし私が彼女のようにゾンビの群れに襲われていたとしたら、あっと言う間にムシャムシャされていたに違いない。
その私とは比べものにならないほどの戦闘力を、目の前の侍女子高生は持っている。
恐らくは疲労によって――少しふらつきながらも、太刀筋に淀みはない。
女子高生が真横に刀を振るうと、また一体、首を刎ねられたゾンビが前のめりに倒れた。
「……本当に、池波正太郎の『剣客商売』に出てくる腕利きの剣客のような女の子だね」
私は、数年前に読んだ大御所作家の時代小説を思い出した。
簡単に言えば、腕利きの剣客が、(主に)江戸を舞台に活躍する時代小説、ということになるだろうか。
小説の中には男顔負けの女剣士も登場するんだけど、女子高生のお侍さんもそれに負けないくらいに凄腕だね。
「うーん。これじゃあ、世界のジャンルが、ホラーから時代劇に変わっちゃうね?」
もともと動きの鈍いゾンビでは相手にもならないようで、こうして私が見ている間にもバッタバッタと斬り倒しているのだが、それでもさすがに相手が多すぎるようだ。
前後左右から間断なく襲い掛かかってこられれば、腕利きの剣士だろうと、苦戦してしまう。
「あ、危ない!」
一体のゾンビが、女子高生の後ろから、首筋に噛みつこうとしている。
それに気づいた私は、咄嗟にライフルの引き金を引いた。
「あっ! ヤバッ!」
そしてその瞬間、血の気が引いた。
ある程度銃に慣れたとはいえ、私の狙撃手としての実力なんか全然たいしたことはないんだよ。
三〇メートル先の目標を狙い、二メートルほど的を外すことだってしょっちゅうだ。
その程度の腕なのに、無謀にも女子高生のすぐ後ろにいるゾンビに向かって銃を撃ったのだ。
狙いが外れて、守ろうとした女の子に当たる可能性だってかなり高かったに違いない。
だが、このときに限っては、幸運にも上手くいった。
私の撃った銃弾は、狙いを外れずにゾンビの頭部、こめかみのあたりにに丸い穴を穿ったのだ。
いっそ奇蹟的と言ってしまいたいほどに、素晴らしい幸運だった。
これで私は、一生分の運を使い切ってしまったんじゃないかな?
「もしかして、これが火事場の馬鹿力ってやつ?」
弱点の脳を撃ち抜かれたゾンビは、仰け反って後ろに倒れる。銃声に驚いたらしい女子高生は、キョロキョロと周りを見回した後、私のいる『要塞』の屋上に視線を向けた。
私が軽く片手を上げて見せると、侍の女子高生は小さく笑みを浮かべて目礼した。
ところが実際は、自分が今、私に殺されかけたなんて夢にも思っていないだろうね。
それから約一〇分後。
さっきまで元気に動いていた死体たちは、ただの動かぬ屍となって横たわっていた。
侍女子高生はもう立てない程疲弊しているようで、私の『要塞』を囲むコンクリート塀に背を預けて座り込んでいる。
意識があるかどうかも定かではないが、それでも刀はちゃんと握り締めているようだ。
さすがにそんな彼女を見捨てる気にはなれなかった。
私は、割と薄情な人間だけどね。今までも、避難民を居留守でやり過ごしたことだって何度もあるよ。だけど、このときはどういうわけか、放っておく気にはなれなかったんだよね。
侍のような女子高生に好奇心を刺激されたから、かもしれないね。
私はエレベーターで二階に下り、そこからさらに梯子を使って一階に下りた。
普段はただの壁に偽装してある扉を開けて、『要塞』を出た。
ひと月半前にこの『要塞』に着いてから、こうして建物の外に出たのは数えるほどしかない。
それも大抵は、生ゴミを庭の隅に置いてある焼却炉で燃やすためだ。
要塞を囲む塀の外までは、まだ一度も出ていない。
今までずっと私は、安全な『要塞』の中に引き籠って毎日読書ばかりしていた。
「当然だよね。だって誰も好き好んで、ゾンビだらけのお外に出たいなんて思わないもんね」
いや、私だってね。いくらインドア気質とはいえ、さすがにひと月以上外に出ないなんてことはないからね。普段だったら。
そりゃ多少は外に出て、散歩でもしたいと思うことはあるよ。
でも今は、外をゾンビがウロウロしているご時世だからね。
ゾンビにムシャムシャされることを考えれば、外に出れないストレスなんか大したことじゃないもんね。
「ただし、読む本がある限りにおいて、だけど」
この『要塞』にある本をもし全部読み終わってしまったなら、多分私は新しい本を求めて、外に出ると思う。
さすがに読む本もない家の中にずっと閉じこもっていられる自信はないよ。
逆に言えば、本さえあれば引き籠り生活にもなんとか耐えられる。
そのくらい今の私にとって、本というのは重要なのだ。
人はパンのみにて生きるにあらず。娯楽は大事。
外に出た私は、門へと向かう。
さっき上から見た限りでは、もうゾンビは全て片付いていた。
だから大丈夫のはずだけど、それでも恐る恐る、門を操作して少しだけ隙間を開けた。
その隙間から頭を出して周囲を見るが、やはり動く者はいない。
「よし、と。……今の内だね」
今は危険はなさそうだけど、でも急がなくっちゃね。
いつまたゾンビとか、おかしな人間がやって来ないとも限らないのだから。
私は身を屈めながら、侍女子高生がいた場所に向かって走った。
すぐに彼女の姿はみつかった。
さっき上から見た通りの姿勢で、塀に寄りかかったままピクリとも動かない。
私はもう一度周囲を見回して、動くものがないのを確認してから、少女の傍にしゃがみ込む。
「ね、あなた、大丈夫? 生きているよね!?」
頬をぺちぺちと叩いてみるが、反応がない。
息をしているか確認しようと口元に耳を近づけてみると、確かに小さな呼吸の音が聞こえる。
「よしよし、ちゃんと生きてるな!」
ゾンビに噛まれている可能性はあるから、油断はできないけどね。
彼女に肩を貸して支え、なんとか立ち上がらせる。
「……ぅぅ」
どうやらまだ、侍JKは意識が朦朧としているようだ。小さく呻き声をあげるが、それだけだ。瞼は閉じたまま開こうとはしない。
「ほら、しっかりしなってば! いつまでもこんな場所で座り込んでいたら、すぐにまたゾンビが来るぞ!」
励ましつつ、ヨロヨロと歩き出す。
一歩一歩時間をかけて、なんとか門まで彼女を運んだ。
僅かに開いた隙間から『要塞』の敷地の中に彼女を押し込むと、私も中に入って、門を閉じる。
「ふううぅ、疲れた……」
門が閉じきると、私はようやく、安堵の吐息をついた。
緑の草地の中に横たわる侍女子高生を見下ろした。
ポニーテールの黒髪が、汗と埃で艶を失っている。
肌にも土がこびりついているし、ところどころ擦り傷があって血が滲んでいるね。
文字通り、満身創痍でようやくここまでたどり着いたんだろう。
今は疲労のせいか完全に意識を失っていて、とても起きてくれそうもない。
「……はぁ、どうしよう? まさかこのまま地面の上に寝せておくわけにもいかないよね?」
これから彼女を『要塞』の中に運び入れることを考えると、憂鬱になってくる。
私一人で彼女を中に運び入れるのは、簡単じゃない。きっととんでもない重労働だよ。
とはいえ、彼女が意識を失っていることはある意味では幸運なことだと思う。
さもなければ、私は彼女に銃を突きつけ、言わなければならなかった。
「手をあげて」
「武器を下に捨てて」
「今すぐこの場を去るか、この手錠を自分で着けるか、選んで」
それはどう考えても、楽しいことじゃないからね。
しかし、私の身の安全を考えれば必要なことだ。
彼女がどういう人間かわからないのだし、既にゾンビに噛まれている可能性だってあるのだから。
「そういや、故・久我氏の作った、この『要塞』の中に人を受け入れる際のルール、なんてのもあったっけ」
『要塞』の前の持ち主が定めたルールによると、訪問者を受け入れるのには厳しい条件が色々とある。
「ルール①、基本的にはこの『要塞』には誰も入れないこと。……まぁ私もそれには賛成なんだけど、この場合は仕方ないよね」
見ず知らずの他人を中に入れて、限りある食料その他の物資を分け与える気には、あまりなれないんだよね。
人にあげた分、当然ながら自分の取り分が減るからね。
私は百日分の食糧があれば、百人で食べて次の日に全員が飢えるより、独り占めして百日生き延びることを選ぶ人間だよ。
未だ目を覚まさないセーラー服姿の少女の顔を、至近距離から覗き込んだ。
まつ毛は長い。鼻筋はまっすぐで、小さめ。唇は薄い。
「泥だらけだけど、うん……すっごい美少女だね」
きっと久我氏が生きていたら、喜んで『要塞』の中に招待しただろうね。
「さて、じゃあなんとかこの子を運びますか……」
なんかあまりに大変そうで、やる前からもう疲れた気分になるけどね。
◇◆◇◆◇◆◇
――ぜいぜい、はぁはぁ。
私は、床に四つん這いになって荒い息を吐いた。
「マ、マジできつかった……」
なんとか侍女子高生の彼女を『要塞』の二階に運び上げたのだが、それは私にとってはとてつもない難行だった。
ここは『要塞』という名称が示す通り、利便性よりも防御性能が優先された建物だ。
建物の中に入るドアは巧妙に隠されているし、さらにそこから二階に上がるのにも、階段とかエレベーターのような通常の手段は用意されていない。
それ自体も隠されているコンソールを、ある手順で操作すれば、上から梯子が降りてくる仕組みになっているのだ。
そして意識のない人間を担いで梯子を上るのは、そう簡単なことではなかった。
私は二人を結んでいた縄を解き、背負っていた彼女を床に下ろす。
そして仰向けになって目を閉じる。
自分の胸が、大きく上下しているのがよくわかる。
酸素が足りない。
肺がなんとか血中に酸素を取り込もうと、必死に働いている。
「な、なんでこんな、……山岳救助隊みたいなことを私がやらなきゃならんのよー……」
泣き言じみた愚痴が、口をついて出る。
自慢ではないが、私は生粋のインドア派だ。引き籠りだ。
肉体労働は専門外なのだ。
息が整うまで、数分もかかった。
私は額の汗を拭いつつ、上半身を起こした。
隣を見下ろすと、セーラー服の少女がしどけなく横たわっている。
スカートは大きくめくれていて、もう少しで下着が見えてしまいそうだ。
それを一応直してあげてから、私は部屋を出る。
『要塞』の二階にある施設は、大きく分けて二つ。ひとつは様々な物が格納してある倉庫。
そしてもうひとつは、――監獄だ。
私はまず倉庫に入り、台車を押してさっきまでいた部屋に戻る。
意識のない少女を、まるで荷物のように台車に乗せて、運んだ。
梯子の部屋を出て、次に向かうのは牢屋だ。
「ルール②は、要塞内に人を入れるときは、必ず厳重な身体検査をすること」
パスワードを入力して、牢屋へと続く扉を開ける。
鉄格子がいくつも並ぶ、牢屋の中から一つを選び、中に少女を運び込んだ。
「ルール③。身体検査をした後でも、まずは牢屋に入れて、最低一〇日間放置すること」
故・久我氏の決めたルールは、安全性という一点において、確かに合理的だ。
ゾンビに噛まれていないか、検査する必要はあるし、一〇日放置するのも事故を防ぐための安全策として効果的だ。
牢の中のベッドに、彼女を寝かせる。
台車を外に出してから、再び彼女の側に戻って来た。
「ごめんなさい。寝ているところ本当に申し訳ないんだけど、身体を調べさせて貰うね」
意識のない彼女に向かって手を合わせて謝ってから、私は彼女の服に、おそるおそる手をかけた。
「悪いけど、これは必要なことだから。決められたルールってのを抜きにしても、ゾンビなんかに噛まれていないか、調べないとダメなの。許してよね」
誰も聞いてはいないのに、ブツブツと言い訳を呟く。
同じ女でも、これは絶対ダメだろう。そんなことは重々わかってはいる。
だがそれでも、やはり必要なことなのだ。
単純に意識のない彼女の、怪我を確認する意味も、あるといえばある。
もちろん、主な理由は、彼女が既にゾンビ予備軍になっていないか調べることだけど。
彼女を全裸にしてから、慎重に、そして徹底的に傷や痣を調べていく。
それこそ、髪の毛をかき分けて頭皮までしっかりと確認した。
結果は、擦り傷以外に目立った外傷はなかった。ゾンビに噛まれてはいないようだね。良かった良かった。
深い傷はないようだし、血も既に止まっている。
それでも一応、簡単な手当てをした。
意識がないのは、やっぱり疲労が原因だろうね。もちろん医者じゃないから、確定的なことは言えないけどさ。
目視でわかる範囲は全てしっかりと調べてから、彼女に新しい下着と、飾り気のないグレーのトレーナーの上下を着せた。
少し心配だけど、外傷はないんだから、これ以上私にできることはない。
薬の備蓄はかなりあるけれど、適当に使って逆効果になるほうが怖いからね。
取りあえずあとは、意識が戻るのをおとなしく待つしかないだろう。
牢屋を出て、しっかりと錠をかけてから、台車を押して牢区画を出る。
牢区画の扉もまた施錠して、ようやく一仕事終えた。
「この『要塞』の初めてのゲストが、お侍さんとはねー」
しかもセーラー服の侍だ。まったく世の中、なにが起こるかわからない。
そのセーラー服を含めて、彼女が着ていた衣服を洗濯室に放り込み、それ以外の彼女の持ち物――携帯や財布、それに刀などだ――を持って、私は階段を上る。
三階の自室に着くと、机の上に彼女の持ち物を置いて、刀だけを手にベッドに座る。
鞘に収められた刀を、ゆっくりと抜いてみる。
「うっ! 臭い、汚い!」
ギラリと光る鋼には、黒いタールのようなゾンビの血がべっとりと付着している。
「そりゃ、刀を拭く暇なんかなかったよね。うえぇ……」
まるで腐った魚かなにかのように、酷く生臭い。
刀身を鞘に収めて、私は寝室の外に出た。あまりに臭かったので、寝室の中に置いておきたくなかったのだ。
どこに置くか迷った挙句、私はトイレの傍の壁に立てかけておくことにした。
多分、持ち主の彼女がこの扱いを知ったら怒りそうだけど、仕方ない。目が覚めた後、自分で手入れして欲しい。はっきり言って、私はご免だ。
「チェッ、本物の刀にはちょっとばかり興味があったのになぁ」
あれではとても、ゆっくり眺めることなんか不可能だ。
ちょっと鞘から出しただけで吐き気がしたくらいなんだから。
「代わりにお侍さんが出て来る小説でも読むかな」
私は本棚から、一冊の本を抜き出した。
池波正太郎著、『剣客商売』とある、文庫本だ。
さっき生で女剣士を見て思い出したこの本を、もう一度読み返してみたくなったのだ。
十六巻まであるシリーズで、その一作目から女剣士である佐々木三冬が登場する。
「強い侍女子、格好良いよねー」
今日見た侍女子高生も、ものすごく格好良かった。
時代劇の殺陣を、生で見たような気分だ。
刀を振り回して、ゾンビの首をいくつも、まるで林檎かなにかのように斬り落としていた。
当たり前だけど私にはとても無理だ。私にできることは、『要塞』の屋上からライフルで狙うことくらいだ。
それだって、最初は随分、撃つことを躊躇った。銃を使うなんて怖かった。
それでも必要だからと何度も練習して、ようやくある程度ライフルを撃てるようになったのだ。
まだまだ命中率は低いけどね。
「すごいよね。ゾンビに囲まれて接近戦しちゃうんだから」
どうしてああいう状況になったのか、目を覚ましたら彼女に訊いてみたいところだ。
文庫本をパラパラとめくり、見たかった三冬の活躍する場面を開く。
三冬は作中で、老中田沼意次の庶子として、第一話から登場する。
大きな剣術道場の門人で、中でも屈指の腕前の女剣士だ。
もちろん主人公である秋山親子には敵わないけれど、それでも彼女が活躍するシーンは読んでて楽しい。
男顔負けに強い女剣士なんか、好きにならないはずがない。
残念ながら、三冬は結婚してからは落ち着いてしまって、あまり剣士として活躍する機会はないんだけどね。
「この本って、剣士たちの活躍もいいけど、出て来る食べ物とか、江戸時代の暮らしの描写も面白いんだよね」
実際、この本に出てきた料理を自分で作ってみたこともある。
といっても、作中にレシピがのっているわけではないので、作り方は適当にネットで調べた。だから恐らく、当時のものとはまた違うだろうけどね。
三冬の活躍を読み返して満足すると、私はもう一度様子を見に牢へと行った。
だが、侍女子高生はまだ目を覚ましてはいない。
少し考えてから、私はメモ用紙に言伝を書いて、牢の中に差し入れておいた。
言伝の内容は、次のようなものだ。
『こんな場所に入れて気を悪くしたと思うけど、安全のために必要な措置なので、許してください。朝にまた様子を見に来ます』
こんなメモ一枚で安心してくれるとは思わないけれど、ないよりはきっとマシだろう。
牢の中の簡素なベッドで、死んだように眠る彼女を残して、私はその場を後にした。




