↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/7

5.「会食」


珍しく結が会食に参加することになった。

部長・赤木からの、絶対命令…


「縁原くん、君がいると自然とうまくいくんだよな。次期プロジェクトの発足会も兼ねた顔合わせだから、ぜひ来てくれ」


(俺がいると自然にって……そんなことあるか?

 いや、あるのか……めんどくさい)

ため息まじりにジャケットの襟を直す。めんどくさがり屋の真骨頂である。


会場は神宮寺ホールディングスが手掛ける会員制レストラン。

重厚すぎず、落ち着いた雰囲気のフランクな高級店だ。


神宮寺サイドからは部長・早川や課長をはじめ数人。

黒瀬サイドも同様の顔ぶれに、結が加わっていた。


(ん?プロジェクトリーダーは仕事するの初めてだな…

まぁ、他のメンバーは何回か仕事してるし大丈夫そうかな…)


そんな事を考えながら、会食が始まる…


同じ店のホールでは…


玲花、美咲、澪の三人が女子会を楽しんでいた。

玲花の行きつけで、ワインと料理をつまみながらの談笑。

とりわけ美咲の天然発言に二人が笑う、和やかな空気が流れていた。


ふいに、玲花の表情がきゅっと引き締まる。


「……どうしたの? 玲花ちゃん、顔が凛々しくなったけど」

美咲が首を傾げる。


「商社の常務がご来店ね」

玲花が低くつぶやいた瞬間、美咲が手を打った。


「あっ! 会食あるって言ってた! 神宮寺グループ系のお店でって……ああ、ごめん玲花〜!」

「でた! 美咲さんの天然!」

玲花はぷくっと頬を膨らませる。

澪は肩を揺らし、「美咲さんらしいわ〜」と笑った。


ほどなくして、神宮寺側の部長・早川が常務・松原を出迎えるため個室から姿を現す。

そのタイミングで、個室の扉越しに女子会三人組と結が目を合わせた。


「……」

一瞬の沈黙。美咲は完全に「やっちゃった」顔。

結は呆れたように眉をひそめる。


(あの子は…少し前、暗がりの路地裏で少女に見えたが、堂々たる立派な女性じゃないか……。やっぱり表と裏の顔があるんだな)

玲花をちらりと見やり、結は心の中でそうつぶやいた。


赤木部長も顔を覗かせ、美咲に気付き、軽く手を上げる。


「……水瀬くんいるね。お友達と一緒みたいだね」

「…そのようで」

結は素っ気なく答えた。


そこへ松原常務が現れる。

視線の先に玲花を見つけた途端、足を止め、直立不動となり、深々と頭を下げる。


「ごきげんよう。松原常務、早川部長。お気遣いなさらず、この場の空気を読んでいただけたら助かるわ」

玲花がにっこり微笑むと、常務の表情が和らぐ。


「かしこまりました。では失礼します」

常務は丁寧に返答し、そのまま個室へと向かっていった。

(しかし、さすがご令嬢…一介の部長の名前も把握されている…)


早川部長は玲花のことを名前しか知らず、ぽかんとするばかり。

歩きながら松原常務に「あの方は令嬢だ」と耳打ちされ、ようやく状況を理解する。


(ひえっ……令嬢!? プライベート!?なぜ私の名前を…?)

慌てて引き返そうとするも、常務に「空気を読め、と言われただろう」と制される。


出世の差はこういうところに出る――臨機応変さ、空気を読む力。

それがある人とない人では、社内の評価が自然と分かれていく。



会食も終盤に差し掛かり、フロントから松原常務に連絡が入り、結に声が掛かる。


「縁原さん。お開きのあと、水瀬さんの席に寄ってもらえますか」


唐突な内容に、黒瀬サイドは一同ざわつく。


(……え、なにこれ)

結は面倒そうに眉をひそめる。


「常務、それはどういう……水瀬くん?ん?」

赤木部長が不安げに尋ねると、松原常務は簡潔に答える。


「令嬢のご意向です」


一同、驚愕。令嬢?神宮寺のご令嬢がいるのか?


「縁原、何をした!? ご令嬢が水瀬くんの席に? 一体どういうことだ!」

赤木部長は結に詰め寄るが、結はひらりと肩をすくめる。


「いや、水瀬さんが一緒だし、ご挨拶じゃないかな?」

そう言って面倒をかわす。


常務も一瞬「なぜこうなった?」と首をかしげたが、同席していた美咲が黒瀬サイドの人間だと知り、空気を読むことにした…



お開き後、結は女子会三人組の席に呼ばれる。

玲花は柔らかな微笑みを浮かべ、礼を述べた。


「改めて、ごきげんよう。縁原さん。この前は助けてくださって感謝しているわ」

「いや、あのときは……まあ、ちょっとしたことだ」

結は曖昧に笑う。


澪も頷き、「電車の改札でも、ありがとうございました」

結は軽く手を振り、「そんな大げさな話じゃないよ」とフランクに返した。


三人の中で、玲花の財閥令嬢らしい落ち着きと気品が際立つ一方、

美咲の天然ぶりが和やかな雰囲気を作り、澪がさりげなく場を整えていた。



女子会の会話は次第に熱を帯びていく。


「やっぱり、この前の件、変だったよね」

「うん、普通じゃなかった……」


謎めいた誘拐未遂や不自然な状況が話題に上がり、どんどん深掘りされていく。


(……やば。深入りしたら絶対めんどくさいやつだ)

結は心の中で舌打ちすると、椅子を引いて立ち上がった。


「悪い、疲れたから帰るわ」

「えっ、ちょっと!」

「ほんとマイペースなんだから!!!」


三人の驚きの声と美咲のボヤキを背に、結は手をひらひらと振り、そのまま背中越しに去っていった。


次期プロジェクトが静かに動き出そうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。