↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/7

4.「動く」



広告代理店のオフィスは朝から騒然としていた。

電話のベルが鳴りやまず、上司の声が飛び交う。


「納期遅延、商品名の誤記載、さらに企画意図が不明確って……」


資料を眺めながら、結は心底めんどうくさそうに椅子へ沈んだ。


「まさにトラブル三点盛りだな」


そんな彼の横で、後輩の美咲が必死に対応していた。


「結さん、どうしましょう! 先方かなり怒ってて……」

「俺に振るなよ。俺は、めんどくさいのは嫌いなんだ」

「そう言いながら、一番頼りにされてるの、知ってます?」

「……知ってるから余計にめんどくさいんだよ」


口ではそう言いながらも、結は腰を上げる。

調整の電話を入れ、謝罪文をまとめ、部署間の摩擦をうまく丸め込む。


結の手にかかると、午前中に荒れ狂っていた社内の空気が、夕方にはどうにか落ち着きを取り戻していた。


「はぁ……疲れた」


机に突っ伏した結の耳に、弾んだ声が届く。

「――あ、レイカ?」


美咲がスマホを片手に笑っている。

「レイカ?」結は顔を上げる。

誰のことか分からず、眉をひそめる。


通話の途中で、美咲の表情が急に曇った。

「……え? 本当に? ……うん、わかった。すぐ行く」


電話を切ると、結がぼそりと聞いた。

「なんか、面倒そうな話だったな」


「玲花からで……」美咲はスマホを見つめながら答える。

「神宮寺玲花。大学生の頃、私が家庭教師してたんです」


「神宮寺……? あの神宮寺財閥の?」

結の眉がわずかに動く。

「そうです。今でも妹みたいな存在で……」


財閥の令嬢。自分とは縁遠い存在だと思っていた名前が、唐突に身近な距離で語られたことに、結は内心ざわつきを覚えていた。


美咲は小さく息を整え、不安げに続ける。

「その玲花の親友の澪さんが、最近誰かにつけられてるみたいなんです。相談に乗ってほしいって」

「よくある話だな」結はあくびをかみ殺す。

「結さんも一緒に行きません?」

「やだ。めんどくさい」

あっさりした返答に、美咲は苦笑い。

「ですよね……」



---


夜。

仕事帰りの街を歩いていた結は、ふと路地裏で見覚えのある三人を見つけた。


美咲と、財閥令嬢・玲花。

その隣に立つのは、澪――落ち着いた雰囲気の女性だ。


(……なるほど。あれが澪か)


しかし彼らの背後から、数人の影がじりじりと迫ってくる。

視線、歩調、空気――どう見てもただの通行人ではない。


「……はぁ」

結は面倒くさそうにポケットに手を突っ込んだ。


次の瞬間。


「……あれ?」

玲花がきょろきょろと辺りを見回す。

背後にいたはずの男たちの姿が、一瞬で消えていた。


「え? 澪、今いたよね?」

「う、うん……確かに……」


男たちはというと――。

気づけば、街外れの交番前にドサッと転がっていた。


「な、なんだここ!?」

「え、俺たちさっきまで……!」


大声に気づいた警官が飛び出してくる。

「おい、何をしている!」


混乱する男たちはそのまま取り押さえられていった。

――全ては結の瞬間移動の力によるものだった。


路地の奥で一部始終を見届け、結は小さくつぶやく。

「……はい、事件解決。めんどくさがり屋的ベストアンサー」


瞬間移動で自宅のソファに戻ると、彼は缶ビールを開けた。

「俺の週末は……やっぱり休ませてくれないんだよな」



---


翌朝。

美咲は小さく笑いながら結に話しかけてきた。


「昨日のこと、警察もすぐ動いてくれて、澪さんたち安心したみたいです」

「へぇ……よかったな」

「……結さん、もしかして――」

「俺は何もしてないぞ。めんどくさいから」


結のそっけない返答に、美咲は肩をすくめる。

ただその表情には、不思議と安心の色が浮かんでいた。


そして同時に、新しい影が街で動き出していた。

裏で暗躍する存在の手が、じわじわと伸び始めていたのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。