60話 覚悟
ドルタは一呼吸置いてから話を再開する。
「そこで君達に頼みがある。
君達の身体に爆弾を付けさせてほしい。
もちろんこれは”創造”の魔術で創るので、任務終了後は自然に消滅する。」
ドルタがそう言うと、一応私語は禁止であるにもかかわらず、兵士達は口々に話を始めた。
その内容は、その作戦に対する文句ばかりだ。
それもそのはず。今ドルタが言った作戦とは、魔王と遭った場合は死ね、というもの。
兵士の中には、会議室から逃げ出そうとする者達も現れる。
そこにドルタは、静粛にするように言うようなことはせず、自分の大声で兵士たちのざわめきを掻き消した。
「この作戦は! もちろん紅人達にも同様に頼む!
それほどに今は緊急事態なのだ!!
全人類が一丸となって反撃せねば! 決して魔王ノアは打ち取れない!!
これは命令ではない! だが! どうか頼む!
協力してほしい!」
ドルタは、兵士達の前で精一杯に頭を下げた。
みんなドルタがそこまでするとは思わなかったのか、驚いた様子を見せる。
そのとき、兵士の1人が手を上げた。
「俺は猫の魔獣にすら単独では勝てません。
それと、この前の侵攻で元帥殿と魔王の対決を偶然にも見ました。その時俺は感じました。俺は戦力外だと。
俺が軍になったのは、家族を守りたいからです。
その時は酷く絶望しましたが、これから強くなれば良いとか、確かそんなことを思ってなんとか持ち堪えました。
この作戦に参加すれば、俺は家族を守れますか?」
「もちろんだ! 直接ではないが、君は家族を守れる!」
先程の兵士は少し笑ってから答えた。
「そうですか、なら…僕は参加しようかなと思います。」
その兵士に感化されたのか、他の兵士達も参加を申し出てくれる。
対魔王への兵士は、次々と集まっていった。
〜マゾン大森林〜
魔王ノアは、次の人間を見つけた。また白人だ。
そして、すぐに魔人化する。
今度は、爆発する前に爆弾を取り出すために、魔人の体内に自分の手を突き刺し、爆弾を取り出した。
魔人を破壊させないためだ。
だが、取り出した瞬間、それは爆発した。
そしてその爆弾は、近くの魔人の身体を破壊するのに十分な威力だった。また、魔王もダメージを受け、四肢が欠損してしまう。
「クッ どうしても俺に兵隊を作らせない気か…」
魔王はまた人間を見つける。今度は紅人だった。だが紅人も同じように身体に爆弾を仕掛けており、魔人作成に失敗する。そして次も、その次も…
また、動物の数も明らかに減っている。前までは、山を1分でも動き回っていると必ず1匹は発見できたのだが、今では15分動き回って1匹見つかるか見つからないか、というほどだ。これでは魔獣を思うように増やすことができない。
そして、魔王はここで新たな策を思いつく。
次に見つけたのは5人の白人だった。
魔王は、その5人に気付かれないように接近すると、魔獣細胞で檻を創ってその全員を閉じ込める。
その5人はかなり驚きはあったが、すぐに状況を理解した。
「魔王ノア…これはどういうつもりだ?
何故我々を生け捕る?」
「案外冷静なんだな。理由はシンプル。
お前らの身体にある爆弾を解除させるためだ。
どうせ”創造”の魔術で創ってんだろ?
だったら時間経過で自然消滅するはずだよな?
お前らにあんな複雑な仕掛けが施された爆弾を再構築できるはずもない。
かなり地味で時間がかかるが、これで魔人を創ることができる。」
魔王は勝ち誇ったように笑いながらそう言った。
「…なるほど。魔王殿はどうやらかなり我々の事情に詳しいご様子。
…だが、我々の覚悟を甘く見てもらっては困る。
我々は死んでも貴様を殺す。たとえこの手で叶わずともな。」
兵士の1人がそう言うと、全員が隠し持っていた爆弾のスイッチを押した。
直後、大きな爆音が轟き、兵士たちの姿は跡形もなく消えていた。
魔王はそれを見て小さく舌打ちすると、次の人間を見つけるためにその場を去っていった。
次も白人のようだった。
魔王は今度は自爆される前に、スイッチを奪った。
だが…
『魔獣細胞を検知。ただちに爆発します。』
魔王は驚いて兵士たちの方を見る。
すると彼らは互いに讃え合い、最後の時を過ごすかのように空を見上げていた。
その直後に爆発した。
また、跡形もなく消えてしまっていた。
「クソッ スイッチにも仕掛けがあったのか!」
魔王はイライラして、持っていたスイッチを地面に叩きつけた。
これを受けて魔王は新たに魔人を増やすことを諦める。そして、既に創っていた魔人と魔獣が待機している場所へと戻る。
何人かの高性能の魔人に出迎えられ、玉座に座る。
高い位置に作られたその椅子から、全魔獣と全魔人を見渡す。
その総数は、おそらく1000にも満たない。
当初、攻め入るにあたって想定していた数の10分の1以下の兵力に、魔王は大きく落胆する。
「どうかなさいましたか? ノア様。」
そう聞いてきたのは、元ダブルスターだった兵士の魔人だ。
「ああ…認めよう。少し人間共を甘く見すぎていたようだ。今回俺が減らせた人間共の数は100ちょっと。単純計算だとその数で、こちらの兵隊を9000も削った、と言える。」
元ダブルスターの魔人は、魔王がそう言うと、色々と察したのか、深くは聞いてこなかった。
「少し下に降りる。お前達は来る日に備えておけ。」
「「「はっ!!」」」
そう言うと、魔王は地下へと潜っていった。
魔王が作ったこの隠れ家は、元々は地面だったところを、魔王が土竜の魔獣に作らせた。その最深部は、かなりの深さになっている。
つまり、下に降りる、とは魔王が最深部に向かうことを示している。魔王がこう言うと、部下達は察して付いて来なくなる。魔王がこれを言う時は大抵、イライラしている時などの1人になりたい時だ。
…だが、今回は違った。
道中、魔王は1人になると、不適な笑みを浮かべた。
「覚えておけよ人間共。既に次の策は動き出している。」




