59話 対魔王作戦
軍の本部基地では、2人の兵士がゼルの活躍について話していた。
「あれ、なんかお前久しぶりな気がする。」
「ああ、2連休もらってたからな。確か3日前はお前の方が休みだったろ。」
「ああそうか。最近休み増えたよな?
この忙しい時期に大丈夫なんかね?」
「は? お前知らねぇの?
ゼルだよ、ゼルのおかげ。」
「ゼル? ゼルってあのリッキー平野に行った混血の? あいつがなんかしたの?」
「あいつがリッキー平野での騒動を4分の1以下にまで減らしてくれたんだ。だから俺たちは休めてんだよ。」
「ヘェー。あいつそんなことしてたんだ。」
「マジでありがたいよな。俺もゼルが行く前の一番荒んだ時期に行ったことがあるんだけどさ、マジで魔王、魔人って忙しい時期に何をやってるんだって1日中イライラしてたね。
ほんとにゼル様様だわ。」
「お前やめろよ。あいつは混血だぞ?
穢れた紅の血が入ってるんだぞ?」
片方の兵士が、周りに聞かれてないか心配そうにしながら、ゼルを褒めたもう片方の兵士に言った。
確かに少し前までなら、もしこの会話を聞かれていたら、軍の中でもかなり軽蔑の目で見られることは間違いないだろう。
それに対して、ゼルを褒めた方の兵士はもう片方の兵士に呆れながら言う。
「…はあ、お前ってほんとに世間知らずなんだな。
軍内部では今じゃゼルのことを悪く言うやつの方が少ないぞ。」
「何!? そうなのか!?
あの混血、紅の血だぞ!?」
「確かに紅は未だに憎まれていそうだが、ゼル自体はそうでもない。むしろその逆の方が多いんじゃないかな。
やはりリッキー平野での活躍が大きいな。あの地獄を一度経験した者からすると、ゼルを見直すのも不思議ではない。
あぁそうだ、お前は行ったことがなかったっけ?
だからまだゼルを悪く思うんだな。」
その時、基地全体でアナウンスが鳴り響いた。
「基地にいる全ての兵士に告ぐ。第1会議場に集合せよ。繰り返す。基地にいる全ての兵士は大会議室に集合せよ。」
2人はそれまでの会話をやめて、驚いたように目を合わせた。
「なんだ? こんなこと今まであったか?」
「いや、少なくとも俺が来てからはないな。
よっぽどの出来事…魔王に関することか?」
2人は急いで大会議室へ向かった。
会議室に全兵士が集まったのを見て、前に立っていたドルタは口を開いた。
「諸君、よく集まってくれた。まず初めに、諸君らを集めた理由を説明しよう。
それは…魔王に対する作戦が決定した。それを諸君らに伝えるためだ。」
ドルタはそう言ってその作戦を話し始めた。
ただ、なぜか会議室のドアは全て解放されており、話しているドルタはどこか苦しそうだった。
「これまでの侵攻で、我々は多くの人命と領土を失ってきた。そしてその中にはレッドスターが2人もいた。この調子では人類は滅亡する。おそらく、前回の侵攻と同規模の魔獣が攻めてきたら、すぐに人類が滅んでもおかしくないほどだ。
ではなぜそうしないのか?
それは魔王が兵力を使い果たしたからだ。おそらく、魔王は今兵力を蓄えている。具体的には、森の動物達を片っ端から魔獣に変えていることだろう。」
ドルタは一呼吸置いてから続きを話し始めた。
「そこで作戦がある。
魔獣にされるよりも先に、我々が動物達を殺すことだ。この際多少の食糧難は仕方がない。なんとしてでも魔王の勢力を減らす!」
〜マゾン大森林の西側〜
「猪がいたぞ! 殺せ!」
その掛け声と共に、兵士たちは銃を創造し、そのまま猪を撃った。猪は悲痛な鳴き声をあげ、その場に倒れる。
「よし、これで5匹目だな。一旦帰るか、」
作戦では、食糧難を多少でも和らげるために、狩った動物達は可能な限り国へと持って帰ることが決まっている。
だがその時、兵士達に悪寒が走った。
何事か、と思った頃には、兵士の2人は魔王ノアによって魔人に変えられようとしていた。
ひぃぃぃっと悲鳴を上げて他の兵士が逃げ出すが、もう遅い。足をやられ、ゆっくりと魔王が迫ってくる。
そしてとうとう、一緒にいた兵士6人全員が魔人になってしまった。
「ふっ 愚かな人間どもめ。幾ら動物を殺して魔獣の数を減らそうが、これでは魔人が増える増える。
結果的に俺の戦力は変わらないぞ!!」
ノアは、魔人になった6人の兵士を再度見る。
「お前たち、まずは先程の自分達のように動物を殺してまわっている人間共を見つけるのだ。そして見つけたらまずは俺に報告し、それから人間共の足を折れ。命令は以上だ、行け。」
ノアは、もう魔人達とは別の方向を向き、不敵に笑ってみせた。だがその数秒後、もう一度魔人達の方に振り返ることになる。何故か魔人たちは、ノアの命令に従うことなく突っ立ったままだった。
「どうした? 行動を開始せよ。」
不思議に思ったノアは、何か命令の仕方を間違えたのかと思い、怒るでもなくもう一度命令をし直した。
だが、魔人は動こうとしない。
もしかしてコアの創り方を間違えたのかと思い、今度は魔人に近づいていくと、魔人の身体から奇妙な音が聞こえてくるのに気づく。
ピピピ、と電子音が鳴り、その音が段々と強くなる。そしてその数秒後…
『魔獣細胞を検知。ただちに爆発します。』
「何!?」
ノアは驚いて咄嗟に後ろに退く。
するとさっき魔人達が立っていたところでは大きな爆発が起き、魔人のコアは完全に破壊され、魔人達は跡形もなく消えていた。
〜数日前 大会議室〜
「———ただし皆が考えているように、この作戦では、魔獣の狩に送った兵士が魔人にされて終わりだ。つまり魔王の勢力が、逆に増えてしまうかもしれない、ということだ。」
ドルタは一呼吸置いてから話を再開する。
「そこで君達に頼みがある。
君達の身体に爆弾を付けさせてほしい。」




