58話 ゼルの慌しいリッキー平野での生活(2)
ゼルがリッキー平野での生活を始めてから1週間が過ぎた。ゼルが来たばかりの頃よりかは、ゼルが襲われることも減りつつあり、かといって紅人と白人の喧嘩が増えたわけでもない。
状況は着々と良い方向へと進んでいる。
そんな中、ゼルのいるテント(家がすぐ壊されるのでテントにした)にアドラがやってきた。
アドラは、ゼルがハイルーツ校にいた頃に仲良くしていた友達の1人だ。
「よぉ ゼル。1週間ぶりだな。
元気にやっていけてるか?」
「アドラ! ああ、俺は元気なままだよ。」
「ほんとか? 分かってたけどお前はやっぱり凄い奴だな。俺なんてさっきの住民の会話をちょっと盗み聞いただけでぶん殴りそうになったぞ。」
アドラはここへ来る途中で、住民達がどうやってゼルを殺すかの話し合いを聞いた。
「はは、さすがにそれは冗談だろ。」
「いや結構マジで…
まあいいや、お客さんだよ。」
そう言ってアドラはテントの入り口を捲った。
するとそこには顔が見えないようにフードを被った少女がいた。ゼルはすぐにその子の正体が分かり、名前を呼ぶ。
「ライカ!!」
「ゼル!!」
ライカはフードを取ると、すぐにゼルの元へと駆け寄る。
ちなみにフードを被っているのは、ライカがゼルの幼なじみだとバレないようにするためだ。
リスクは可能な限り排除しておくべきだ。
だが、ゼルがライカの名前を呼んだことで、多少リスクが生まれた気がするが…まあいいかとアドラは考えるのをやめた。
「全く…俺と会った時とテンションが違うぞ? ゼル。」
「ああ、申し訳ないな…つい…」
「ふん まあいいよ。
じゃあ俺は外を警戒してるからごゆっくり。」
アドラはテントの入り口を閉じると、その入り口の護衛についた。
ゼルとライカの2人の時間になる。
「ゼル、ここでの生活は大丈夫?
ごめん、前は安心したとか言ったけど…やっぱり心配になっちゃって…」
「ああ、大丈夫だよ。ライカ達のおかげでな。
心配してくれてありがとう。
それと実は俺も心配してたんだ。ライカ達は大丈夫か? 俺と親しい人を人質にとろうとする奴らがいるかもしれない。」
「うん! 私達は大丈夫だよ。
まあ実際、そういう人達はいたんだけど…
アドラ君達が守ってくれたから。」
「そうか。」
ゼルはアドラ達が、伝言を聞いてくれて、守ってくれていることに嬉しく思いつつ、ライカ達が狙われてしまっているという事実に悲しくなり、ライカを強く抱きしめた。
「本当にありがとうな。俺のそばにいてくれて。」
「もう! またそんなことばっかり!
いたくているんだからいいの!」
少し照れ臭くなったのか、ライカはゼルから目を逸らす。
「それよりここでの生活についてもっと聞かせてよ。言える範囲でいいから。
あんまり明るい話じゃないと思うけど…それでもゼルのこともっと知りたい。」
「そんなことはないよ。明るい話だって少しはある。
例えばそうだな…
子供がな、よくお礼を言ってくれるんだ。“ありがとう”って。この前なんて、プレゼントまでもらったんだ。
ほらっ このどんぐり。」
ゼルはそう言って、ポケットからどんぐりを取り出す。
「そう。なんだか自分のことのように嬉しいわ。」
ライカはとびっきりの笑顔を見せた。
「ありがとう。
あとそれだけじゃないぞ。実はその子供の母親にもお礼を言われたんだ。大人の人から言われたのはそれが初めてだったから、かなり嬉しかった。」
今ゼルが語った話は全て事実である。
しかし実際には、その数十倍数百倍と罵詈雑言を浴びせられ、また石を投げられる。
しかし、ゼルにとってはその数十分の1数百分の1が何より嬉しかった。
その時、アドラが急いでテントの中に入ってきた。
そのアドラの顔は、ゼルがここ数年は見たことがないような驚いた顔だった。
「邪魔して悪い!!
ゼル!! お客さんだ!!」
そう言って入ってきたのは、今となっては紅人唯一のレッドスター、マルクだった。
ライカとゼルも、アドラと同じような顔になってしまう。
「急な訪問で申し訳ない。ただゼル君、君に会いたかっただけだ。」
「俺に…?」
「ああ、私は君の働きにとても感謝している。」
紛争に割く兵士の数を減らすことが出来たということだけでなく、魔王を倒した後のアルステーデとカルティアの戦争を心配しているマルクにとっては、ゼルがリッキー平野の紛争を減らしたということは非常に良い知らせであった。
「私は君が、人類の嫌われ者などではなく、希望であると信じている。」
そう言って握手を求められる。
ゼルは迷わず両手でそれを受ける。
紅人唯一のレッドスターに認められたという事実は、ゼルにとってはかなりの自信に繋がった。




