56話 第2次侵攻を受けて
〜ゼルの演説の少し前〜
ラキの実家、スペルベン家は剣の道に長けている。
一心流という剣技を使いこなし、日々その流派は広がりつつある。
当主のザキ=スペルベンは、レッドスター第3位に位置し、その長男のヨキ=スペルベンはトリプルスター、次男のラキ=スペルベンはダブルスターと、かなり優秀な家系だ。
そんな一家に問題が起こった。
当主のザキは、急に一家の皆を道場に集めさせた。
それを受けて、ザキ、ラキ、妹のマキ、母のツキの4人が集まった。ツキはひとり泣いており、ザキも険しい顔をしている。
「第2次侵攻の時、ヨキは魔王が地下から姿を見せる前から、リッキー平野の護衛についていた。
あいつは勇敢だからな、魔王に立ち向かっていったそうだ。それによってドルタさん達が来るまで時間を稼げたが、それ以降ヨキの姿を見た者はいない。
また死体もない。
十中八九魔人にさせられている。」
それは、ザキから淡々と語られた。
あまりに急なことに、ラキもマキも放心してしまっている。
「これは俺の責任だ。
ヨキが誰かを殺してしまう前に、俺があいつを斬る。そしてあいつの無念も必ず果たす。」
ザキは、ラキとマキの目を見る。
「報告は以上だ。そしてラキ、マキ。
ヨキがいなくなってしまった以上、この道場はお前達のものだ。
一心流を託したぞ。」
ザキは、ラキとマキを優しく抱き抱えた。
すると、2人にもようやく涙が流れてきた。
数日後、ラキはメルタを呼び出していた。
メルタは、ドルタの一人息子で、今はトリプルスターの称号を持っている。
「どうしたんだ? 急に話って。」
「ああ、お前にしか頼めない大事な話がある。」
そう言ったラキの顔は、メルタが知っているラキの顔ではなかった。普段よりもどこか暗く、そして覚悟の決まった顔をしている。
メルタはその顔を見て驚き、それと共にただ事ではないことを直感した。
「実は———」
ラキは、数日前に聞かされた兄ヨキの話をした。
包み隠さずに全て。
「…なるほど、ヨキさんが…」
ヨキ=スペルベンといえば、トリプルスターでも上位の方に位置する。そんな人が魔人になってしまったとなっては、メルタも驚かざる負えない。
「だが…俺に何を頼む…?
話を聞く限り、ザキさんが倒してくれるんだろ?
あの人なら身内とはいえ手加減などはしなさそうだ。実力的にも精神的にも問題ないように思えるが?」
「それが問題なんだ。」
メルタは、頭にはてなを浮かべてラキを見た。
するとラキは、とても悲しい顔をしていた。
「親父は…兄貴を殺したら、きっと責任をとって自害する気だ。あの目はそう言っていた。」
メルタは、ラキの震えた声を真剣に聞いていた。
ザキが本当に死ぬつもりなのかは、メルタには分からないが、ラキがそう思うのならそうなのだろうと、メルタには思えた。
「俺は…親父にも死んでほしくない。
だから俺は、親父よりも先に兄貴を殺して、親父にこう言ってやるんだ。
“親父の責任は俺が代わりにとった。だから親父は死ぬ必要はない”って。」
ラキは、一瞬だけ明るくなった。
「でも、俺1人で兄貴を…ましてや魔人になった兄貴を殺せると思うほど、俺は自惚れていない。
だから、お前の力が欲しいんだ。
俺と協力して兄貴を殺してくれ! 頼む!」
メルタはラキの肩を叩くと、顔を上げさせ、精一杯の優しい顔で了承した。
だが、メルタの心の中では、本当にこれで良いのか、ずっと自問自答していた。
父ザキが自害する責任を代わりに受けるということ、つまりそれはラキが自害をするということなのではないか、そう問いかけたかったが、メルタは考えるのを意識的に避けた。
〜〜〜軍本部基地 屋上〜〜〜
紅人のレッドスター第1位であるマルクは、わざわざカルティアまで出向き、ドルタを呼び出していた。
「どうした? 改まって話など?」
「ああ、お前に頼みたいことがあってな。」
「頼み?」
2人とも、お互いの人種に一定の理解はあるが、それでもまだ懐疑的な部分は少々ある。しかし、共に魔王と戦った経験から、2人は親しくなっていった。
マルクは真剣な面持ちで話を始めた。
「ああ。順を追って話そう。まず、紅人が使う”破壊”の魔術は、本当の意味での全力ではない、ということは知っているか?」
「もしかして脳のリミッターの話か?
本当の意味で全力を出してしまうと脳が壊れてしまうからな。それがどうかしたのか?」
「ああ、まさしくその通りだ。
この脳のリミッターにより、人間は本来の力の30%程度の力しか出せない。
これは紅人に限らず白人にも言えることだな。」
マルクは、把握漏れが起こらないように丁寧に説明を進めてゆく。
「だが紅人は違う。
ドルタ、紅人は何故自分の破壊の”魔術”で自分の体が破壊されないと思う?」
ドルタは、ハッとしたように手を顔に当てて考えてみる。
「確かに…どうしてだろうな…」
「それは、自分の体を守るために無意識のうちに半分の力を相殺に充てているからだ。」
ドルタは納得したように頷いた。
「なるほどな。つまり紅人は本来の力の15%程度しか出せないというわけか。」
「その通りだ。」
そういうとマルクは、得意げに親指を自分へ向けた。
「だが俺は、その無意識を取り除くことに成功した。
つまり、多少は身体が壊れるが、20%以上の力程度なら故意に出せる。」
マルクが、右手にできたあざをドルタに見せる。
「なるほど、それは凄いことだな。自分の無意識を取り除くのは、そう易々とできることではない。
しかし…約3分の4倍の力は確かに強力だが、それでも使うたびに身体を壊すのなら使い物にならないな。」
マルクは更に得意げに笑い、ちょっと待てとハンドサインを送る。
「話はまだ途中だぜ?
俺は自分の無意識を取り除くことに成功した以外に、自分の脳にあるリミッターを破壊することができる。」
ドルタは、ここ最近で一番の驚きを見せた。
脳のリミッターを破壊する、それはつまり死ぬと言っているようなものだ。
「…正気か?」
「ああ、もちろん正気だぜ?
じゃないとこんなところに呼び出したりしないだろ。」
マルクは、屋上にある柵に乗り出すと、話を続ける。
「俺だって死にたいわけじゃない。
だが相手はあの魔王だ。必ず使わなければならない時が来る。
俺は今まで、修羅場をいくつも抜けてきた。
今更死ぬことは怖くない。
だが一つだけ不安なことがある。」
マルクは、真っ直ぐにドルタを見つめる。
「お前のことは良い奴だと思うし、信頼している。
だが…正直俺は、白人という人種に対しては、懐疑的な部分がある。
魔王のせいで、3人いたはずの紅人のレッドスターも俺1人になってしまった。対して白人のレッドスターは3人。もし魔王を倒せたとしても、その後に戦争が始まれば確実に紅人は負ける。
そこでもし俺が死んでしまったら、お前の反対を押し切って攻めてきた白人だけでも滅んでしまいそうだ。」
ドルタはマルクが言ったこと全てに同意する。
実際、ドルタは魔王を滅ぼした後に戦争をするつもりは全くないが、戦争をしようと思う者は多数現れるだろうと思っている。もしその中にレッドスターが1人でもいれば、アルステーデは滅んでしまうだろう。それほどにレッドスターの存在というのは大きい。
「だからな、結局俺が頼みたいことというのは…
もし俺が死んだ場合、俺の国アルステーデを守ってもらいたい。
これはかなり身勝手なお願いだ。
お前にとってアルステーデは長年の敵対国…それを守れというのは無理な願いだと思う。
しかし頼む! この通りだ!」
マルクは精一杯ドルタに頭を下げた。
そこまでして頼まれるとは思っていなかったドルタは、少したじろぐが、すぐに頭を上げるように伝える。
「約束しよう。アルステーデは俺が必ず守ってみせる。仮にお前が生き残ろうが死のうがな。
ただ、俺も同じことをお前に頼むぞ。」
「はは、恩にきる。
それともちろんだ。俺ももう戦争などする気はない。」
ドルタとマルクは熱い握手を交わした。




