55話 素晴らしい仲間達
ゼルの演説を最後尾で聞いていたライカ達は、兵士の1人に付いてくるように言われたので言う通りにした。
するとその先には、頑張れば数百人ほどは入りそうな大きいテントがあった。
「こちらです。」
そう言われると、先頭にいたライカは恐る恐るテントの中に入った。そのテントの中にいたのは、先ほどまであんな無茶苦茶な演説をしていたゼル本人であった。その後ろにはドルタや他の兵士が数人いた。
ゼルはライカを見つけると笑顔で手を振った。それを見るとライカはゼルに向かって走り出した。ライカがゼルに飛びつく。ゼルはそれをしっかりと受け止めた。
「ゼル…あんた……自分が何を言ったか分かってんの?」
泣きながらライカはゼルにそう言う。
「ああ、それについてライカに謝らなければいけないことがあったんだ。」
「えっ?」
「俺はもう、ライカとの約束を果たせそうにない。内戦を少しでも緩和しようと、俺だけが憎まれるように仕向けたからな。」
かつてゼルとライカは、2人が結婚しても誰も文句を言わない、そんな世界を創ろうと約束した。だが、今回の演説で、ゼルはとても受け入れられることが無くなった。
「……そんなことは今はいいよ…
それより私はあなたの心配をしているの!
ついこの前まであんなに心傷していたあなたが! あんなこと言って———」
ゼルはライカを強く抱きしめた。
「心配してくれてありがとう。
でも大丈夫。今の俺は昔の俺とは違う。」
ゼルは抱きしめる力を弱めると、ライカから目線を外し、その後ろへと目を向けた。
ライカは思わずゼルの目線を追ってしまう。
「今の俺には———」
そこには、アルニ村のみんなやゼルの学校の友達、その他ゼルのことを認めてくれている人達が総勢100人ほどいた。そのみんなが、優しい顔をしていた。
「———こんなにも素晴らしい仲間達がいる!」
ライカは涙が自然と止まっていた。
「俺は気付いたんだ。たとえ世界が俺を憎んでいたとしても、この人達だけは俺の味方をしてくれる。
だから俺は無敵だ。約束するよ、もう挫けない!」
ライカは自然と笑みが溢れていた。
そして精一杯微笑んで言った。
「そう。確かにこれなら、私も安心ね。」
少しすると、後ろにいたドルタが大きく咳払いをした。
「こんな空気の中割って入ってすまない。だが伝えなければいけないことだ。
まず初めにゼル。科学者のモンスは知っているな? 彼がお前に何か用事があるようだ。軍本部の研究室まで行ってくれ。」
ドルタにそう言われたゼルは、モンスの用事を疑問に思いつつも、2つ返事で了承した。
仲間達に軽く別れの言葉を言うとテントから出て行った。
「次にハイルーツ校の生徒は私のところへ。」
ドルタがそう言うと、メルタやラキ、アドラやハニカ、クラーラなど、ゼルと仲良くしていたメンバーがドルタの元に集まった。
「いいか? さっきのゼルの演説でも聞いたとおり、ゼルは民衆に命を狙われる。だが、天地がひっくり返ってもゼルがやられることはないだろう。そこで、彼らを人質にとろうと考えるような連中が現れるかもしれない。」
ドルタはライカ達を見る。
「そんな時は、お前たちが守ってくれ。これは任務であると同時に、ゼルからの伝言でもある。」
ドルタに任務と言われたら、返事は一つしかない。だが、ゼルからの伝言ということが、彼らをやる気にさせた。
皆気持ちの良い返事をドルタに返す。
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ゼルはドルタに言われた通り、モンスの研究室まで来ていた。
「失礼します。」と言ってから入ると、モンスは今も何かの研究をしている途中だった。ゼルに気づくと、その研究を一旦後回しにしてゼルの方を向いてくれる。
「あ、こんにちはゼル君。一対一で話すのは初めてだから一応自己紹介しておくよ。
私はモンス、魔獣専門の軍の科学者だよ。まあ最近は、魔獣以外にも手を広げているけどね。」
ゼルはモンスが思ってた以上に気さくな人だったことに驚きつつも、自分も自己紹介した。
そして、モンスに座るよう促されると、お礼を言ってから座った。ゼルが座るとモンスはゼルに一言言ってから奥の部屋に消えていき、一冊の本を持って帰ってくると、ゼルの前に座った。
「今朝の演説は見事だったね。あれでかなり紛争は減らせるだろう。軍の人達もみんなお礼を言っていたよ。」
「ありがとうございます。軍の人達からですか?」
「そう。魔獣の脅威を一番近くで感じている彼らは、民間人同士の紛争にかなり参っていたからね。
一般兵はわからないけど、軍の上層部で君のことを憎いと思っている人はかなり少数派なんじゃないかな。」
ゼルは、嬉しくて言葉が出なかった。自分を認めてくれる人が増えるというのはやはり格別に嬉しいことだ。
モンスはそんなゼルを優しく見つめる。
「でも君のことが心配だよ。君は民間人の憎悪を一身に受けることになる。本当に大丈夫かい?」
「覚悟は出来ています。」
「そう、強いね。」
モンスは安心したように言った。
「そんな君なら、これも扱えるかもしれない。」
モンスはそう言って持ってきた本を開く。
「それは…?」
「カイン先生の研究書だよ。あの人は紅人や白人、それとその魔術について主に研究していた。」
カインと言えば、約30年前に魔王を創った天才科学者だ。そういえばモンスの師匠だった気がする。おそらくそれ繋がりで手に入れたのだろう。
「これを読んでいて思ったんだ。
もしかしたら君の力を飛躍的に高められるかもしれない…と。」
モンスはそう言って、開けたページをゼルに見せた———




