53話 バイルの策略
みんなとの再会を果たして、首都ブランロードにある小さな宿屋に泊まっていたゼルの元にドルタがやってきた。バイルに言われた件を報告するためだ。
「それは…確かにうれしい話ですが…」
「でも意外だな。あの人がそんなことを言うとは。」
アドラが少しバイルのことを怪しみながら言う。
「でも何か裏があるとしても良い話だよね。
ゼルのことが認められるってことだし。
ゼル、どうする?」
「ああ、そうだな。受けてみ———」
「———受けてはいけません!」
ゼルがライカの問いに答えようとした時、ある少女がゼルの部屋に入ってきた。
それはみんなが良く知る人物、だけどゼルとドルタ以外は話したことがない。カルティアで最も権威のある大貴族シルヴィア家の末妹、モーネ=シルヴィアだった。
「へえっ!? モーネ様!?」
ライカが思わず声を上げる。アドラや他の者も同様な反応を見せた。それほど、雲の上の存在なのだ。
「モーネ様…一体こちらへ何を?」
この中で一番の年長者であるドルタが落ち着いてモーネに駆け寄る。
「ゼルに会いに来ました。第2回世界会議の時に仲良くなったのですよ。」
みんなが驚いて、今度はゼルの方を見る。
ゼルはみんなの疑問に答えるように話した。
「第2回世界会議の時に、俺が護衛についていた。紅人についても寛容な心をお持ちで、非常にお優しい方だ。」
「ふふっ、あなたも紅人への接し方について疑問を持っていましたからね。あの時は不思議でしたが、今となっては納得がいきます。まさか混血だったとは。」
2人の会話を聞いて、みんなある程度理解したようだった。
「…それで、バイル大臣の話を受けてはいけない、というのは?」
「ああそうでした。それを報告しに来たのでしたね。」
ドルタが話を戻した。
モーネは思い出したようにそう言うと、少し深呼吸をした。
「ゼル、さっきも言ったようにバイルの話を受けてはいけません。バイルはあなたが再び投獄、そして処刑されることを望んでいるのです。」
みんなは驚いたような、どういうことか分からないような、でもどこか納得がいったような顔をした。
「バイルはあなたを殺したい。でも会議で決まってしまった以上、この結果を簡単に覆すことができない。だから会議で決まったことだけであなたを殺そうとしているのです。
バイルの言う通りにすればあなたは大衆の前で表彰されるでしょう。それを大衆はどう思いますか?
おそらくはブーイングの嵐。バイルはそれであなたが再び戦意を喪失してしまうのを狙っているのです。」
全員がモーネの話を理解した。そして表情が、納得から怒りへと変わる。
「なにそれ、一瞬でもバイルを良いやつだと思った自分がバカみたい。」
「ほんとにな。ゼルのこと何も知らないくせに。」
「こんな話受けることないよゼル。」
みんなが口々に文句を言い合う。
バイルの話をみんな一時は喜んだ。まるでその気持ちを嘲笑われたような感じだ。
だが、ゼルは何故か少しだけ笑っていた。
「ゼル、どうして笑っているの?」
「ん、ああ、なんかみんなが俺のために怒ってくれてるのが嬉しくてな。」
そう言うと、ゼルは立ち上がってみんなの方を向いた。
「みんなには悪いけど、俺はこの話受けようと思う。」
「そんな、、」
「無茶だよ。それにゼルが酷いことされてるの見るの私の方が耐えられない。」
「そうだよ。とりあえずは魔王に集中しないか?」
みんなからの言葉を一通り聞いてからゼルはまた話し始めた。
「みんなありがとう。でも俺は行くよ。
それにその程度でまた戦意を失ってしまうようなら、これから先なんてやっていけるわけないからね。」
「それは、そうだが…しかしわざわざ自分から行く必要はなくないか?
レッドスターの称号が欲しいわけでもなさそうだが…?」
ドルタから鋭い指摘を受けた。
ゼルは、どう答えようか少し悩んでいたが、正直に答えることにした。
「確かに、レッドスターの称号には興味はないですよ。」
ならばどうして、そうドルタが聞く前にゼルは再び答え始めた。
「実は、表彰式の時に少しやりたいことがあるんですけど…」
「やりたいこと…?」
「はい、それの許可が欲しくて…」
ドルタはゼルを連れて別室へ移動した。
そしてそこでゼルのやりたいことの内容を聞く。
「ふむ、そのくらいなら全く問題ないだろう。
だが本当に良いのか?」
「ええ、構いません。犠牲になるつもりはありませんが、これで少しでも状況が良くなるなら。」
「そうか…本当に強くなったようだな。」
ドルタはゼルを、1人の対等な戦士として見るようになった。




