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ワールドヘイト  作者: 三ki
第1部
50/65

50話 傷心

「僕はもう…戦えそうにありません。」


ゼルは細い声で、しかしはっきりとそう言った。

ドルタは、表情一つ変えることなくゼルに話を続けた。


「何故だ。仮に君に戦う意思が無くとも、君は戦いさえしていれば生きていられる。何も魔王と戦えとは言っていない。魔王以外の敵ならば、”破壊”の魔術を解放した君にとっては苦戦することもほとんどないだろう。君はただ雑魚敵を駆逐していればいい。それだけで我々にとってはかなりのプラスだ。そして無事我々が魔王を倒すことが出来たら、上も君を見直すかもしれない。」


ゼルは下を向いたまましばらく黙っていた。

そして数秒経った後に口を開いた。


「………生きていられる…ですか…

くくく……まるで俺が何かしたみたいだ……」


「…」


ドルタは、ゼルの雰囲気の変化を感じ取った。そしてさっきよりも真剣に、ゼルの話に耳を傾けた。


「ドルタさん……俺が何したって言うんですか!?

俺は…ただ生きていただけだ…

なんなら人助けもたくさんした…

そこらで中途半端に生きている人よりも、よっぽど善行をし、真剣に生きている!

なのに…なんで…俺は生きてちゃダメなんですか…? 俺は…生まれてきては…いけなかったんですか…?」


ゼルは牢屋の中で、可能な限りドルタに近づいた。時には檻を揺らし、時には項垂れてしまう。ゼルの精神はかなり不安定になっていた。


「……すいません…ちょっとヤケになっちゃってて…」


「構わない。というより、こちらこそ酷い言い方をしてしまってすまなかった。」


ゼルは、ドルタの真剣な顔を見て正気に戻った。そして元いた位置に座り直した。


「…さっきも言った通り、僕にはもう…戦う意思はありません…

それと…さっき人助けをしたってのも…実は半分は嘘なんです…

僕が人助けをする理由は…確かに善意からくるのもありますが、誰かに認めてもらいたい…というのもあります…

人助けをして、褒められたり、お礼を言われたりすると、自分が必要とされてるんだと思って…自分がその人に認められた気がするんです…

もちろん褒められたりお礼を言われてるのは、純粋な白人だと偽っている自分です。ですが、何故か本当の自分にも言われている気がして…それが、嬉しかったから…

戦っていたのもそのためです…

僕は人より強いから…戦うことが最も必要とされる…認められると思っていた。

でも…この前のことで…その幻想は打ち砕かれた。

僕がどれだけ人のために戦っても、守っても、僕は認められないんだと分かった…

だから…僕はもう戦えません…」


「…それは恥じることではないと思うぞ。誰かに認められたいというのは、人の感情としてごく自然なものだろう。」


「…」


ゼルは、黙って俯いたままだ。


「…今はもう帰ろう。

気が変わったらすぐに知らせてくれ。刑は3日後に行われる。それまでに君が戦う意思を示したのなら、君への計は免除となる。良い報告を期待している。」


ドルタはそう言うと、ゼルの元を去っていった。


ドルタは軍の本部に帰ってきた。その本部内にある自分の部屋へと向かう。そして、自分の机に大量に積まれている資料を見てため息をはいた。その資料のほとんどが、紅人と白人の紛争についてのものだ。ドルタはその内容を見て、もう一度ため息をはいた。

そして、仕方なしという感じで1つ1つに目を通していく。すると、10個くらい処理したタイミングで、ドルタの部屋の扉がノックされた。

「失礼します」と言って入ってきたのはドルタの部下だ。どうやら追加の資料を持ってきたようだった。


「………またか。今はそれどころではないというのに…」


ドルタは部下と目が合った。おそらく部下も同じ気持ちなのだろう。


「…ええ。先の侵攻でリッキー平野が襲われたせいですね… 紅人と白人が接触する機会が出来てしまった。魔獣の襲撃中ですら争っていた両陣営です。襲撃後も続くとは思ってはいましたが、まさかここまでとは…」


リッキー平野には、紅白両人類とも大量の人達が避難していた。その人数も相まって、襲撃時には大混乱となっていたのだが、襲撃後にはその比ではなかった。

リッキー平野での紛争に触発されて、リッキー平野以外の人達も、いつも以上に戦争を主張するようになった。そのデモが、各地で起こっている。また、ゼルの存在も少し油となっていた。

一方、リッキー平野では、魔獣の襲撃後から計算しても、各地の紛争を合わせて今のところ死傷者が6桁にまで達してしまっている。


「全くだ…こちらの苦労も少しは分かってもらいたいものだな。

ま、愚痴っていても進まない。早くこのくだらない作業を進めようか。」


ドルタは再び作業に戻った。だが仮に何時間も集中力が持ったとしても、今日中にこの作業が終わるかどうか。またどんどんと増えていくことを考えたら、確実に今日中には終わらないだろう。

ドルタはまたため息をついた。




「なんだよ。もーまたかよ!」

「いい加減にしてくれよ! 今はそんな状況じゃないっての!」

「こっちは魔王が次どうやって攻めてくるのか怖くて眠れないというのに。」

「あいつらは魔獣と戦ったことないからあんな呑気なんだよ!」

「あいつら放置してていいかな?

自分達が今どういう状況かも分かんねぇのかよ。」

「もーこの際紅人なんてどうでもいいだろ。」


所々から聞こえる声。自分達は1分1秒でも早く魔獣に備えなければいけないのに、魔獣と戦うことのない人達が起こす紛争やデモを止めに行かなければならないというジレンマ。兵士達の不満は次第に溜まってきていた。紅人への憎悪を忘れてしまいそうなほどに。

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