46話 混乱
リッキー平野では、魔王の襲撃を知らされた避難民達は逃げ惑っていた。そしてそれは、一方向から来ている訳ではなく、包囲されているので、混乱はより激しくなっていた。
しかし、1つだけおかしな点があった。
ノアは、そこらにいる兵士を魔人に変えるだけで、民間人を全く襲おうとしない。そして、魔獣や魔人達は、集落を包囲するだけで、全然攻めていこうとしない。今のところ、魔人や魔獣による死者は、兵士を除くと100人とちょっとだけであった。
魔獣達の襲撃があったことで、紅白の領土など関係なく皆逃げ惑う。しかも、どこに逃げれば良いから分からないので、四方八方に逃げ回った。すると当然人同士の衝突が起こる。そしてそれは、紅人と白人でも起こった。
「おい!! お前!!
どこに目ぇつけてんだ! 白い上に邪魔なんだよ!!」
「ああん? お前の方からぶつかってきたんだろ紅野郎!!」
「うっせぇ! やんのか白野郎!?」
「上等だこら! 死ぬ前に1人でも多く紅を地獄へ堕とせて良かったぜ!」
こういった紅人と白人の争いが、集落の各地で起こった。一度始まってしまったらもう誰にも止めることはできない。むしろ見ていた人は自分も加勢する勢いだった。
魔獣の襲撃から30分経った今、集落では死傷者が3万人以上にも上り、依然増え続けている。もちろん魔獣達はただ包囲し続けているだけだ。
そしてここでようやく、ドルタ達が到着した。
ドルタが目にしたのは、魔獣が集落を包囲しているということ。そして魔獣により殺されている守るべき人民達ではなく、殺し合う守るべき人民達。ドルタは、どうするべきか一瞬分からなくなった。だが、とりあえず考えることをやめ、なんとか指示を出す。
「…H〜K班は争ってる民間人達に仲裁に入れ! 必要なら取り押さえて構わん!!
A〜G班は包囲している魔獣を殲滅するぞ!!」
皆一斉に返事した。
皆が混乱せずにいれたのは、もしかしたらドルタがはっきりと指示を出してくれたからかもしれない。
ちなみに、ドルタの言ったH〜K班には、ゼルとメルタが入っていたので、2人は民間人達の方へと向かった。
「マルク、魔王を探すぞ! あいつに不意打ちを受けたら、俺達でも相当な痛手を負うだろう。
とりあえずは2人一緒にいて強襲に備える。もうすぐすればソニアとザキも着くはずだ。そうなれば流石にこちらに分がある。それまで堪えるぞ。」
「…ああ。」
マルクは愛想のない返事をした。
ドルタに指示されるのは少し気に食わなかったが、そんなことを言っている場合でもないし、ドルタの意見に完全に同意したためだ。
ドルタの指示で、包囲している魔獣達を退治しにいく兵士達。しかしすぐに異変が起こった。
包囲していた魔獣達が一斉に動き出し、そして集落へと全力で進み出した。
間違いなく魔王が指示を出したはずだ。
しかし、ドルタ達が到着してからまだ10数秒しか経過していない。魔王はドルタ達を認識できるところにいる。
ドルタは周囲を見渡した。すると、はるか上空で鳥の魔獣に乗って、地上一体を見下ろしている魔王ノアを発見する。
「マルク! 上だ!!
クソッ今度は上かよ!」
ドルタは銃を創造し、ノアめがけて放つ。しかしそれは軽く避けられてしまった。おそらくこのまま打ち続けても同じことだろう。
一方、魔獣達は進軍を続ける。
その牙は、もうすぐ民間人達にまで届きそうな勢いだ。
民間人達は魔獣の進軍に気づくと、争いを一時中断して他を押しのけながら中央へと進む。
大人達の争いに混乱してしまって、隅で泣いている紅人の子供がいた。そこへ狼の魔獣がすごいスピードで走ってくる。狼の魔獣は口を大きく広げた。もちろん、その子供を殺すためだ。
その子はそれを見ても、うずくまって泣くことしかできず逃げることが出来ない。
あと数cmで子供と狼の魔獣が触れる。
しかしゼルが間一髪で間に合った。ゼルは上から剣を一閃し、まず狼の魔獣の首から上を切り落とすと、続いてコアを破壊する。
「大丈夫かい? 悪いが色々な理由で君に構ってはいられないんだ。これで失礼するよ。」
ゼルはそう子供の方を見ずに言った。
紅人である子供に、白人に扮してるゼルのことを気味悪く見られるのが怖かった。それに、あまり一緒にいられるところを見られるのは良くない。
子供を1人にすることに抵抗はあるのだが、紅人の兵士が保護してくれるだろうと思い、ゼルはその場を去った。




