38話 シーグル
紅人の国アルステーデは、ニールが魔王ノアを抑えているとはいえ、そこ以外の地域では、魔獣や魔人による被害がまだまだ大量に出続けていた。
アルステーデの民間人は逃げ惑い、兵士は必死に戦っていた。
そして、現在魔獣や魔人の進行をまさに受けているここペングシティにゼル達は来ていた。
ペングシティは、ハラシティに隣接する都市だ。つまりハラシティもすでに壊滅したということ。
民間人は、レヴォシティが襲撃されたという報せを受けてすぐに避難しているので、逃げ遅れた人もいるのだが、今回は救助ではなく退治の任務がメインだ。というより、上からは退治しか命じられていないので、もし勝手に紅人を救ったとなったらゼルは腫れ物にされてしまうだろう。
しかし、ゼルは1人でいる時、子供数人とその親と思しき人達が、猿の魔獣に襲われているのを見つけた。ゼルはどうしても見殺しにすることは出来ず、その猿の魔獣を剣で颯爽と倒す。
その人達は、ビックリした顔でゼルを見ていた。ゼルはその人達を一瞥すると、驚きの表情が憎しみに変わる前にその場を立ち去る。
ゼルは強い魔人が出たという報告を受けた場所へと向かう。するとそこには、例の魔人と横たわる無数の紅人の兵士達、そして1人立って戦っている少年がいた。その少年は、ゼルと同じぐらいの年齢で、遠くから見た感じの身体能力で言えば、ゼルと同程度というほどだった。
その少年は押されている。そして攻撃を受けるちょうどその時、ゼルが間に合った。ゼルは盾を創造し、2人の間に入る。そして魔人の攻撃をガードすると、魔人に右足で蹴りを入れて後方に吹き飛ばす。2人は驚いた表情でゼルを見る。
すると盾は崩れ、ゼルの右足では靴が崩れ、足そのものも多少の傷を負っていた。十中八九紅人の魔人だ。それもおそらくトリプルスタークラスの。
少年はゼルの髪色を見て、驚きの表情を怒りに変えた。そして拳を強く握りしめる。
「おい白!! どういうつもりだ!!」
「ん、はあ? 君を助けるつもりだけど?」
「ふざけるな! 信用できるか!!」
少年は握りしめた拳をゼルに振りかざす。
その時、吹き飛んだ魔人が凄い勢いで2人に襲いかかってきた。2人の間に割り込む形となり、少年、魔人、ゼルの順で並ぶ。魔人の攻撃は地面に当たり、地面は広範囲に亀裂が走る。明らかに攻撃の威力だけではない。間違いなく”破壊”の魔術を使っている。その騒動で、少年の攻撃は不発に終わった。
「お前は白人だな? 何故ここにいる?
まさかアルステーデはカルティアに協力依頼でもしたのか? ハッ そんなわけねぇか。」
魔人は少年の方を無視して、ゼルの方へ顔だけ向けて尋ねる。
「それに近いとだけ言っておく。とにかく2人でお前を狩るぞ。」
ゼルは剣を創って、魔人へと向ける。
「おい! 勝手に決めんな!!
俺はお前と協力なんて真っ平ごめんだ!!」
少年がゼルに怒鳴りつける。
「こっちのやつはこう言ってるが?」
「…」
ゼルは中々協力しようとしない少年に苛立ちながら、悲しみも覚えていた。だが、そんなことに思いを巡らす余裕はない。少しでも戦闘以外のことを考えればやられる。それほどの相手が目の前にいるからだ。ゼルは感情を一回リセットする。
「じゃあお言葉に甘えて、まずはお前から狙うぜ白野郎!」
魔人が少年を襲った場合はゼルの援護があるが、ゼルを襲った場合は少年の援護はない。そう踏んだ魔人はまずゼルから狙いを定める。そしてそれは正しかった。
魔人の攻撃を必死になって防いでいるゼルを見ても、少年は微動だにしない。
対紅人を相手にするときは、素手で攻撃すると逆にこっちが痛手を負うので、盾や剣、鎧やパンチグローブなどを創って戦う。”破壊”の魔術と”破壊”の魔術がぶつかり合った場合、2つの魔術は反発し相殺し合うので、本当は”破壊”の魔術を使って魔人に対抗するのが最善手なのだが、少年の前では、できれば魔人の前でも、ゼルの”破壊”の魔術を見せるわけにはいかない。
トリプルスタークラスの兵士が魔人化したことで、魔術自体の練度は上がらなくても、身体能力においては手がつけられなくなっている。
ゼルは魔人からの素早い攻撃に対応しきれず、攻撃を腹にもろに喰らい、遥か後方に飛ばされる。魔人はすぐにゼルを追いかけてきた。
すると、魔人が動いた少し後に、今まで微動だにしなかった少年もゼルの方に向かって走ってくる。
そして、魔人とゼルが激しい攻防を繰り広げている間に入り、少年は魔人に攻撃を入れた。”破壊”の魔術により、魔人の体は少し崩れる。
ゼルと魔人は驚いた顔を見せる。2人とも少年が向かってきているのは感知していたが、それはゼルを攻撃するためだと思っていたからだ。
「おいおい、どういう心境の変化だ?
まさか紅人のお前が、白人の味方をするのか?」
「黙れクソが! そっちは俺の家族がいる方向だ。」
「あ?」
「俺の私情なんかよりも、家族の命を優先することが大切。それに気付いただけだ。」
少年はゼルの方へ向き直る。
若干不満そうな顔ではあったが、決意を固めたような表情だった。
「おい、家族に免じてお前のことを一時的に認めてやる。オレはシーグル。お前は?」
「ゼルだ。よろしく。」
「ゼルか…
悪いが握手はしないぞ。」
「ああ、それは勝ったあとでいい。」




