37話 ニールVSノア
ノアは右腕を伸ばしてニールを攻撃する。
ノアの腕は先が鋭利に変形し、まともに喰らうとただでは済まなそうだ。そしてそれが、10本に分裂してニールを襲う。
ニールは大きく右へ飛びそれを躱す。
そして、ノアの腕が全てニールの横を通過したのを確認すると、ノアの伸びた腕に触れる。腕ごとノアの脳まで破壊しようとの算段だ。
だが、それは逆効果だった。
ニールが掴んだ箇所から、さらにまた一本腕が生えて、ニールの右手を貫く。そしてそれがニールの腹まで貫こうという時に、ギリギリで”破壊”の魔術を発動でき、なんとか致命傷を避けれた。
ノアの長く伸びた腕は全て破壊できたが、肝心の肩より先を破壊することは出来なかった。
ニールはその時、自分の四肢以外の部位は特別に硬く創っているのだと直感する。言われてみれば確かに、弱点が脳なら、その周りを硬く創らないはずがなかった。
ノアは破壊された腕を瞬時に再生する。
それは時間にして、再生を始めてから僅か0.1秒ほど。その再生した腕の精巧さも相まって、まるで最初から損傷など全くしていなかったようだ。
戦闘開始からまだ10秒も経っていない。
しかしノアは無傷、それに対してニールの右手はもう使い物にならない。
「…ッッ お前が…魔王ノアなのか?」
「勝てないと踏んで時間稼ぎか、なるほど優秀だな。
だがそれだけだ。」
ノアはまた右腕を伸ばして攻撃してくる。今度は分裂せずに一本だけだ。だがその分スピードが早くなっている。ニールはなんとかそれを躱すと、近くにあった崩れた家屋の板を手に取り、それをノアの腕に当てて”破壊”の魔術を使った。
今度はニールが傷を負うことなく、ノアの腕を破壊することに成功する。しかし当然、ノアは無傷のように再生する。
ノアは次に、2本の腕を同時に高速で伸ばしてくる。2本ということで避けにくくなったノアの攻撃は、ニールの肩をかすった。
しかし、かすった時に瞬時に”破壊”の魔術を発動したので、なんとか追撃は免れた。だが安心はできない。すぐに再生したノアの両腕は、また高速で伸びて襲ってくる。
2回目ということもあって、今度は完全に避けることに成功するニール。すると、ノアの腕はニールが破壊するまでもなく崩れた。どうやら、持続力を犠牲にして、生成速度に力を入れて創っていたようだ。
さらにまた今度も同じように攻撃してきた。だが、僅かにではあるが、腕のスピードが落ちているようにニールは感じた。そして、そのことから腕は分裂するのだろうと直感する。
すると、予想通りに腕は3本に分かれ、ニールを襲う。しかし予想出来ていたので、ニールは難なく躱す。
ノアの腕は、またすぐに崩れた。
ノアは少し舌打ちしたかに思うと、急に距離を詰めてきた。ニールは逆にチャンスと思った。今までは離れたところからの”破壊”の伝播でしかノアを攻撃できなかったが、直接ノアの体に触れれば脳を破壊できると思ったのだ。
ニールは負傷覚悟でノアに触れようとする。
しかしその時、ノアの体は爆散した。
したと思ったら、四方八方にある爆散した破片が急に鋭くなりニールに向かって伸びてくる。ニールはあまりに急なことに対応しきれず、その攻撃をまともに喰らってしまう。ニールの腕が、足が、腹がノアによって複数箇所貫かれる。
そして気付けば、ノアはニールの後ろに立って、傷で屈んでいるニールを見下ろしていた。
傷で動けないニール。だがまだ息はある。いや、ノアによって生かされていたのかもしれない。それはニールを魔人化させるために。
ノアはゆっくりとニールに手を近づける。そして、ノアがニールに触れると、ニールは”破壊”の魔術を発動した。ノアの腕が崩れる。そしてすぐ再生した。
まるで破壊したはずの腕が、破壊などされなかったかのように。ノアは再生した手でニールの頭を掴み地面に叩きつける。
「抵抗するな。」
頭を叩きつけられたにもかかわらず、ニールはまだ意識を保っていた。そしてなんとか”破壊”の魔術を発動する。コアを付加しようとしていたノアの腕がまた壊れ、すぐ再生する。
「無駄なことだ。」
さっきと同じ工程をするが、ニールは意識を保つ。
ノアの腕はまた壊れ、すぐ再生する。
人体にコアを付加することはとても難しいことなので、約5秒間触れていなければならない。だが、ニールの”破壊”の魔術が邪魔をしてそれができないでいる。
段々イライラしてきたノア。今まで以上に強く叩きつけようとする。
その時、ノアは背後から悪寒を感じる。ノアは直感だけで腕を後ろに回し大きく膨張させて、盾のように変化させる。すると何者かがノアの盾に蹴りを入れた。ノアは後方へ吹き飛び、どうやら”破壊”の魔術を使われていたようで、ノアの腕はもちろん崩れ、頑丈なはず肩にヒビが入っていた。ここでノアは初めて焦りの表情を見せる。
その者は、ノアが何者だと聞く必要もないほど有名な男だった。そもそも”破壊”の伝播でノアの肩にヒビを入れられる人物などこの世で1人しかいない。
紅人の国アルステーデのレッドスター第一席、軍総大将マルクである。
マルクはノアを一度鋭い目で見ると、すぐに重症のニールに駆け寄る。
「ニール、1人でよくやった。大丈夫か?
今すぐ治療を…」
ニールはマルクの手を払いのける。
少し驚くマルク。
「私は…もう助かりません。それよりも…魔王について…話したいことが沢山あります…」
ノアの方は、今度は数秒かけて肩のヒビを修復した。肩の再生は、やはり腕よりも時間がかかるようだ。
「紅人にはレッドスターが3人…
森でのやつと、ここで2人…どうやら全員出揃ったようだな。1人ずつ殺されにご苦労なことだ。」
「レッドスターならまだいるぞ!」
そう声を発した者のは、マルクとニールの後ろから来た。その者とは、白人の国カルティアのレッドスター第一席、軍総大将ドルタである。
「ドルタ…何しにきた…?
と言いたいところだが、こいつは本物の化け物だ。
2人で協力といこうか。」
ドルタとマルクは、長年戦ってきた間柄だ。お互いの実力は誰よりも把握している。昨日の敵は今日の友ということだろうか。
ニールはその2人を見て、白人嫌いの私情を捨てて、2人に情報を話す。
そして、肩のヒビを修復し、さらに四肢も頑丈に創ったであろう強化されたノアがゆっくりと3人に近づいていく。
「盛り上がってるところ悪いが…
マルクにドルタか…貴様等がいなければ魔人を増やす必要もない。容赦なく殺すぞ?」




