36話 葛藤
魔王がどこからか見ているかもしれない、それは事実だが、だからってジンデルを無視は出来ない。
ジンデルは今にもオスカに襲い掛かろうとしていた。
オスカもジンデルを生捕りにしようと構える。
すると次の瞬間、ジンデルがとんでもないスピードで跳躍してきた。オスカはかろうじて攻撃を防ぐ、が防いでも手が震えるほどには痛かった。
近くにいた部下にも攻撃が及び、その部下ははるか後方へ吹き飛ばされて気絶している。
「はっはっは、これが今の俺の力!!!
オス…なんだっけ、ヤベェまた忘れた。
まあいいか、前の俺と同じと思うなよ!!」
ジンデルはその自慢の力を存分に発揮して、オスカの周りを笑いながら高速で動き回る。そして何周かしたタイミングで、オスカの背後から思いっきり蹴りをいれる。もちろんそのついでに”破壊”の魔術も使う。
オスカから鈍い声が漏れる。
「はっは、まだまだぁー!」
また、ジンデルはオスカの周りを高速で動き回る。オスカはとても怒った表情で、自分の立っていた地面を破壊した。地面の破壊はジンデルが走り回っているところまで伝播し、ジンデルの足元が崩れ、ジンデルは体勢を悪くする。直前まで高速で動いていた分余計に。
その隙を見逃さず、オスカはジンデルの首を掴み地面に叩きつける。
「慢心、それがお前の弱点だ。人間の頃からな。
だから俺やニールさんがよく注意してたよなぁ。」
オスカに首を掴まれているというのに、ジンデルは大の字に寝たままで無抵抗だ。
「…殺らないのか?」
「殺りたくねぇよ。」
オスカはその気になればジンデルに”破壊”の魔術を使って、脳はおろかコアまで破壊できる。だがそれをしない。
ジンデルはその気になればオスカが自分を掴んでる手を破壊することができる。だがそれをしない。
「なぁジンデル。俺達に寝返らないか?
俺がなんとか上を説得して、お前を死なせないから。お前が人間に協力的なところを見せればきっと…」
「…」
ジンデルは何も答えようとしない。頭の中で何かの葛藤をしているようだ。
ここで、ある男がオスカとジンデルの元に近づく。
「部下が騒いでいたから来てみれば…話は聞かせてもらったぜ、オスカ。
俺も上にジンデルのことを頼んでみるよ。」
「…ニールさん!!」
その男とはレッドスター第3席、ニールだ。
ニール、オスカ、ジンデルはよく仕事を共にした仲だ。トリプルスターのオスカより、レッドスターのニールが進言した方が、説得確率は格段に上がるだろう。
「聞いたろ、ジンデル。
俺達と来い! そしてまたみんなで一緒に仕事しようぜ!」
「…俺は…俺は……」
オスカが首から手を放し、両手を肩に当てて説得を試みる。一方、ニールは声をかけたところから動かすに離れたところで2人を見守る。
そして、ノアは上空から3人を見下ろす。
ニールは何か嫌な予感がした。
少し冷や汗をかきながら周囲を見渡す。しかし何もいない。そして上空を見上げた。
「!! オスカー上だー!!」
次の瞬間、オスカとジンデルがいたところで砂埃が巻き上がる。
倒れる2人の人影と、近づいてくる1人の人影。
「全く…だから人間は嫌いだ。
知能があるせいで私の命令をきかない…
なあ? お前は魔人になったら、私の命令に従うか?」
砂埃が消えていく。そこでニールが見たものは…
オスカは首を落とされ、ジンデルはコアを貫かれていた。
ニールは拳を力強く握り、手から少し血が垂れる。
油断していた自分自身への怒りと、2人を殺されたノアへの怒りから。
「さあな! 知りたかったら魔人にさせてみろ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜カルティア〜
アルステーデが魔獣の襲撃にあっていることは、カルティアにも知らされた。
協定を破棄して、アルステーデには何も支援しないべきだ、という意見が多数上がったがドルタは緊急事態ということで、それらの声を無視して、軍を引き連れてアルステーデへと向かう。
今回の任務は紅人の支援だということもあって、全体の士気は非常に下がっているのだが、その中でゼルは隠れながらやる気に満ちていた。




