34話 魔王の弱点
ゼルはカインのことに衝撃を受けながらも、それは国家機密となったため、なんとか周りに悟られないようにしていた。紅人との協力を望んでいた人が、まさかあんなにも悪い人だったことは、すごくショックだったけど、ゼルはライカ達やモーネを思い出して、心の鎮静剤にしていた。
ゼルが編入してきて、約半年が過ぎた。
あれからゼルは銃や爆弾の創り方だけでなく、付加や一心流も覚えたことで、確実に強くなっていた。ダブルスターのラキには、もうほぼ負けることは無くなったし、トリプルスターのメルタにも、若干劣るもののほぼ互角の戦いが出来ていた。
「いやぁーお前もうほぼトリプルスターみたいなもんじゃん…すげ。」
アドラがそう褒めてくれる。
「ほんとにな。一心流教えたの間違いだったかな。俺の攻撃全部見切られてるし…」
ラキがそう愚痴をこぼす。
「ま、付加とか覚えたら教えてなくても負けそうだけど…味方が強くなったとポジティブに考えるか。」
味方、それはゼルにとってとても気持ちの良い響だった。もちろんそれと同時にバレた時の恐怖もあるのだが…
「本当にゼルってすごいよね。あのメルタと同じぐらいの才能だなんて…」
ハニカがそう言う。
ゼルも自分の才能については、流石に周りよりも優れていると自覚している。でもまさか、それがカインの言っていた紅人と白人のそれぞれの脳の作りによるものだとは思わなかった。やはり、紅人と白人は仲良くする運命にあったのか…
しかしそれを今言うことは出来ない。この話は国家機密にもゼルの秘密にも、どちらにも関わっている。
「みんな褒めすぎ。人それぞれ良いところは沢山あるよ。俺はそれがたまたま戦闘面に傾いただけ。例えばラキの一心流にはまだまだ敵わないし、ハニカは料理が超上手い。クラーラは裁縫が得意だし、アドラは視野が広く社交性も高い。」
「…ゼルって人格面の才能もあるんだよなー。」
しばらく、アドラやラキ達の5人で会話していると、そこにメルタも加わってきた。
みんなはまた、メルタの才能にも嫉妬していた。
「そういえばさ、話変わるんだけど、メルタのお父さんやラキのお父さんは今何してるの?
なんか軍の上の人達みんな忙しそうにしてるんだけど。」
「さぁ、最近は俺あんまり親父の仕事に付いてってねぇから詳しいことは分かんねぇ。紅との協定の件もあったし、それかな?」
「俺も最近は付いてってねぇなぁ。というより来るなって言われるんだよな。」
「へぇー 何してるんだろ、気になるね。」
ゼル達が会話していた頃、軍の上層部数名が会議室に集まっていた。
一番前にモンスが立って皆に向かって話をする。
「これからする話は、生捕りにした魔人の調査、それとカイン先生の尋問から分かった、魔人及び魔王の殺し方についてです。」
「殺し方? そんなのコアを壊すだけじゃないのかね?」
魔獣の場合は、心臓部にあるコアを壊せば、それで終わりだ。そしてそれは魔人についても同じこと。しかし魔王はその範疇ではない、とモンスは説明する。
「魔王は、コアや魔獣細胞を創造できる魔人、だと考えてください。コアは魔獣細胞を再構築し、維持や修復をする役目があります。だから魔獣細胞を創る術を持たない魔獣や魔人はコアを壊されると死ぬのです。
しかし魔王は違う。魔王は魔獣細胞を自由に創り出せる。そうなると、仮に魔王のコアを壊したとしても、魔王は自分で再構築が出来るというわけです。そもそも魔王にコアがあるのかすら分かりません。」
「……ではどうしたら…」
「それは簡単、脳です。」
モンスは自分の頭に指を当てて得意気に答える。
「脳!? しかしそれも修復されて終わりではないのか?」
「いえ、脳は細胞よりも何倍も複雑で、決して創ることは叶わないでしょう。今魔王が脳を持っているのは、元の、人間だった頃の脳があるからです。
魔王が脳を失えば、コアによって魔獣細胞による再生があるでしょうが、それは脳ではない。その魔王にはもう知性はなく、そうなれば倒すのは容易。あとはコアを壊すだけです。」
モンスは配っている資料のページを開くことを指示する。
「それらは魔獣や魔人で実験をした時のものです。魔獣には臓器が必要ありません。なのに何故臓器があるのか、そう思って臓器を除去しました。すると臓器は再生されずに、その部分は魔獣細胞によって覆い尽くされました。同じことを魔人の脳でやってみました。すると魔人は知性を失い、ただ暴れ回るだけの怪物となりました。」
「しかし魔王も同じだとは言い切れないだろう。魔王が臓器を修復するほどのコアを創れないだけかもしれない。」
「…確かにその可能性は否定出来ませんが、魔獣細胞は動くことだけに特化した細胞で、普通の細胞よりも単純です。それと脳には複雑さで言えば天と地の差があります。創れないと考える方が合理的です。」
「なるほどな。」
ここで会議は終わった。
魔王ノアの弱点が判明したことは、僅かに希望がもてたと言えるだろう。
その頃、魔王ノアは紅人の国アルステーデにいた。




