26話 世界会議(2)
今日は世界会議の日だ。
ゼル達は朝早くからシルヴィア家の前で、家族の人達が出てくるのを待つ。
指揮はトリプルスターのヨハネスさんがとる。護衛の陣形はヨハネスさんを先頭にして、他のゼル含むダブルスターが馬車を囲む。シングル以下はさらにその外から囲むというシンプルなものだ。
しばらくすると、シルヴィア家の準備が整ったとの報告がされた。それを聞いてゼル達は、馬車までの道を囲み少し頭を下げて待つ。そしてとうとう出てきた。現当主のオッド氏を先頭に妻が続き、その後ろには長男、次男、三男、長女と続く。この長女がモーネであり、ゼルの護衛対象だ。
ゼルは横目でちらっと見るが、確かに噂に違わぬ美しさを持っているようだ。
シルヴィア家が全員馬車に乗ると扉を閉めて、出発の準備に移る。
先程説明したような陣形になると、いよいよ出発だ。
ゼルは馬車のちょうど横から馬を走らせる。
馬術は、アルニ村にいた時からすでにマスターしているので、馬車のスピードに合わせて走らせることは容易だった。
そして、とうとうリッキー平野の中央にある今日の会議の建物に着いた。途中、魔獣に襲われることもあったが、弱い魔獣だったし、十分過ぎるほどの兵力があるので、全く問題なく対処できた。
ヨハネスさんが馬車の扉を開ける。
ゼル達はまた、建物への道を囲み、少し頭を下げていた。
シルヴィア家の長女が通った後ろから、ヨハネスさんが付いていき、ゼル含むダブルスターもそれに続く。他のシングル以下は外で警備だ。
建物の中はとても質素な感じだった。まあ第一回世界会議の時に緊急で建てられたところなのだから仕方ないっちゃ仕方ないのだが。
そして、オッド氏は中で待っていた者に会議室へと案内される。
そして他のシルヴィア家族はヨハネスさんや、ゼル含むダブルスターにそれぞれ個室へと案内される。
ゼルはモーネに、「こちらへ」と言って指定された個室へと案内した。
個室では、椅子とテーブルが一つずつ用意されてある。当然、モーネが使う物だ。
ゼルは中の椅子まで案内すると、入り口付近で待機していた。
基本的には、ゼルの任務は護衛だけなので、これで十分なのだ。
だが、少しするとゼルはモーネに呼ばれた。
流石に答えないわけにはいかない。
「何か御用でしょうか?」
ゼルはモーネの座っている椅子の横まで行くと、そう言って用を聞いた。
「大した用じゃないのだけれど、ただ待つのは退屈でしょう? 少しお話でもしましょう。私もあなたのことを知りたいですし。」
「分かりました。何でも聞いてください。」
モーネはゼルにいくつか質問した。
その内容は、アルニ村では何をしていたのかとか、熊の魔獣と相対した時のこととか、ゼルがブランロードに来てからよくされる質問ばかりだった。だが、次の質問は、ゼルは初めて受けるものだった。
「あなたは紅人についてどう感じていますか?」
モーネはそうゼルに聞いた。こんな質問は、ゼルにはアルニ村でライカに一度聞かれたぐらいで、対白人ように用意した答えなどなかった。その理由は明白で、白人は皆、紅人に対しては酷く憎い対象として共通の認識を持っている。つまり、聞く必要のない問いなのだ。
ゼルは返答に困った。普通なら酷く憎いということを伝えるのだが、わざわざこんな質問をするのだ。何か裏があるのか、と思った。
もしかしたら紅人が憎いなどと偽りたくないという思いもあったのかもしれない…
「…酷く憎い存在…と言いたいところですが、私は紅人についてあまり知らないので、正直分かりません。」
ゼルはそう答えた。正直な告白、とまではいかなかったが、ゼルの苦しみは少し軽減された気がした。
モーネを見ると、少し驚いてゼルを見ていた。
「そうですか…私はこの質問を何度かしたことがあるのですが、皆一様に同じような答えばかりでしたので、今の答えには少し驚きました。」
モーネはゼルの方に体ごと向き直る。
「何故そのように思うのですか? 憎くはないですか? いや…やっぱりいいです。あなたのことばかりではなくて、私のことについてもお話しましょう。」
モーネは自分の胸に手を当て、ゼルと同じように自分のことについて話した。そして…
「先程あなたにした質問について、私も答えましょう。私は紅人のことを…憎くは思っていません。」
ゼルは少し目を見開いて驚く。
「だからと言って別に好んでもいません。なぜならあなたの言った通り何も知らないから…
私が何故こう思うかについて少し詳しくお話します。気分を害されたらすいません…」
モーネは目線を下に逸らした。
「王族は知りませんが、貴族の間で流行っている娯楽があります。その内容は…生け捕った紅人を拷問すること。」
ゼルは息を呑んで聞いていた。
自分の知らないところで、まさかそんな非人道的なことが行われてるとは思わなかったからだ。
胸糞が悪くなりながらも、モーネの言葉を一言も漏らさずに聞いていた。
「しかもそれは、情報を吐かせるためにするものではなく、ただの娯楽です。
実は……私も昔させられたことがあるのですが、その時は心底気分が悪くなりました。あの時の感触や匂いは、今でもはっきり覚えています。
しかしどうやら、私の方がおかしいようです。
父も母も兄達も、他の貴族達も、嬉々として拷問を楽しんでいるようです。」
ゼルは自分の望む世界が段々と遠のいていくような気がした。
「他にも、白人の誇りを忘れないために、紅人の愚かさを認識するために、紛争の見学に行ったこともあります。
私には、意味のない命の奪い合いとしか思えませんでしたが…
白人と紅人は、ただ色と魔術が違うだけです。むしろ国の制度や国民の生活などは非常に似てすらいます。なのに何故争うのでしょうか。
私には今の世の中が合っているとは決して思いません。ですが、私には世の中を変えれるだけの力がありません。この事を昔両親に言ったことがあります。
しかし全く相手にされない上に酷く怒られ、涙まで流されました。
私は間違っているのでしょうか?」
「…………いえ…少なくとも私は、モーネ様のお考えに賛同します。」
モーネはゼルに向かって微笑んだ。
「うふふ、そう言っていただいてすごく嬉しいです。思い切って話してよかった。なんだか気分が少し軽くなったような気がします。」
その気持ちはゼルも全く同じだった。
「人は考える力を持つ唯一の動物です。にもかかわらず、人は考えることが億劫なんです。だから、皆他人の意見に賛同してしまう。紅人が憎いという意見に。
私はこの国の貴族として、こんな世界を容認するつもりはありません。今は方法がなくても、考えて考えて、考えることをやめずに考え続け、この世界を変えたい…それが私の願いです。」
「すばらしいお考えです。是非応援させてください。その願いが叶うことを私も望みます。」
ゼルは心の底からそう思った。
この人になら、ゼルの正体を明かしてもいいかも…そう思ったが、ゼルはやっぱり踏み出せずにいた。
「うふふ、どうもありがとう。
あなたと話すのなんだか楽しいわ。」
ゼルは軽く礼だけしてすませた。
「おっと、もう昼の2時なのね。そろそろ会議が始まる頃かしら。」
「今回の議題について、あまりよく知らないんですが、一体どういったことを議論されるのでしょうか?」
「ごめんなさい…私も良く知らないの。前回は皮肉にも…魔獣のおかげで…休戦ということになったから、今回は協力…だと良いのだけれど、あの方達のことだから…」
「そんなに皆様紅人がお嫌いなのですか?」
「えぇ、それはもう…うんざりすることばかりですよ。例えば、かつてカイン様というとても優秀な科学者の方がいたんですが、魔獣が現れた頃に紅人と協力するという理念を掲げただけで干されてしまったことがあるんです。」
「…そんな方がいたんですか。」
「えぇ、確か今もご存命ですよ。どこかで隠居されてたはずです。でも、その時の方達とほとんどメンバーが変わっていないので心配です…」
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〜会議室〜
「それでは、これより会議を始めます。」




