24話 レベルアップ(3)
今日も朝から訓練だ。だが今日はいつもとは違って、午後からの軍の仕事が休みなのだ。
もちろん訓練は毎日あるのだが、仕事の方は月3ぐらいで休暇をもらえる。
そして、今日の訓練ももうすぐ終わりそうだ。今は最後の模擬戦である。
第6試合、ゼル対ラキ 実はラキとの模擬戦はこれで4度目くらいだが、今のところ1勝2敗で負け越している。初めての模擬戦の時に、ラキの一心流に翻弄されてしまったのだ。百見は一験にしかずで、外から観戦していた時よりもずっと早かった。そして2戦目でゼルが勝利し、3戦目ではラキが勝利したというわけだ。
そして4戦目ではゼルが勝利したようだq
なんとか、ラキに居合をさせないように立ち回った結果だ。
そして、第9試合が終わり今日の訓練が終わった。
ゼルは休みをどう満喫しようか考えていた。アドラ達とどっか遊びに行こうかとか、この前メルタに教えてもらった付加の練習をしようかとか。
そこへ、ラキがやってきた。
「なあゼル、お前今日休みだろ?
実は俺も休みで、実家に帰る予定なんだ。良かったらお前も来ないか?
お前なら、一心流をものにできると思う。」
ラキから思わぬ提案がされた。
したいことがいっぱいあったゼルだが、ラキの一心流には、前から少し興味があったので、行くことにした。それに、ラキの実家といえば、もしかしたらラキの父、レッドスターのザキに会えるかもしれない。
そんな希望を抱いて、ラキの家に着いた。
学校からはそれなりに近かったが、通うにはしんどそうなところだった。
家は大きく、木製で厳格な雰囲気があって、いかにも武道をしていそうな感じだ。
お邪魔します、と小さい声を出しながら、ラキと共に玄関から入る。
すると、奥から大人の女性の人が出てきた。おそらくはラキのお母さんだ。
「あら、ラキ。お友達?」
「そう。」
「ゼルと言います。よろしくお願いします。」
そう言ってゼルは頭を下げた。
「え、ゼル君? あの、熊の魔獣を倒してハイルーツ校に編入したっていう?」
「はい、そうです。」
実はゼルは結構有名人になっていて、街中でもよく声をかけられる。だから、ラキのお母さんが知っていたことにも驚きはしなかった。
「ゼルに一心流教えるから道場使うよ。
親父か兄貴いる?」
「いいえ、今はお仕事よ。ここ最近忙しいそうで。」
「マキは?」
「いるわ。」
「ん。
じゃあゼル付いてきて。」
ゼルはラキに道場へ案内された。
そこには、大きく一心流と書いた立札が飾ってあった。
「じゃあ、早速だけど始めようか。」
ゼルはまず、普通の居合から教えられた。居合自体は、極めるのは難しそうだったが、形になるぐらいにはすぐに習得出来た。
「うん、居合はいい感じかな。
俺がこんなこと言ったらダメかもだけど、一心流とか大きいこと言ってるけど、結局はただ居合が速いだけの流派だからな。居合が出来てないと先に進めない。
ただ、まあ一心って一応ちゃんとした意味があるんだ。文字通り心を一つにするって意味なんだが、その一つにする対象が剣だ。」
そう言うと、ラキは右手に剣を一瞬で創った。次に岩を創り、右手の剣でそれを豆腐のように切る。
ここまでよく切れる剣を瞬時に創ることはゼルには出来なかったため、少し驚いた。
「すごいな。ここまで高性能の剣は俺には創れない。」
「まあそりゃ、俺はずっと小さい時から剣に触れてきたからな。」
「どういうこと?」
「ん、知らないのか? 人は物に思い入れがあった方がより良い物を創れるんだ。まあその方がイメージ力が上がるかららしいが。」
「なるほど。」
「全ての物でバランスよく練度を上げていってもいいが、それだといずれ限界が来ることが多い。実際トリプル以上の人は大抵何か一つに長けている。例えばアルバーニ教官は銃、俺の兄貴は剣。レッドスターで言えば、俺の親父は”剣神”だから剣。第二席のソニアさんは”地神”だから土。」
「へぇ。」
ゼルは自分も何か極めた方がいいのかなと思いながら聞いていた。
「ただ例外として、メルタとその父ドルタはその範疇ではない。あの2人は何も極めることなく…いや、全てを極めたと言った方が適切なのかな…?
まあ、あの2人はその応用力で他を圧倒する。色んな物を創って戦うってことだ。それゆえにドルタさんの異名が”混沌”というわけだな。
どちらかと言うと、お前もそのタイプかもな。」
「やっぱりメルタは異常だったのか…」
「ああそうだな、俺は剣があったからここまで来れたが、あいつはそう言った物無しでトリプルだからな。
まあ、話を戻そう。
つまり一心流とは、心を剣に一つにして、剣術、剣の創造の練度を高めるということだ。」
ラキはまた岩を創り、離れたところに置く。
「剣は重い。だから振る時にどうしても減速してしまう。だが一心流はその減速を限りなくゼロにする。」
ラキは手には何も持ってないが、まるで剣を持っているかのように居合の構えをする。
そして居合をする。実際に剣を持っていたらもうすぐ岩に届きそうな時、剣を創造し、岩を切る。
それは、ゼルが目に全神経を集中させてかろうじて捉えることが出来るほどの速さだった。
「このように一撃で決めることが多いことも、一心流の名前の由来となったらしい。」
ラキの持っていた剣が崩れる。数秒しか持たないように設定していたということだ。おそらく体力の温存や持続力を犠牲にしてより高性能の剣を創る、などの狙いがあるのだろう。
「さ、実際にお前もやってみろ。出来れば0.1秒以内に剣を創れることが望ましいが、これはそこまで高性能な剣じゃなくても凄い威力を発揮する。
駄刀なら、お前も一瞬で創れるだろう。」
ラキに言われた通りにゼルはしてみた。的は岩ではなく竹5本だ。居合の経験など全くないため、通常の居合では、名刀ならともかく、ゼルは切ることは出来ないだろう。
しかし、ラキの教え通り、持っているつもりの剣が竹に触れる直前で、剣を創る。すると、スピードが乗り、ゼルは竹5本全てを切ることに成功した。
「おお、やるな!
まあ理想はもう少し遅めに剣を創ることだが、初めてにしたら十分すぎるほどだ。」
ゼルは結構完璧にしたつもりだったが、ラキの目からすると創るのが早かったらしい。
「じゃあ妹呼んでくるけどいい?」
「えっ?」
「いやーえっと、実は妹がいるんだけど、かなり修行サボり癖があってさ。俺の見立てではすでにお前の方が一心流の練度が高い。
変にプライドあるやつだからさ、お前に負けたら修行頑張るかなって…」
ラキは視線をずらして、首に手を当てて答える。
妹とは、さっきマキと言っていた子だろうか。
「お前…まさか今日そのために俺を呼んだのか?」
「…いや、真剣に教えるつもりだったぞ! ただ2次的な効果として期待していただけだ!
ま、授業料だと思ってさ、」
「…まあいいけど。
で、どんな勝負をするの?」
ラキが勝負の説明をする。
その内容は、普通の居合の試合と同じような感じだ。何か物を創り、それを切る。その時の構えや所作、切れ味などで判定する。だが、今回はマキを納得させるため、その切れ味だけで勝負を決めることにする。
「さっきのを見た感じ、お前なら多分、このくらいの岩なら切れるだろう。これをマキの前で切ってくれ。」
そう言ってラキは大きな岩を創造した。
試しにゼルが切ってみると、岩は真っ二つに切れた。
「よし、じゃあ呼んでくるぞ。」
少しすると、ラキがマキを連れて道場に入ってきた。
「もー何? 私忙しいんだけど?
…え、誰?」
ただ道場に来い、と言っただけだったのか、マキがゼルを見て戸惑っていた。
「こいつはゼルって言って俺の学校のクラスメイトさ。今日休みだったから一心流をちょっと教えたんだが、すでにお前より上手そうだぞ。」
「はぁ? なわけないでしょ! 流石に私でも初心者には負けないよ。どうせそう言ったら私が修行するとか思ってるんでしょ?」
マキはそう豪語するが、ラキはずっと笑ったままだ。
そして大きな岩を創った。
「じゃあ早速勝負といこうか。この岩を切った方の勝ちだ。簡単だろ?」
「ちょっと! なんで私がそんなことしなくちゃいけないの?」
「まあいいだろ? これでお前が勝ったら、もうちゃんと修行しろ、とか言わないから。」
「…まあいいけど。
じゃ、私先行ね。」
そう言ってマキは居合の構えをした。そして一心流の居合をする。しかし、刀は岩に当たると折れてしまい、岩にあまり傷はなかった。
それにマキは驚く。
「ちょ、ちょっと! あの岩硬くない!? 普通の岩だったら切れるのに…!!」
「あぁ、普通のより硬く創った。」
「それじゃ勝負にならないじゃん! どっちも切れないんだから!」
「まあ見ていろ。
それじゃゼル、頼む。」
怒るマキに、ゼルを見ていろとと諭すラキ。
ゼルは頷くと居合の構えをする。そしてラキの教え通りにする。すると、岩は真っ二つに切れた。
「んぇ!?…なんでよ!?
…分かった! 私の居合で岩が弱くなっちゃったんだよ! それか岩になんか細工した?
切りやすい角度を創ったりとか!!」
「じゃあ、今度はお前が岩創れよ。
ゼル、もう一回いいか?」
ゼルは頷く。
すると、マキは少し時間をかけて、大きくて硬そうな岩を創った。
「これは多分私でも切れない。これを切れたら負けを認めるよ。」
ゼルは早速居合の構えをする。そして振るった。
すると、マキが創った岩はまた、真っ二つに切れた。
「…は? なんでよ!!
分かった! 本当は初心者じゃないんでしょ!!
どっかの道場で一心流を学んでたんでしょ!?」
マキは必死に言い訳をする。
「残念ながら、ゼルは正真正銘の初心者だ。その証拠にゼルは前まで辺境の村にいたんだぞ。その新聞もある。」
「新聞って…
あぁ今思い出した。ゼルってあの熊の魔獣倒した人の名前か…」
そう言ってマキは黙り込んでしまった。
そして道場から出ていこうとする。
「どこへ行く?」
「負けたら修行するとは言ってない!!」
マキはそう言って道場の扉を勢いよく閉めた。
「…あれでいいのか?」
「まあ、あいつにはこれが一番効くだろ。
ありがとな。」
「まあ、助けになったならよかったよ…」
ゼルはこれにてラキの家を去った。
ちなみに、マキはラキが学校に戻った翌日に、修行に励み直したそうだ。




