20話 訓練
数時間かけてゼルは首都ブランロードに着いた。
都心部に入った時から感じていたことだが、街の通路が舗装されていたり、しっかりと石などで出来た家が立っていたりと、村とは全然違う。
もう暗くなっていたので、ハイルーツ校の近くの宿に泊まることにした。近くにゼルの寮があるのだが、寮は2人の相部屋で、まだ自己紹介も済んでいないのに、誰かと一緒に寝ることになるので、それはやめようということになった。
そして、皆が学校にいる朝に自己紹介をすることになっている。
ちなみに、5m級の熊の魔獣を倒した少年がハイルーツ校に編入するというのは、かなり広まっているようで、街や宿でよく声をかけられた。褒められるのは、ゼルのことを認めてくれているような気がして、嬉しかった。
すぐに翌日となり、ハイルーツ校へと向かった。
まずは荷物を寮の部屋に預けに行く。今はもう全生徒は学校にいるはずなので大丈夫だ。
相部屋には、ベットが左右の壁際に1つずつあり、まさに寝るためだけにあるような感じの部屋だった。
そして、クローゼに連れられて、ゼルはハイルーツ校に入った。
大きい廊下の真ん中で、クローゼの左斜め後ろを歩く。
どうやら今は、全員教室にいるらしいので、そこへ向かっている。
そして目的の教室につくと、クローゼが扉をノックして開けた。
「アルバーニ教官、編入生を連れてきました。」
クローゼがそういうと、アルバーニ教官という人が手で迎え入れてくれたので、それに従って中に入る。そして教壇の中央に立ち、生徒の方を向いた。
「編入生のゼル=スヴェート君だ。」
アルバーニ教官が生徒に向かってゼルを紹介する。その後に、ゼルはよろしくお願いします、と言って深々と頭を下げた。
全員が真剣な顔でゼルを見る。
ゼルは村などとは異質の空気を感じとった。
「よし、それじゃあ早速だけど、訓練に行こうか。」
アルバーニ教官はゼルを含めたみんなに言うと、グラウンドへ移動した。
グラウンドはトラック1kmくらいはありそうな広いグラウンドだ。まずはウォーミングアップということで、このトラックを2時間以内に25周する。
スタートの合図がされると、みんな一斉に走り出した。少しすると、ゼルの横に1人の少年が並んだ。
「俺アドラ、よろしくゼル。」
「うん、よろしく。」
アドラは前を見つつも、少しゼルの方を向いてから挨拶する。ゼルもそれに応えた。
「ちなみに俺ら同部屋だからな。仲良くしような。」
「そうなんだ。」
「まあなんか分からないことがあったら聞いてくれ。」
「んーと、じゃあこれが終わったら何するの?」
「日によるけど、多分今日は無限石じゃないかな。」
「何それ?」
「石を魔術で創って、それを砕く。これを限界まで繰り返すんだ。ちなみに砕くのは素手でも、自分で創ったものなら道具でもオーケー。
それで少し休憩してから、多分模擬戦かな。その後は軍の仕事。」
「なるほどね。」
「そういえばさ、お前、5m級の熊の魔獣倒したって本当なのか? まあ、本当だからここにいて、ダブルスターが与えられてるんだろうけど…」
「うん、本当だよ。まあ運も結構あったけどね。
そういえば、俺以外にダブルスターが1人とトリプルスターがいるって聞いたんだけど、誰?」
「ん? お前知らねーのか、結構有名人だぞ。まあいい、順に紹介していこう。
まずお前と同じダブルスターは、今先頭を走ってるアイツだ。名前はラキ=スペルベン。軍の三戦士第三席、”剣神”の異名を持つレッドスター、ザキ=スペルベンの次男だ。
次に俺達の少し前にいるアイツがトリプルスターだ。名前はメルタ=ブラウン。軍の三戦士第一席、”混沌”の異名を持つレッドスター、ドルタ=ブラウンの1人息子だ。」
「なるほど。」
軍の三戦士については、辺境の村にいたゼルでも流石に知ってるほど有名だ。その内の2人の息子が同じ学年にいるとはなんとも偶然だ。
2人は同じペースで走り続けて、約1時間半で走りきった。すでに10人くらいは終わっていて、あとの6人はまだ走っている。ちなみに、終わった者から無限石を始めないといけないので、ゼルとアドラもすぐに始めた。
ゼルは、砕く作業の”破壊”の魔術バージョンを毎日やっているので、特に戸惑うことなく進めていく。
1個、2個…とどんどん石を創っては砕いていく。
横のアドラは1時間10分の2000個でギブアップした。その時ゼルは2500個を超えていて、少しだけ息が荒くなってきた程度だ。
「ハァ…ハァ…流石は…ハァ…ダブルスターだな…」
横でアドラがグラウンドに寝転びながら、息を絶え絶えにして悔しそうに言う。開始の時間もあるだろうが、現時点で残っているのは、ゼル、ラキ、メルタのダブル・トリプルスター以外では2人しかいないので、アドラは優秀な方と言うべきだろう。
それから15分が過ぎると、ゼル、ラキ、メルタのみになった。それからさらに40分経って、ようやくラキがギブアップする。またさらに10分後ゼルがギブアップ。残るはメルタのみとなった。
「ようやく終わりかお前も、2時間15分で約5000個って…ヤベェな。」
グラウンドにぶっ倒れているゼルを上から見下ろすアドラ。
「ハァ…ハァ…ここまで疲れたのは久々だ…」
結局、メルタは30分後にギブアップした。
記録は2時間50分で約8000個。ゼルは、”創造”の魔術だけなら、間違いなく自分より上だと確信した。
メルタが終わってから30分の休憩がある。
その休憩の終わり間際に、すでに体力が回復したゼルは、アドラと仲良く話していると、同じく体力が回復メルタが近づいてきた。
「ん、どうしたメルタ? 何か要か?」
アドラがメルタに聞く。
「ああ、ゼル…と言ったな。頼みがあるんだが、次の模擬戦、俺としないか?」




