19話 ハイルーツ校
クローゼがゼルを軍に勧誘した。
「軍に入ると言っても君はまだ15歳だから、あと3年は軍校に入ることになると思うけど。首都ブランロードにあるハイルーツ校。我が国一の名門校で編入例などあまり記憶にないが、君には十分に入る資格がある。」
ゼルが黙っているとクローゼはさらに話を続けた。
「もしかして村の心配をしているのかな?それならば心配はいらない。もしまた同じように魔獣共が攻めてきても、撃退出来るぐらいの兵力を常につけるつもりだ。
まあ、即決出来ることでもないだろうから、よく考えてくれて良いよ。また数日後にも来ると思うから、その時に答えを聞かせてくれ。」
ゼルがはい、と返事をすると、クローゼはベルムードに軽く挨拶してから、仮村を去っていった。
「ゼル!! お前やっぱり凄かったんだな!!
ハイルーツ校だなんて!!」
ファルが興奮しながら近づいてきた。
「そんなに凄いとこなのか? ハイルーツ校って。」
「ったりまえだろ。定員わずか20名で毎年倍率が100倍以上はある名門の中の名門だぜ?」
「しかも編入だなんてね…それほどまでに凄かったとは…」
後ろからルミネータも加わってきた。
「それで…どうするの?」
「…まだ考え中。」
そう言ってゼルは手を頭に当てた。
そして、クローゼが来る前日の深夜になるとゼルはこっそりライカを呼び出した。
「何、話って?」
「ああ、ハイルーツ校のことなんだけど、俺、行くことにするよ…」
「…そう。」
ゼルは上を見上げながら語り出す。
「これでも結構悩んだんだ。ハイルーツ校に行ったら、ライカやみんなに会えなくなる。新しい環境に馴染めるのか、とか色々と不安はあるんだけど…
でもさ、覚えてる?
今の世界を壊して、新しい世界を創ろうってやつ。ああ言ったものの、結局俺は一歩も踏み出せないでいた…」
ライカは、ゼルの正体のことを孤児院のみんなには話しても大丈夫だと思うとか言って、積極的な姿勢だったが、ゼルはそれを躊躇していた。みんなに嫌われるのが怖いから。
「そんな俺が、一歩踏み出してみようと思うんだ。ハイルーツ校に行けば、国の偉い人達と接触する機会もあるだろう。そこで世界を知る。
世界を変えるためには、まずは世界を知らないとな。」
「そうね、ゼルはそれが良いと思うよ。それにゼルは優しいから、誰かを守る仕事はピッタリだと思うよ。」
「ありがとう。それじゃあもう夜遅くだし、今日は寝ようか。」
「あ、ゼル! ちょっと待って!」
「ん?」
ゼルが寝床へと戻ろうとした時、後ろからライカに呼び止められた。ゼルが振り返ると、ライカはゼルの後ろに手を回し、ゼルの口にキスをした。
「本当は別れ際にしようと思ってたんだけどさ…その、みんなの前じゃ恥ずかしいから今しちゃった。」
ライカは顔を赤らめて目を逸らしながら言う。
そして息を吐くと、今度はゼルと目を合わせた。
「じゃあね。気をつけていってらっしゃい。
いつでも待ってるからね。」
「うん。」
2人は寝床へと戻った。
翌日、クローゼが来た。そこで、ハイルーツ校へと向かうことを伝える。村のみんなには、朝一に伝えたので、もうお別れ会は済ませた。
「まあ、また手紙とか書くよ。それじゃあね。」
ゼルはそう言うと、手を振りながらクローゼの馬車に乗り込んだ。
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〜馬車の中〜
クローゼはゼルの隣に座った。
「改めて歓迎するよ。よろしくゼル君。」
「は、はい。よろしくお願いします。」
「早速だが、これから君が向かうハイルーツ校の軽い説明でもしておこう。
まずハイルーツ校は全寮制だ。君はそこで暮らしてもらう。そして、授業は基本的に朝から昼まで。
昼からは、実際の兵士の様に働いてもらうことになっている。」
「まだ学生なのにですか?」
「そうだ。ハイルーツ校に通う生徒は皆優秀で、シングルスター以上の称号を持っているからな。実は、あの休戦協定のせいで軍を辞めた者が多くてな。君の学年からも3人辞めたから、君を入れて全部で18人なんだ。そんなわけで軍は今とても人手不足。
だから学生にも働いてもらうことになった。」
「その、シングルスターって一体何なんですか?」
「ん、ああ知らなかったか。シングルスターというのは、一般的な草食系魔獣を難なく倒せるレベルの兵士に贈られる称号だ。ちなみにダブルスターは、一般的な肉食系魔獣を難なく倒せるレベルの兵士、トリプルスターは、最大級の肉食系魔獣を難なく倒せるレベルの兵士に贈られる。さらにその上にレッドスターという称号がある。この称号を得るには、何か華々しい偉業を成し遂げないといけない。ちなみに今は紅白それぞれの軍の三戦士だけに贈られている。」
軍の三戦士とは、休戦協定前に戦争で、白人なら紅人を、紅人なら白人を、計10万人以上殺した者達だ。何の偶然か、カルティアでもアルステーデでもそんな兵士が3人ずついる。だから、レッドスターの称号を得ているのは、全世界でたったの6人というわけだ。
「ちなみに君はダブルスターの称号を得ている。5m級の熊の魔獣を無傷で倒したのだから、トリプルスターでもおかしくはないのだが、誰もその瞬間を見ていなかったことと、君自身が運によるものだと言い張っていることからこうなった。」
実際のところ、”破壊”と”創造”の両方の魔術が使えるのなら5m級の熊の魔獣でも容易に倒せるが、”創造”の魔術のみならそれは微妙だ。”破壊”と”創造”の両方ならトリプルスターかもしれないが、”創造”だけならダブルスターというのは妥当なところか、とゼルは思った。
「トリプルスターではないが、その年でダブルスターは十分過ぎるほど凄いことだよ。実際ハイルーツ校にいる君の学年の生徒はほとんどがシングルスターだからな。
君と互角もしくはそれ以上に戦えそうなのは、君の学年では2人だけだよ。
といっても、例年なら君は首席でもおかしくないほどだ。ただ今年はその2人が優秀過ぎるからね。
1人はトリプルスター、もう1人は君と同じダブルスターだ。どちらもさっき言ったレッドスターの息子だよ。」
同年代に自分と互角以上に強い人がいる。
ゼルはそれを聞いて、新しい環境に不安を覚えながらも、胸が高鳴るのを感じていた。




