18話 勧誘
あの魔獣襲撃事件から少しして、報せがあった。
その報せによると、カルティアとアルステーデの両方で村々が壊滅的な被害を受けた。
生き残りが少ないとはいえ、かなり多くの村が襲撃されたことで、両国とも大人数の難民を抱えることとなった。その難民については、ひとまず都心部の近くで待機だそうだ。
そして、次の記事に誰もが目を疑っただろう。
紅人と白人が一旦休戦に入り、魔獣への対応を優先するらしい。それに伴って、長年戦争地として利用してきた、両国にまたがるリッキー平野を共有の避難先にするそうだ。
これはカルティアの国王とアルステーデの国王が話し合った結果らしい。
ライカが一人、ゼルの元へとやってきた。
「ゼル、これって…」
「ああ、俺達にとっては喜ばしい報せだな。まさかこんな形で一歩前進するとは…」
「でも、急にこんなことして大丈夫なのかな?」
「まあ、反対意見は多数上がるだろうな。でも、今回の事件は異例中の異例。国王たるもの国の存続を優先させたというところか。」
ゼルとライカがそんな会話をしていると、またフィネル達と、その上司と見られる男が仮村にやってきた。ベルムードがその対応へと向かう。
「初めまして、私はフィネルの上司のクローゼと申します。まずはここにいる皆さんについてですが、同じく被害を受けたいつくかの村で合併し、新しい村を作っていただくことになりました。場所は都心部の近くです。まあこの辺りですね。近々別の村の生き残りの方達が来られると思います。」
要するに、魔獣によって村を追われた難民はその難民同士で新たに村を作れということだ。
「それからもう1つ。5m級の熊の魔獣を倒したという少年を紹介していただけますか?」
ベルムードはクローゼをゼルの元へと連れてきた。
「ゼル君、というんだね。本当に君が熊の魔獣を倒したのかい?」
「はい、えーと…まあ運が良かったみたいなとこはありますけど。熊の魔獣が僕の目の前で転んだんです。足元が悪かったみたいで。」
ここは少しだけ誤魔化しておくことにした。
“破壊”と”創造”の魔術の両方が使えるのなら、5m級の熊の魔獣だろうが容易に倒せると思っていたが、”創造”の魔術しか使えないのなら、倒せるかは微妙なところだと思ったからだ。純粋な白人を演じているゼルにとっては、後者の場合での想定をするべきである。
「だとしてもすごいことだ。
少しその力を見せてもらってもいいかな?」
ゼルが頷くと、クローゼは部下の1人を手招きしてゼルに紹介する。
「こいつは俺の部下のピーターって奴だ。シングルスターの称号を持っている。こいつと戦ってほしい。」
休戦により、軍人は魔獣を狩るのが主な仕事となったため、倒せる魔獣を明確にするために、軍人はその強さに応じて等級分けされたと聞く。シングルスターというのがどのくらいなのかは知らないが、見た感じピーターという男はそれなりに手強そうだった。
ゼルは了解の返事をすると、右手に木の剣を創造した。もちろん、ただの模擬戦なので、誤って殺さないようにするためだ。ゼルにとっては木の剣は普通の剣よりも、創るのが数倍は簡単なので、大したことをしたつもりは無かったのだが、観戦している兵士の人達は、少し驚いていたようだった。
ピーターも、木の剣を創造する。
クローゼが始めの合図をする。
ゼルはそれと同時に、一気にピーターへと駆け寄り、木の剣を振る。ピーターはゼルのスピードに驚きながらも、木の剣でそれをガード。ピーターはもう片方の手に剣を創造し、それをゼルに振り下ろす。ゼルはそれを盾でガードして大きな力でピーターの剣を押し返す。ピーターは後ろにのけぞり、さらに両手が塞がっていて隙だらけだったので、ゼルはピーターのみぞおちに蹴りを入れた。
ピーターは後ろに吹き飛び、腹に手を当てて苦しそうにする。そのピーターの首にゼルは木の剣を当てた。その時終了が告げられた。
「そこまで!! 勝者ゼル!!」
観戦していた兵士達は、驚きつつも大きな歓声を上げる。村のみんなはゼルの強さは知っているので、驚きはしていなかった。
少し回復したピーターがゼルの元へと駆け寄ってきた。
「いやぁ完敗だよ。スピードもパワーも、おそらく魔術も俺より上だ。」
そう言ってピーターはゼルに手を差し出す。
ゼルはそれに応えて、2人は握手をした。
そこへ、クローゼが拍手しながら近寄ってきた。
「すまないね、試すような真似をして。実に見事だったよ。」
クローゼは、改まるように1回だけコホンと咳をする。
「ところで、君は確か孤児だそうだね。
もしよかったら、軍に入って我々と共に魔獣を狩らないかい?」




