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背羽  作者: KMY
7/8

#7 勇気

 押谷さん。

 何度もその番号にかけるが、応答がない。

 苛立ちを感じながら携帯電話を閉じた泉佐野は、学校の屋上に立っている。

 後ろには、瀬庭も立っている。

 あの銃創のたくさん残っている翼を広げて。

「返事、ないの?」

「うん」

 泉佐野は、うなずく。

「多分、逆探知していると思う」

 泉佐野が言うと、瀬庭もごくりとつばを呑んで頷く。

「もし、謝って赦されるとしたら……、どうする?瀬庭」

 振り返る泉佐野が尋ねると、瀬庭はしばらくうつむいて黙っていた。

 そして、にこりと笑顔で泉佐野を見る。


《瀬庭美奈子と言います。これから1年間だけですが、よろしくお願いします》

 二人が二回目に会ったあの時。

 瀬庭は、泉佐野に微笑んだ。殺意を込めて。

 でも今は、そんな殺意などなかったように思えた。

 ただ、純粋な笑顔――・・。


 泉佐野は、空を見上げていた。

 押谷さんが来たら、謝る。全力で謝る。

 僕が抱いてあげるから、瀬庭はもう悪いことはしません――・・。

 そう言って、土下座してもいいと思っていた。


 ドン。

 ヘリコプターの音とともに、その無残な音は聞こえてきた。

 2人の手前に当たったその弾は、屋上の床をへこませる。

「押谷さあああああああああああん!!!」

 泉佐野は、全力で手を振り上げる。

 瀬庭も、全力で手を振り上げる。


 ヘリコプターは、5つ。

 その全てから、銃がこちらへ向けられている。

 ドン。ドン。ドン。

 2人は全力で走って、なんとかかわす。

「押谷さん!話を聞いてくれ!!」

 泉佐野が叫ぶが、瀬庭はそんな泉佐野の腕を強く掴む。

「飛びたい」

「えっ?」

 泉佐野が思わずそちらを見ると、瀬庭は続ける。

「最後でいいから……、飛びたい」

 一切のしがらみのないその瀬庭の笑顔を見て、泉佐野も笑顔になる。

「僕にも、さっきあんなことを言ってしまった弱みがあるよ。……一緒に飛ぼう」

 ドン。

 次の銃声が、屋上を囲む柵の一角を裂いた。

 2人は、屋上の端の、その裂け目の上へ走り乗った。

 そして、上を見上げる。

 5つのヘリコプターのうちの1つが、ゆっくりと高度を下げる。

 2人は、ぎゅっと手を繋いでいた。

 そのヘリコプターが、着地する。

 2人は、体は外を向いて、顔だけヘリコプターのほうを向いていた。

 ヘリコプターから、1人の迷彩服で太った男が出てくる。

 押谷だ。

 押谷は、どかどかと、それでもなお瀬庭に銃を向けながら、泉佐野に尋ねる。

「なぜ、私を裏切りましたか」

 泉佐野は、そんな声にはびくともしなかった。

「僕は、瀬庭を説得しました。僕がずっと抱いてあげるから、瀬庭はもう悪いことはしない。そう誓いました」

 それを聞いて押谷は、ため息をつく。

「泉佐野、君には2つの罪がある」

「何ですか」

「我々を裏切った罪、そして敵に同情した罪だ」

「僕は軍人ではないので何も分かりません」

 泉佐野はそう言い、次に瀬庭の方を見る。

「私、地獄行きかな」

 瀬庭がははっと笑う。押谷はすごい剣幕で、瀬庭の背中に向かって銃を構えている。

「私の翼も、こんなにボロボロになっちゃって」

 後ろを全く気にせずに瀬庭は、翼の端にそっと触る。羽根がいくつか、舞い落ちる。

「ううん、僕も瀬庭も、もうすでに立派な翼を持っているよ」

「分かってる」

 瀬庭はそう言って、泉佐野の背中をぎゅっと抱く。

 これまでの抱き方とは違って、やわらかい自分の体を、ぎゅっと押し当てるように――・・。

「今までで一番あったかいよ、瀬庭」

「ありがとう」

 2人のやり取りを聞いて、押谷は一気にこの2人を止めなければいけない感情にかられた。

 しかし、やめた。――同情は、しない。軍人として。

 押谷は、瀬庭に銃を構えている。

 この校舎は、4階建て――・・。


「さあ、飛ぼう」泉佐野。

「私とあなたの翼で」瀬庭。

 瀬庭は、銃創に満ちた翼を大きく広げる。

 そうして、2人は、前へ足を踏み出す。


 飛ぼう。

 大空の彼方へ。


 桐生先生は、教室の教壇に立って言った。

「このクラスは2人いなくなりましたが、みなさんは2人の分も頑張って、無事に卒業できることを切に願っています」

 クラスのあちこちから、泣き声が漏れる。

「泉佐野」

 竜造寺が、思わず声を上げる。

 2人の机には、花が飾られている。

 白い、白い、真っ白い花が――・・。


 泉盛寺公園。

 若葉の生え始めた桜の木から、最後の花びらが舞った。

 宙を舞った。

 それは、桜の木を超えて、隣の家の屋根をも越えて、最後の春風に運ばれて、校舎を高く、高く、高く舞った。

 ひらりと一度は校舎の壁に張り付くが、再び舞った。

 上へ、上へ、上へ。

 ひらりと、学校の屋上へ、その花びらは辿り着いた。

「ん?」

 屋上の柵の修理工事をしている一人の工員が、地面に落ちている桜の花びらに気づく。

 それを拾い上げる。

「どうした?」

 別の工員が尋ねてきたので、答える。

「こんなところに、桜の花びらが……」


 白い。

 まるで、翼のように――・・。



 翼は――みんなみんな持っている。

 翔こう。

 青い青い空の、尽きる時まで。




 背羽 完

 Presented by KMY

 つまらなくですいません。ありがちな描写満々ですいません。またエピローグがあります。

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