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背羽  作者: KMY
8/8

#エピローグ

 青い空から、一つの白い羽根が落ちてくる。

 白い手は、その羽根を掴んだ。

 そして、青い空にかざした。


「鳥ー人間ー美南ー、鳥ー人間ー美南ー」

 美南と呼ばれた一人の少女は、両手で顔を覆っている。その周りを、10人程度の男の子が囲んでいる。みんな、制服。中学生のようである。

 美南は、ひっくひっくとしゃっくりをしながら、真っ赤な顔を前の男の子に見せ、大きな声で言う。

「ち、違うもん!」

「だって、見たんだもん、俺、ねえ」

 その男の子は、隣の男の子に尋ねる。

「俺も見たよ。美南は背中に翼持っているんだもん、ねえ」

「ああ、俺もだよ。というか美南の父さんは鳥じゃないのぉ?」

「違う!」

 美南はそう叫んで、男の子たちの囲いをすり抜けて、走っていく。

「ははははははは……」

 後ろから、男の子たちの笑い声。


 美南は、西田中学校の屋上の端に立っていた。

 胸ほどの高さのある柵を、掴んでいた。

 ここから落ちたら、どうなるんだろう。

 美南は、泣いていた。

 背は低く、髪もショート。その小柄な体は、空を見上げた。

 お母さんからは鳥と罵られ、

 お父さんからはこれがあるだけで失望され、

 弟からはいつも背中に熱いものや冷たいものをつけられる。

 同級生たちも、最初は仲良くしてくれるんだけど、

 いつしか珍しいものを見る目で接してくるようになった。

 嫌。それが嫌。全部嫌。

 家族なんて、いない。友達なんて、いない。

 私のことを思ってくれる人なんて、いない。

 美南は、上半身の制服を脱いだ。

 上半身裸になった美南の背中から、真っ白の大きな大きな翼が生える。

 羽根がひらりと、いくつか舞い落ちる。

 そのうちの1枚を拾って、美南はその付け根をぎゅっと掴む。

 これさえ、なければ。

 その羽根には、ぼたり、ぼたりと、涙が落ちる。その度、羽根が上下に揺れる。

 何なの?

 翼があるだけで、特別なの?

 何もかも特別なの?私、人として生きていけないの?たかが翼があるだけで。

 翼があるだけで他のところは普通の人と全く同じなのに、それでも私、人として生きていけないの?

 美南は、泣いた。

《屋上で20年前、翼を生やした女の子が飛び降りて死んだそうだよ――》

 いつしか小耳に挟んだ、その声。――あの男の子の声。

《君も早くそうなったらいいね――》

 美南は、柵を掴んだ。檻に閉じ込められているかのように、ぎゅっと強く、柵を掴んだ。


「瀬庭」

 どこかで聞いたような声が、後ろからする。

 美南は、裸になっている胸を手で押さえながら――ゆっくりと後ろを見る。

 そこには、一人の男の子が立っている。ぐっと、唇を噛んでいる。学生服。

「瀬庭」

 その男の子は、もう一度問いかける。

 その男の子の名前は、掛川――・・。

「泉佐野」

 あれ?泉佐野なんて、どこから出たの?この男の子の名前は掛川でしょ……?

 掛川。そう言おうとしたが、なぜか声が出なかった。

 掛川は、いつもいじめのグループには加わらず、教室の隅っこで静かに本を読んでいる。そして、たまりに挨拶を交わすくらい。

 でも、何だろう。

 この親近感は……。

 美南は、はらりと胸を隠している手を下ろす。掛川はにっこりとして、美南にもう一度言う。

「瀬庭。翼、治ったんだね」

「…………っ」

 美南は、その言葉に、その声に、どこか懐かしいものを感じた。

「待っていたよ。瀬庭」

 そう言われ、美南は、瀬庭は、掛川のほうへ駆け寄る。

 さっきの涙など、まったく感じさせない笑顔で。

 掛川は、泉佐野は、ぎゅっと瀬庭を抱く。

「もう、20年は待たせすぎでしょ」

 瀬庭もそう言って、泉佐野をぎゅっと抱く。

「待たせてごめん、瀬庭。顔を上げて」

 泉佐野がそう言うと、瀬庭はゆっくりと顔を上げる。

 キス。

 唇に、なにかやわらかいものが乗った感触が、瀬庭にはした。

 あったかい。やわらかい。体も一緒に、とろけてしまいそう。

 ゆっくりと唇を離した泉佐野は、瀬庭に言う。


 20年も待たせてごめんね。

 ずっと、抱いてあげるからね。

 ずっと、そばにいてあげるからね。

 ずっと、守ってあげるからね。

「温もりなら、いくらでもあげるよ」



 真っ白な羽根は、風を伝い、大空をひらりと舞う。

 そうして、ゆっくりと降りてくる。

 真っ青な空の下で、一つの手がその羽根を掴み、そうして青空にかざす。

「羽根だ」

 かざした泉佐野は、言った。真っ黒のスーツ姿であった。

「私たちと同じ人かな」

 隣の瀬庭も、真っ白のウェディングドレスをしている。

 その教会の外には、泉佐野と瀬庭と神父の3人しかいない。辺りはがらりとしていたが、それでも。

「誰にも理解されなくだって、いい。これは、私の翼だから」

 瀬庭はそう言って、そっとその羽根に触る。

「僕らが本当の名前だった頃に、出て行ったものかもしれないね」

 泉佐野はそう言って、瀬庭を見る。瀬庭も、泉佐野を見る。



 真っ白の羽根は、春風に運ばれて、今も大空の遥か彼方を舞っている。

 只管ひたすら未来を追って――・・。

 ここまで僕の世界一つまらない小説を我慢して読んでいただきありがとうございました。感想と言う名の苦言、苦情、その他この小説を読むことによって損なわれたあなたの人生の貴重な時間の弁償の請求などをお待ちしております。

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