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背羽  作者: KMY
4/8

#4 選択

 瀬庭。

 瀬庭。

 瀬庭。

 瀬庭。

 瀬庭……。

 泉佐野は、ぐっとポケットの中の携帯電話を握り締めていた。

 目の前には、友達と仲よさそうに話している瀬庭。

 伝えないと。

 瀬庭を殺そうとしている連中がいるってことを。

 それ以前に押谷の話からは信憑性が半分しかないというか、今でも泉佐野は半信半疑であった。

 それでも。

「おい、瀬庭」

 泉佐野が声をかけると、瀬庭は振り向く。

「何?」

 その顔は、かわいらしかった。

 すごくかわいかった。

 笑顔。

 何でこんなときに限って笑顔なんだよ。

 ちくしょう。

「どうしたの?」

 瀬庭と話していた友達の女の子が、泉佐野に尋ねる。

「いや……」

 二人がこっちを見ているのを見て、泉佐野は返事に詰まる。

「何でもない」

 それだけ言って泉佐野は、走って行ってしまった。

「変な人」

 友達が言ったので、瀬庭も頷く。


 くぞおおおおおおおおおおっ!!

 男子トイレの一番奥の個室にこもって、泉佐野はおもいっきり床を殴る。

 言えよ。

 言っとけよ。

 瀬庭を殺そうとしている連中がいるってことを。

 翼を一度広げたが最後、撃ち落とされるってことを。

 でも、こんなことを言ってしまったら、僕も……。

「殺します」

 昨日の押谷の言葉が、頭から離れない。

 押谷が昨日持っていたあの紙は、やっぱり瀬庭のプロフィールだった。ごっそり覗いて見たら、瀬庭の誕生日、住所、何もかも書かれていた。

 あとは実行の段階ですって何じゃそりゃ。

 もう兵器まで準備しているのかよ。対空ミサイル?それはちょっと大きすぎるが、とりあえず相当の兵器は準備しているんだろうか。

 言わないと。

 今日は絶対に、瀬庭に言わないと。

 泉佐野はそう自分に言い聞かせて、立ち上がる。

 待てよ。

 瀬庭は今までに、本当にたくさんの人を殺してきたんだろ?

 背中に生える翼で、たくさんの人を殺してきたんだろ?

 なら、死んでも当然じゃないのか?

「…………っ」

 泉佐野は、目を強くつぶる。


「おお、瀬庭速いな、瀬庭」

 隣に座っている龍造寺が叫ぶ。それを聞いて、泉佐野ははあっとため息をつく。

 男子は皆、グラウンドにあるトラックのスタート地点の横に座って、女子が走っているのを見ていた。

 しかし、何だ。

 女子の中でも特にとび抜けたのが瀬庭である。

 そりゃそうだよ、翼が生えてて体中がふわっと軽そうだもん、と泉佐野は言いかけたが、やめておいた。

 そういえば、瀬庭の翼って普段はどこにあるのかな。

 背中の中?

 あんなに大きいものを服の中に入れられるわけないだろ?第一着替えるときに他の女子に見られるしなぁ…。

 トラックの白いラインの石灰を踏んで4周目に入った瀬庭は、泉佐野をじっと見ていた。

 ふと顔を上げた泉佐野は、不意に瀬庭と目が合ってどきっとする。

 やっぱり、言わないと。

 だって、この世界に、死んで当然な人は一人もいないんだから。

 他の女子たちは、半分以上が3周目に入ったばかりのようである。

「どうした?瀬庭のことが好きなのか?」

 隣から入ってくる龍造寺の声に、泉佐野はどきっとする。

「そんなわけないだろうか!変なこと言わないでよ」

「あはは」

 龍造寺は笑いながら立ち上がる。

「もうすぐ男子の番だよ」

「分かった」

 泉佐野もそう答えて、立ち上がる。

 笑顔だった。


「瀬庭」

 次に泉佐野がその名前を呼んだのは、昼休みであった。

 屋上。二人。また前回のパターンである。

「何で、生きているの」

 屋上の端に立って振り向いた瀬庭は、哀愁の目をしていた。黒い長髪が、風に揺れている。

 顔、かわいいなぁ…。

 泉佐野がそう思うや否や、瀬庭の強い声が聞こえる。

「どうして?答えて!」

「……ん、あ、いや、」

「早く答えないと……、もう一度落とすわよ」

「お、おい、瀬庭!」

 泉佐野は、勢いよく声を張り上げる。

「あ、あのさ、瀬庭を……」

 その時、ぶわっと風が吹き上がる。次の瞬間、瀬庭の背中にはあの大きな翼が広がっていた。

 あの、真っ白な翼が――・・。

 泉佐野は、目を丸くした。

「お、おい、瀬庭っ!」

 そう大声で言うもむなしく、瀬庭は泉佐野の体を思いっきり強く抱きしめる。

 なんか、ドキドキする。

 でも……。

 心臓の鼓動を抑えながら泉佐野は、瀬庭が自分を抱く腕に手を当てて、大きな声で言う。

「翼を、広げるなっ!!」

「なぜ?」

「あ、あのさっ、」

 殺します。押谷の声が聞こえたような気がしたが、泉佐野は首をぶんぶん振る。

 ほぼ同時に、泉佐野の足が浮き上がる。

「ああっ、駄目だああああああああああああああああ!!」

 浮かぶ。

 高く。高く。高く。高く。高く。高くへ。

「瀬庭を、殺そうとしている連中が、いるんだああああっ!!」

 ありったけの声をこめて、泉佐野は叫んだ。

 ドン。

 大きな銃の音がする。

 上を見ると、いつの間にか真上にヘリコプターがあった。

 深緑色の、「西田自衛隊」と白く書かれたヘリコプターが1つ……。

「えっ?」

「瀬庭、逃げろ!とにかく飛べ!!」

 泉佐野がそう言った次の瞬間、再び次の銃声がした。

 その弾は、瀬庭の翼の端を掠る。

 ふわっと、たくさんの羽根が舞い上がる。

 瀬庭の長髪が、揺れている。

「…………」

 瀬庭は少しの間呆然としていたが、次の銃声がすると同時に、右へ飛んだ。

 おもいっきり速く。

 できる限り速く。

 前から来る風が、強い。

 景色はほとんど動いていなかったが、強い風で泉佐野は、速く飛んでいることを感じた。

「どうして……」

 と、その時、他の方向から別のヘリコプターの音がする。最低でも5つはあるだろう。次々と銃声がしてくる。

「とにかく下へ降りろ!」

 泉佐野がそう言うと、瀬庭は言われるがままに、下へ向かって飛ぶ。


《こちらF-32。作戦は失敗。総員基地へ戻られたし》

 そう無線に言い終えた押谷は、ぐそっと声を張り上げて、どんとそこを叩く。

「泉佐野……、裏切りましたね」

 青空が、広がっていた。

 朝とはまた別の色をして――・・。

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