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第100話 最後の戦い⑤

「全てが計算だと? 俺は……俺たちは自分の考えで行動してきたはずだ。そんなこと、ありえない」

「ありえないなんてことはない。僕には君たちがどう行動するのか、というのがある程度分かるんだよ。その上で今回の計画を立てたんだ」

「嘘。そんなこと無理」

「人間には無理だろうけど、僕はその上位に位置するものだ。彼にバレない程度なら介入できるし、それぐらい簡単なものさ」


 まだ信じられないといった表情をしている司と円に、男は涼やかに言う。


「あちらの世界を書き換えるのはずいぶん前から話が決まっていてね。そこで僕は考えた。どうすれば島田司は僕の考え通りに動いてくれるであろうか。と言っても、僕がやったことはほんの少しのことなんだけどね」

「ほんの少し? 何をやったんだ?」

「君と彼との違いは何だと思う?」


 司はもう一人の司のことを思い浮かべ、その答えを導き出そうとする。

 しかし答えは見つからない。

 司は首を振り、それを男に伝える。


「分からないのも無理はない。本当にほんの少しの差しかないからね。僕は彼に『好奇心』を与えたのさ」

「好奇心?」

「ああ。強さへ対しての好奇心だ。彼は強くなることを喜び、愉しみ、熱望した。【三獣神】という化け物を向こうの世界に設置していてね。どうしても彼には奴と戦ってもらわなければならなかった。この世界に来てもらうためにね」


 話が理解できない二人だが、男は続けた。


「君は慎重なタイプの人間だろ?」

「あ、ああ」

「そんな慎重な人間が、勝てるかどうかも分からない化け物相手に戦いを挑むかい?」

「行かない。絶対に戦わない」

「でもどうしても行ってもらわないといけなかった。だから僕は彼に『好奇心』を与えたんだよ。結果、居ても立っても居られなくなった彼は、【三獣神】に挑み、【帰還】のカードを手に入れ、この世界へとやって来た。そして天野由乃と出逢い、塔の攻略を開始したんだ」

「全部偶然だろ、そんなの」

「偶然なんてこの世には無いんだよ。全ての現象に意味があるんだよ」


 男の途方もない話に息を飲む司。

 円は恐怖心に司の手を握ろうとするも、体が動かず、一人震えていた。


「世界を行き来し、バランスを崩す力を手に入れた島田司。もちろん、彼に目を付けられるのも分かっていたし、【帰還】を封じることも分かっていた。彼がここまで来れないことは最初から分かっていたんだ。だから彼の代わりに君にここへ来てもらいたかった。その為に天野由乃と南円……君たちには島田司に興味を持つよう、プログラムしておいたんだ」

「プログラム……?」

 

 愕然とする円。

 だが男は首を振り、落ち着いた様子で言う。


「ああ。心配しなくても、彼に恋する気持ちは本物だよ。あくまで興味を持ってもらうためだけのプログラムだからね。その後のことは、全部君次第だったんだ。だから島田司を好きになったという気持ちに嘘偽りはない」


 複雑な胸中ではあるが、ホッとする円。


「色んな世界を観測してきたが、天野由乃と南円はどの世界でも知り合いになるみたいでね……さらに好都合なことに、二人は島田司と出逢う運命にあったみたいなんだ。その関係性を利用して、君たち二人を介して島田司同士を引き合わせたというわけだ」


 自分が円と知り合い、あいつが由乃と知り合う。

 そして互いに知り合い同士である円と由乃を利用して、俺たちを出逢わせたというわけか……

 そう考える司は不思議な感覚を得ていた。

 本当に奴の手のひらの上で踊らされていただけなのか……


 絶望に落とされるような感覚と、何かを悟るような感覚。

 それを同時に覚える司は黙って続きを聞いた。


「君たちには分からないだろうけど、彼の設定する【管理者】たちに勝てる力を島田司に与えた。そしてこの世界で化け物たちと戦い、君たちが共有する【デッキ】を育ててもらい、君はこうして力を手に入れたというわけだ」


 司の体から力が抜けていく。

 それを感じ取った男は、司と円の金縛りを解いた。

 

 その場に膝をつく司に、彼に抱きつく円。

 虚ろな瞳で男を見る二人。


「分かっただろ? 全ては計画通りだ。君たちは僕の操り人形。何をやろうとも無駄なんだ」


 男はニヤリと笑い、見えない力で円の体を持ち上げる。


「司!!」

「円……円!!」

 

 空中に浮く円を見上げる司。

 男が円に向ける手に力を込めると、円は痛みに苦しみもがく。


「ううう……」

「やめろ……」

「彼女には死んでもらう。僕の計画のためにね」

「やめろ……」


 円を失ってしまうという悲しみの感情に込み上げてくる涙。

 そして水が沸騰していくかのように、ゆっくりと怒りの温度が上昇していく。

 司は感情のまま、剣を強く握り締める。


「お別れのあいさつはしなくていいのかい?」


 男は邪悪な笑みを浮かべ、さらに手に力を込める。

 それを見た司は【聖剣】を発動し、鉄の剣を振り上げた。


「やめろぉおおおおお!!」


 怒りのままに剣を投げつける司。

 光を纏った剣は真っ直ぐ男に飛翔して行き――


 男の胸を貫いた。


「――全て、僕の計画通りだ」

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