第99話 最後の戦い④
「君のスキルについて、考えていたことがある」
「俺のスキル?」
アノニマスは怖いほど落ち着いた様子で口を開く。
俺は緊張する体で一定の距離を保ち、奴の話を聞いた。
「二枚目の【帰還】のカード……あれはノーマルのカードだったね。そして君のジョブは【合成師】……もしかしたら、ノーマル同士を合成させる能力を持っているのでは? と俺は考え至った。実際のところ、ノーマルである【帰還】のカードに、段階的な能力を設定されていたからね。まぁ俺が考えていることは大方正解だろう。そして君の持つ特別なスキルが見当たらないのは何故か? 普通ならそんな特別製のスキル、すぐに見つかるはずなんだけどね。君たちがフォルダの検索をかけるようなものさ」
そう言うとアノニマスはステータス画面のようなものを開き、操作を始める。
「超越したスキル……その隠し場所はどこか? 誰もが見向きもしない所に隠したのではないだろうか。そう、例えば【帰還】と同じく――ノーマルのカードの中とかにね」
「…………」
アノニマスはノーマルカードの確認をしたのだろう、ニヤリと笑いこちらに親だかな視線を向けた。
「ほうら、思った通りだ。君のスキルの隠し場所を見つけたよ」
「見つけたからどうしたって言うんだ」
なぜ俺がノーマルしか扱えないか。
それが今分かったような気がする。
こいつからスキルを隠すためだったんだ。
ノーマル以上を扱えなかったのも、それを使用する必要が無かったから触れないように設定していたんだろう。
俺が知らない、こいつの同僚という奴が……
「ふふふ。あっさり消去してあげようとも考えていたけれど、少し気が変わった。君には少しずつ、ゆっくりと絶望へ導くことにしたよ。まずは……【火術】だ」
「【火術】?」
画面を操作するアノニマス。
別段何かが変わったような様子はない。
だが奴は悪意の満ちた笑みを浮かべている。
何も無いわけがない。
何かをしたんだ。
【火術】……アノニマスは確かにそう言った。
もしかして、【火術】のスキルを操作したのか?
【帰還】の時のように、力を使えなくした?
「【エクスプロージョンノヴァ】!」
手を突き出し、【火術】を発動したはずなのに、何も起きなかった。
俺は背筋を凍らせ、再度【エクスプロージョンノヴァ】を発動させようとする。
しかし炎が起こることはなかった。
「あはは! これで君のスキル、まだまだ削っていくよ。ほらほら。出来る間に攻撃しておいた方がいいんじゃないか?」
画面の操作を次々としていくアノニマス。
【水術】も【風術】も発動できなくなっていく。
だが【土術】だけは使用できるようで、魔力が手の中に徐々に集まっている。
「……ちょっと待て」
「気づいたかい?」
徐々に集まるなんておかしい。
俺には【術発動時間0】があるんだ。
こんなに時間がかかるわけがない。
時間は必要ないんだ。
こいつ、【術発動時間0】を消去したのか。
「クソッ……このっ!」
【閃光】を奴に向けて解き放つ。
光に飲み込まれたように見えるが、相手の体には届いていないようだった。
「【合成師】は彼が特別権限でロックしているから操作できないのがくやしいな。他に合成されたであろうジョブのスキルは使えるんだね」
「それだけあれば十分だ!」
【集中】を使用するとするも、【心術】もすでに封じられたのか発動しない。
少しずつ能力がこぼれ落ちていく。
これまで築き上げてきたスキルが失われていくことに、俺は淋しさと恐怖感を同時に味わっていた。
そして、徐々に絶望感が募っていく。
奴の思うつぼだ。
奴の思惑通りだ。
奴の思うままだ。
この圧倒的な存在に、勝つ術を見出すことができない。
俺はここで死ぬのか……?
「ほら。ボーッとしてるとすぐにゲームオーバーだよ」
「!!」
俺の目の前にブラックホールのようなものが発生する。
【閃光】で逃げようとするも、その黒いエネルギーは【閃光】の影響を受けずに速い動きで広がっていく。
俺の右脚が飲み込まれ、一瞬で消滅する足。
「くっ!」
【心術】を失ってしまったので、足に激しい痛みが走る。
しかし、失った足はすぐさまに完治した。
「【神の加護】はまだ取り上げていないから怪我はすぐに治る。ギリギリまで俺を楽しませてくれ」
くつくつアノニマスは笑い、逃げる俺を楽しんでいるようだった。
「ほら、どんどん行くよ」
連続でブラックホールを発生させるアノニマス。
引力もあるのか、力場が発生した瞬間に体が引かれる。
それでも何とかやり過ごし、余裕を見せる相手を睨みつけ、【黒天】と【魔剣】をさせて特攻を仕掛けた。
もう合成する魔術を発動することができない。
これが今現在、俺が持てる最大の威力だ。
だがこれ以上の力が通用しなかった。
どう考えてもあいつには利かないだろう。
だけど、何もしないままやられるのも癪だ。
一撃すらも入れらないのは悔しいが、最後の抵抗というやつである。
「うおおおおっ!」
「……必死な君も面白いけどそろそろ飽きてきたよ。これで終わりにしよう」
俺が進む先に闇が広がっていく。
そして俺は、その闇に飲み込まれ――
骸骨の仮面が地面にカラカラと転がり落ちた。
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