心の揺れ
小西の霊力がなくなりました。
ⅩⅩⅤ 心の揺れ
私の魔法を解除するために小西が犠牲を払ったことは、魔法使い社会で大問題になったらしい。と言うのは、私は、新学期が始まったので大阪に帰ってしまったから、詳しいことを知らないのだ。
賛否両論で、小西が私に霊力を与えたのは魔法使いの倫理に反する、と批判する人もいれば、世のため人のため――この場合は、私のため――に自分の霊力を犠牲にしたのだから、魔法憲章第一条に合致して賞賛されるべきことだ、と褒め称える人もいたらしい。
魔法使い社会には、色数による序列がある。小西が初歩的な魔法しか使えなくなったということは、複数の虹の色の魔法を使う最上位から、最下位に落ちることになる。だが、小西が霊力をなくした原因は、あの忌まわしい魔法の解除だ。長老達幹部があの魔法の解除を望んでいたことから、とりあえず、元の三色としての地位を保障されることになったという。ただ、若い魔法使いの中には、これまでの小西の突出した能力をやっかむ者がいて、そういう連中は、ことさら小西に辛く当たったようだ。でも、小西はそういう話を一切しなかった。
虹の色の魔法を使えなくなった小西は、初歩的な魔法で地域に貢献しようと、お年寄りの荷物を軽くしてあげたり、魔法で公園や駅前の掃除をしたりした。
世のため人のために魔法を使うと、霊力が増す。小西が失った霊力を回復するために求められることだった。
ただし、私の経験からいって、霊力が増すのには長い時間が掛かるのだ。あんまり時間が掛かりそうなので、霊力を授けようか?と訊くと、きっぱり拒まれた。
「自然に回復するのを待つ。お前にもらいたくない」
「どうして?私のせいでなくなったんや。私が授けてもおかしなことやない」
「大丈夫だ。俺は、もともと三色で、最後が五色だった。だから、元に戻るには時間が掛かるかも知れない。でも、お前にもらうと、霊力をやりとりしすぎるって批判が出る。お前の立場がなくなって、魔法使い社会に居辛くなる」
「でも、色数による序列があるんや。あんたが辛い思いする」
早いとこ、元に戻ってもらわないと、気になってたまらない。
「お前が護ってくれ」
思わず、小西の顔を見た。中島によく似た端正な顔が真っ直ぐに私を見て、ニヤリと笑った。
「お前がいてくれれば、大丈夫だ」
私は、毎週木曜日に緑池に行き、エノキの報告を聞いて魔法をかける。紫の魔力がなくなった小西はテレポテーションできなくなったので、緑池に来るのは大変だ。しかも、現在、大阪の実家に住んでいるのだ。毎週通うのは不可能に近い。
小西の希望で、静香が小西と中島を伴ってテレポテーションすることになった。私が緑池に行くと、魔法使い三人組が池の畔で待っていて、魔法をかけ終わった私を交えて、四人でお茶を飲むのだ。四人してたわいもない話に興じたり、笑ったりした。電気の魔法がなくなったのだ。小西は、さりげなく私に触れたりした。静香と中島が、何とも言えない顔をして私達を見ていた。
たまに、静香と中島がデートに出掛けると称して、先に帰ったりもした。そんな時は、小西と二人で過ごした。
霊力がなくなって辛いだろうに、小西は何でもないような顔をしていた。
静香や中島がいない時だった。思い切って、霊力がなくなって嫌じゃない?と聞いてみた。小西は、「藍の力がなくなって、ある意味、中途失明の人って、こんな感じなのかな、って心細さがあったけど、すぐ慣れた」と笑った。
その笑顔に、いつものすねたようなところがなかったので、余計辛かった。
小西は、「綾乃と一緒にこうしていられるんだから、これで良かったんだ」と、言って、私を引き寄せた。
何となく意識し過ぎて息苦しいほどだ。ジュニアとキスしたんだから、俺にも許して欲しい。と、真面目な顔で言われると、逃げようがなかった。
どういう気持ちで言ってるのか、心を読みたいと思った。でも、ここで、こいつの心を読むのは、フェアじゃないような気もして、結局、小西の顔を馬鹿みたいに見つめてしまった。
小西は苦笑いしながら、軽いキスをした。
あんまり、お前を困らせないようにしないと。お前には、ジュニアが一番なんだから。そう言って、寂しそうに笑った。
私は、自分が分からなくなった。ジュニアのことは大好きだ。でも、もともと小西が好きだったのだ。ただ、こいつは、いい加減な男なのだ。静香と私を両天秤に掛けて、最後には静香を選んだのだから。
ある時、誘惑に抗しきれなくなって、小西の心を覗くと、隅の方に静香のへの思いが、おき火のようにくすぶっているのが分かった。
藍の力がなかったら、小西を好きになれたのに。でも、私だって、ジュニアのことが忘れられないのだ。
あの超極秘事項の共有以来、日を追って息苦しさが増していた。小西を信じたい。でも、それは可能なのだろうか。
ジュニアは、小西と中島に私を頼むと言って姿を隠したという。よりによって、こんな静香の影響を抜け出せない男達に私を頼まなくてもいいじゃないか。今度会ったら、文句を言ってやろう。
私の心を知ってか知らずか、小西は優しかった。
「ジュニアのことを考えてるのか?気にするな。あいつは、お前が人間と付き合うことを望んでいた。それに、俺は、お前があいつを好いてるのを知ってる。しかも、それは、俺のせいなんだ。言うなら、自業自得だ」
「でも、あんたに悪い」
「ジュニアにも悪いと思ってるだろ?」
「……」
小西は、私の頭を撫でて、
「いいんだ。あいつは、お前の半身で、お前の守護者だ。あいつにとって、俺は、お前に害をなす悪いヤツだ。それでも、お前を頼むと言ってくれた。あいつは、俺を信じてくれたんだ」と、言った。
ものすごい勢いで小西に惹かれて行った。自分がどうにかなりそうだった。小西が静香を好きでもいい。私のことも好いてくれるなら、それでいい。そう思った。
しまいに、小西の霊力を回復させないと、あいつのことが気になって、大阪にいても、何も手に付かないほどになった。
一度、小西にそう言うと、「霊力が戻らない方が綾乃が気にしてくれるから、いいかもしれない」と、笑った。
冗談じゃない。




