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吉岡綾乃は最強の魔法をかけた  作者: 椿 雅香
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小西との語らい

小西が告白します。

   ⅩⅩⅣ 超極秘事項


 おばあちゃんが電話してすぐ、小西が現れた。シズと薫には、少し遅れて来るように言って来たと言う。明らかに、二人切りで話をしたがっていた。

 あの魔法を解除する時、ジュニアがいつもしてくれたように、体をぴったりくっつけて抱きしめてくれたのだ。何となく、小西の顔をまともに見ることができない。同世代の男の人に抱きしめられたのは、初めての経験だったから。小西も同じようで、長い沈黙の後で、同時に口を開いた。

「綾乃……」

「ト……」

 驚いたように互いの顔を見て、譲り合う。何度かそういうことをして、レディファーストだからと、私から話すように言われた。

「ト、あんたの霊力どうなったん?」

 最初に確認しなければならないことだった。

「心配してくれるのか?」

 黙って頷くと、小西が私の髪をそっと撫でた。

「少し落ちた。でも、そのうち戻る」

 寂しそうに言って、肩を抱きながらささやいた。

「これが解決したんだ。何よりだ」

 しばらくそうしていたが、今度は、小西の番だ。小西が唾を呑み込んで、緊張するのが分かった。さあ、来る。そう思ったら、怖くなった。

「お前の心の超極秘事項のことだけど……」

 ワザと軽い調子で持ちかけた。

「お前の心って、フルオープンなんだ。いっつも、周りから簡単に読めるんだ。でも、あの超極秘事項だけは、お前が消耗しきった時も、長老と戦ってガタガタになった時も、読めなかった。よっぽど秘密にしときたいことなんだ。

 俺は、ズッと考えてた。お前がそんなに秘密にしておきたいことって何だろうって」

(人が秘密にしておきたいことを推理せんといて。せっかく、超極秘事項としてロックしている意味ないやない)

 心の中で抗議するが、無視された。

「でな、ある推測が浮かんだんだ」

 私の目を見つめて続けた。

「お前、いっつも、『魔法使いは、嫌い』って言ってるだろう?確かに、俺達魔法使いは、お前に酷いことした。でも、それは、終わったことだ。お前は、長老から譲歩を引き出して、魔法使いの社会でも、結構自由に暮らせるようになった。シズだって、薫だって、お前に一目置いてお前の言い分を尊重している。あの二人は、俺達の学年トップだ。だから、他の魔法使いも以下同文だ。

 ここまで住みやすくなったのに、それでも、お前はそれを言うんだ。何でかなって、ズッと思ってた。

 でな、この前、お前の心を見せてもらって、考えたんだ。

 お前、こっち来てからロクなことがなかっただろ?友達もいなくなって、唯一の友達は取りあげられて。だから、魔法使いが嫌いなだけじゃなくて、魔法使い社会全体が嫌いなんだ。

 それで気がついたんだ。お前が、魔法使いと結婚すると、お前の子供はお前の嫌いな魔法使い社会で生きて行くことになる。自分が嫌で嫌でしょうがない社会で生きることを、自分の子供に強制することになるんだ。

 だから、魔法使いでも、魔法を使わない一般人でも、魔法使いの子供が生まれる可能性のある相手が嫌いなんだ。だから、俺や薫は、魔法使いというだけで、お前の相手になれないんだ」

 息が荒くなったから、心を読まなくても図星だったことが分かっただろう。

「でも、ここまでは、長老も分かっていることで、別に、お前が超極秘事項として隠す必要はないんだ。長老のばあさんは、お前に子供を産んで欲しいと思ってる。でも、それは、今すぐじゃなくていいんだ。お前は、まだ二十歳だ。待っていれば、そのうち、気が変わるかもしれないし、魔法使いに恋をするかも知れない。

 でな、じゃあ、何を隠したいんだろう?って、ずっと、考えてた。あの魔法の解除の時に気が付いたんだ。

 俺が思うに、お前、あの魔法を解除する気がなかったんだ。俺が体を張って、解除させなければ、一生あのままにしておこうと思ってた。そんなことしたら、人間の男と付き合えないのに。

 そうだ。お前は、人間の男とは、一生付き合う気がなかったんだ。生まれて来る子供が可哀想だから、魔法使いは自分の代で終わろうって。そう思っていたんだ」

 黙って立ち上がった。そうして、右腕を水平に伸ばして、人差し指で小西の額を狙う。

「あんたの記憶を消させてもらう」

「待て。大問題、いや、魔法使い社会では犯罪的なことだ。魔法使い社会は、種の保存のために同族と結婚するようにって指示してる。そうして、魔法使いを絶滅から守るために、一組の夫婦につき最低三人は子供を残せって言われているんだ」

 黙って小西を睨み付け、右手の人差し指に全神経を集中した。

「承諾なんかいらん。あんたの記憶を消す」

「どうしてだ?そんなに嫌なことばっかりだったのか?俺達じゃ不足だったのか?俺は、お前が来て、楽しかった。シズや薫だけの時より、お前が来てからの方が楽しかった。魔法使いじゃなかった頃が、そんなに良かったのか?」

「あんたには、分からん。ここでは、誰も受け入れてくれん。私は、独りぼっちや。私の子供も魔法使いやったら、独りぼっちの可哀想な魔法使いになるんや」

 涙が頬を伝った。

「俺がいる。薫もいる。シズもいる」

「あんたもカも、シズを優先する。シズも、それが当然だと思ってる。魔女達は私を目の敵にする。魔法使いは霊力がもらえるからって……それしかない。誰も私の心を分かってくれん。分かってくれたのは、龍だけや。

 私は魔法を使った。この力に魅入られた者の定めやと、世のため人のために使った。でも、何も変わらへん。

 この力は傲慢なんや。私に使うことを要求する。それなのに、力を使う私が疎外されても助けてくれん。魔法使いは魔法を使わん。魔法を使わん魔法使いの中で魔法を使う私が孤立しても、助けてくれんのや。こんな社会で苦しむのは私だけでたくさんや」

 深く大きな息を吸った。エネルギーチャージ完了。発射しようとしたその時だ。突然、右手首を捕まれて、引き寄せられた。あの魔法が解除されたのだ。放電はない。小西は、私の体を反転させて、背中から抱きしめた。

「これで、記憶は消せない」

「あんた、何考えてるん?あんたより私の方が強いんや」

「魔法を使って逃げるか?」

「!」

「やってみろ。でも、お前はそうしない。お前じゃ無理だ。お前は、俺を傷つけたくないんだ。だから、最後には譲歩する。あの魔法の解除の時に実証済みだ」

息ができないほど驚く私に、小西がささやいた。

「確かに、俺達が悪かった。でも、お前が独りぼっちなのは、自分で周りを拒んでいるせいでもあるんだ。あの魔法が最たるものだ。自分で、自分の世界を狭めてるんだ。あれがなけりゃ、お前だって誰とでも付き合えるし、どこへも行かずに済む。魔法使いとだって恋ができるんだ」

「恋をするには、相手が要るんや。魔法使いには……相手がおらん」

「俺の相手に……なって欲しい」

 告白だった。そう言えば、静香に傷つけられてから、こいつは、告白っぽいことをしていた。でも、こいつがこんなことを言うのは、静香と上手く行かないからだ。静香の気が変わって、こいつに恋したら、どうなるか分ったもんじゃない。やっぱり、静香を求めるかもしれないのだ。

 ただ、静香の霊力が落ちた時、中島と二人で真剣に心配していたけれど、私の魔法が解除できなかった時、やっぱり二人で真剣に心配して、体を張って解除させてくれたのだ。こいつのことをどこまで信じていいのか、分からなくなった。

 小西は、霊力が落ちていると言っていた。前なら、私の心を読んで、すぐに反応したのに、今は、何も言わずに抱きしめるだけだ。ジュニアがいつもしてくれたように、体をぴったりくっつけて、ジッと抱きしめている。耳元に小西の息づかいが聞こえ、背中から胸にかけて小西の体温を感じた。一昨日、命がけであの魔法を解除させてくれた。あの魔法の解除が良かったのかどうかは分からない。でも、こいつは、命がけで解除させたのだ。

 闘志が萎えた。

「誰にも言わない。シズにも、薫にも、安本先生にも。だから、記憶は、消すな」

「あんたなんか、信用できん」

 騙されたくなかった。いい加減な男だ。静香が上手く行かない時だけ、言い寄るのだ。

「前もジュニアのこと、シズに言わんといてって頼んだのにチクったやない」

「悪かった。でも、俺は、今まで、内緒にすると言ったことはない。今度は違う。約束する。内緒にする。誰にも言わない」

「本当に?」

「ああ」

(約束する。俺の心をロックしろ。じゃないと、シズや薫に読まれる。あいつ等に気付かれないように、目立たないようにロックするんだ。それで、信じて欲しい)

心の中で、そう言うのが分かった。不安だった。でも、白状する。私は、このいい加減な男が好きなのだ。こいつが言うのだ。信じるしかないじゃないか。というか、信じたいのだ。

 小西の心の奥にそっとロックした。目立たないように。気付かれないように。二人だけの秘密だ。終わると、小西が静かな息を吐いて言った。

「悪かった。俺のせいだ。俺は、お前に惹かれていた。シズとお前のどっちが好きか分からないほど、お前に惹かれていた。だから、さっさとシズを諦めて、お前に選ばれればよかったんだ。

俺は、シズと同じことをした。シズは、俺を選んだことで、俺と薫の両方を手に入れようとして、俺達を傷つけた。俺は、シズに選ばれることで、シズとお前の両方を手に入れようとして、お前を傷つけたんだ。

 ただ、シズのことは、薫と二人でズッと護って行くつもりだったし、魔法使いは、この地域を離れないことになっているから、俺がシズと一緒になっても、お前は、ズッと側にいるって思ってた……だから……いつでも、お前のことを気に掛けてやれるって、そう思って……それが、お前をどんなに傷つけるか考えもしなかった……俺が、お前をそこまで追い詰めたんだ。

 ジュニアが現れて、お前をどっかへ連れて行きそうになって、初めて気が付いた。どこにも行って欲しくない。ズッと側にいて欲しい。あいつと付き合いたいなら、そうしたらいい。でも、頼む。側にいてくれ」

 私の首筋に頭を置いて、もう一度、抱きしめた。

 どのぐらい、そうしていたんだろう。

「話が終わったんなら、いい加減、離れてくれへん?」

文句を言うと、小西は初めて気が付いたような顔をした。ズッと背中から抱いていたのだ。せっかくなのに。そう言いながら腕をほどいて、私を包み込むように見つめ、嬉しそうに微笑んだ。

「やっと、お前に触れるようになった。生身でこれがしたかったんだ」

そう言えば、前に同じことを言われたっけ。妄想で抱いてくれた時だ。ジュニアがしてくれたみたいに、真正面から、胸の中に包み込むように抱きしめてくれた。

 小西も同じことを思い出したんだろう。つと手を伸ばして引き寄せ、妄想の中で抱いたのと同じ形で抱いた。小西の鼓動が真正面から聞こえた。吐く息が髪に掛かった。思わず見上げると、見たことのない目つきだった。

「好きだ。どこへも行くな」

 絞り出すような声。

「……そんなこと言われても……私……もう傷つきたくないんや」

「すぐに信用してもらうのは……無理かも知れない。自業自得だ」

 そう言って寂しそうに笑った。それから、悪戯っぽく言った。

「お前……思ったほど、骨っぽくないな」

 ん?そう言えば、こいつ、昔、そんなことをほざいたような……。

「覚えてるか?お前がこっちへ来たばっかりの頃、小太郎の背中でお前に平手打ちされたことがある」

「私の胸がないから、妄想する時は、体だけナイスバディのお姉さんに代えておくって、ほざいたからや!」

 思い出した。やっぱり、とんでもないヤツだった。こんなヤツを好きになるのは、止めておこう。

「胸もないし、細くて骨っぽいだけの女だと思ったんだ。でも、思ったほどじゃなかった。お前、着痩せするんだな」

思わず手が出て、小西の顔を平手打ちしようとすると、その手を掴まれた。驚いた。今日のこいつは勘が鋭い。

「悪い。勘弁してくれ」

「あんた、慣れたん?勘が鋭くなったみたいや」

「さあ、何でだろうな?」

 さりげなくはぐらかして、私を見つめた。私の手を掴んだまま。

(しばくのは諦めるから、さっさと手ぇ離して)

心の中で文句を言うが、またもや無視される。霊力が落ちたって言ってた。もしかして、心が読めなくなったのだろうか。心の奥にロックさせたのだって、誠意を見せるというより、自分でできないからなのかも知れない。



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