静香と中島
小西が婚約を解消します。
「昨日、透から婚約解消の申し入れがあったわ」
そうか。小西がついに決断したのだ。名貸しの限界だったのだ。静香が中島を慕っていて、それを目の前に見せつけられるのだ。いくら鈍いあいつでも、辛かったのだろう。
「あなた、結局、私から、薫も透も、どっちも取っちゃったのよ」
きつい目をして責めた。
「そんなことない。二人とも、あんた一筋や」
「嘘ばっかり。前に、薫があなたの心を投影してくれたことがあったけど、あのときだって……」
口では言えなかったのだろう。私の心にある場面を投影して見せた。
部屋の中だった。多分、静香の家のリビングだろう。中島が静香の両肩に手を置いて、私の心を投影している。あまりのことに、静香が目を見張っている。彼女には、私がそこまで孤立しているとは、思えなかったのだ。
呆然とする静香に、中島が冷静に言った。
「僕と透は、あの娘の仮説に基づいて、君に些細な魔法をかけてもらった。霊力の低下が止まったんだから、効果があったと思う。でも、回復させるには、もう一歩踏み出さないといけないように思うんだ。僕が推論するに、君に足りないのは、あの娘に対する感謝の気持ちだ」
「どうして?何であの娘に感謝しなけりゃならないの?私から、あなたも透も取りあげたのよ」
「あの娘は、どっちも取りあげていない。落ち着いて、シズ。君だって分かってるだろう?僕も透も君のことを大切に思っている。言わせてもらえば、僕達は、あの娘を傷つけただけだ。中途半端な好意であの娘を苦しめた。そのくせ、あの娘の一番大切な龍は取りあげたんだ。二人とも、あの娘の目の前で、君のことしか考えていなかったんだ」
「でも、今は、あなた、私の目の前であの娘のことを考えてるわ。あの娘が好きなのよ。前は、私のことしか考えていなかったわ。でも、この頃は、どうかすると、あの娘のことを考えてる」
「君が透を選んだんだ。僕は、他の誰かを選ばなくちゃならない」
「あなたは、前に、私が誰を選んでも私を護ってくれるって、言ってくれたわ。それに、あの娘はあなたを拒んだって聞いたわ」
「ああ。気にいった魔女がいたらその娘を選んだらいいって、言ってくれた」
「だったら、あの娘のことなんか考えなくてもいいでしょ?それなのに、あの娘のことを考えてる」
「正直言うと、君とあの娘の、どっちも好きなんだ。どっちをより好きかと言われると、自分でもよく分からない。ただ、あの娘は透を好いていた。僕じゃダメなんだ。役に立たない」
「人を好きになるのに、役に立つとか立たないとか、関係ないでしょ?」
「ああ、だから、君の言うように、君と透、僕とあの娘が一緒になると上手く行くって理屈は、通らないんだ。そもそも、長老達がこんな風に相手を選ばせること自体、無茶なんだ」
「あの娘が方針変更させたわ」
「そうだ。誰も考えなかったことだ」
「あの娘、ものすごい力だったわ。あなた、それで、あの娘のことが好きになったの?」
「そんなんじゃない。あの娘は純粋なんだ。魔法使いのように俗物的なものと相容れない。そのせいで苦しんで、可哀想に、あの娘を理解していたのは龍だけだったんだ。僕は、あの透き通るような存在感に惹かれた。君に頼まれなくても惹かれた。でも、あの娘は魔法使いを受け入れないんだ。魔法使いはあまりにも強欲で自分勝手だ。あの娘にとって、魔法使いは敵なんだ」
「そんなにあの娘が良いの?私より好きなの?」
「君のことは、大切に思ってる。でも、それが仇になってるみたいだ。霊力が落ちてるのだって、君が僕達を頼り過ぎたせいじゃないかと思ってる」
ダルマストーブの火が美しい顔を照らす。静香は辛そうな顔で続けた。
「で、今度は、透ってわけよ」
「?」
「あなたのせいよ。あなた、あの二人に何をしたの?透も薫も二人とも、あなたに夢中だわ。だから、二人とも、私の前にいる時、あなたのことを考えてるの。信じられないことよ。誰かと一緒にいる時に、別の人のことを考えてるのよ。目の前の人に失礼でしょ?私、いたたまれなくて……」
おいおい、私は、いつもそうだったぞ。あんたは、今までそういうことがなくて、幸せだったんだ。でも、ここは先輩として――こんな情けないことで先輩面したくない――教えてあげる局面だ。
「シズは、トと一緒の時にカのこと考えたことなかった?カと一緒の時トのこと考えたことも?」
「あるわけないじゃない!」
「あの二人、二人とも藍の力があるんや。だから、言ってた。どっちもあったみたいや。でも、それは、三人が仲が良いいから、仕方がないことなんだって」
静香が信じられないような顔をした。
(私が、そんなことするはずないじゃない)心の中でそう言った。
「トもカも、あんたの心が読めたって言うてた。シズ、あんた、この頃、ガードが外れやすいみたいや」
「でも、私、そんな失礼なことしないようにって、気を付けてたわ!」
「失礼かどうかって話じゃないんや。誰が好きかってことなんや。あんた達三人は、そういう関係なんや。シズはトとカの両方が好きやし、トやカだって……」
「でも、あなたは、後から来た人だわ」
「私は後から来た。だから、ずっとそうだった。トもカも私といても、いっつもシズのことを考えてた。だから、あんた達に深入りしないようにしようって。そう思ってた」
「だったら、深入りしないで頂戴」
「してない。どっちも選ばんて言うたやろ。私はどっちも選ばんのや」
「だったら、誰を選ぶの?」
「龍が良かったんやけど……嫌われてしもたみたいや」
ため息をついて話題を変えた。
「カもトもドジなんやな。私の前ではシズのことを考えて、シズの前では私のことを考えてる。もっと、上手に立ち回らんと。今度、会ったら、教えてあげよ」




