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吉岡綾乃は最強の魔法をかけた  作者: 椿 雅香
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小西の報い

小西が傷つきます。

  ⅩⅧ 小西の報い


 翌週、中島が一人で緑池に来て、この前のお礼を言った。私は黙って頷いて、エノキの報告を聞いた。いつものように魔法をかけ終わると、中島が寂しそうに微笑んだ。

「途中で帰ったんだね。どこまで、聞いてたの?」

「私の心の部分が終わったとこ。あれ以上の痴話喧嘩は聞きたなかったし」

「あの後の話を聞いて欲しかったんだ」そう言って、伏し目がちに言った。「シズより先に君に出会っていたら、君を好きになっていたかもしれない」

 思わず目を見張った。どこかで聞いたような台詞だ。

そうか。小西が似たようなことを言っていたっけ。あいつは、中島ほど上品じゃなから、言い方も柄が悪かったけど。

 この二人、顔も似てるけど、言うことも似てる。そう思った時、中島がクスリと笑った。

「そう。透も似たようなこと、言ったんだ」

 私は頭を抱えた。私は、例の超極秘事項以外、心にほとんどガードをかけない。藍の力のある人間から見たら、フルオープンだ。恥ずかしさで真っ赤になった。

「でも、君は、魔法使いより龍がいいんだろ?」

 思わず頷いた。中島は分かってくれている。そう思うと、無性に嬉しかった。

おいおい。こんなことで喜ぶんじゃない。もう一人の私が注意した。何てったって、静香一筋なんだから。こんなヤツの好意を鵜呑みにするのは、自殺行為だ。でも、暖かい眼差しでそう言ってくれると、このところの悲壮感が薄らいだ。 

 中島は、静香のことで、それ以上詳しい話をしなかった。きっと、彼女のヒステリーが想像以上だったのだ。

「君が何か重大なことを隠しているんじゃないかって、透が言ってた。君は、僕に藍の力授けた時、慌ててフォーカスかけたね。透には、長老との戦い方だって言ったそうだけど、もっと別のことだろうって。でも、君は、それを僕達には教えてくれない。当然だ。僕達は、信頼できる相手じゃないんだから」

 黙って何も言わない私に重ねて言った。

「透に何て言ったの?ショックだったみたいだ。あいつ、自分が酷いことをしてるって自覚はあっても、あそこまで酷かったとは思っていなかったんだ。君に甘えてたんだ。君は強くてたくましいから、何となく、何をしても許してくれるって思ってたみたいだ。タツヤやジュニアが怒る道理だ」

女の子に向かって、『強くてたくましい』は、ないだろう。それって、褒め言葉になってない!余計傷つくじゃないか。しかも、端正な顔で真面目に言われたのだ。目一杯傷ついてしまった。

 中島も小西も静香の霊力を回復するために一生懸命だ。でも、私が、そのことで消耗することに、気付いていない。静香のことはあんた達に任す。私を交ぜないで欲しい。

 中島の話を聞きながら、ジュニアのことを考えた。あれ以来、ジュニアが姿を見せない。情けなくて、悲しかった。


 それから二週間後の木曜日、緑池で魔法をかけていると、中島が小西のことを気にして、誘いに来た。この頃、小西の元気がないと言うのだ。そう言えば、タツヤも同じようなことを言ってたっけ?あいつ、何があったんだろう?この前のことがショックだったのは確かだ。でも、それを言うなら、私の方が傷ついてる。今更、傷ついたなんて、よして欲しい。ただ、タツヤも中島も気にしてるのだ。何かあるのかもしれない。

 二人して小西の家に行くと、小西は部屋で寝ていたのだろうか、ボサボサ頭で出て来た。話をしたい。と言うと、小西は、緑池に行こう、と言ってテレポテーションした。中島は、小西が手を繋いで運んだ。

「あれから、ジュニアは来ないのか?」

 小西が訊いた。

「来ない。こっちも一段落したのに……タツヤが止めてるみたいや」

 小西が苦い息を吐いた。

「綾乃、お前は一段落だ。薫もそうだ。綾乃の協力者だ。でも、俺は……」

「タツヤが言うとった。あんた、何かあったんじゃないかって」

「あいつ、鋭いな」

「龍は鋭いんだ」中島が言った。「僕は、綾乃に青の力をもらってから、龍のことを調べたんだけど、龍は人間の数倍鋭いらしい」

「だったら、何でかも分かってたんだろうな。それで、綾乃に俺のことを話したんだろう」

「何があったん?」

「シズだ」

「喧嘩でもしたん?」

「お前は、気楽でいいな」

 小西がため息をついた。

「お前、シズの心、読んだのか?」

「ああ。この前、お前が、綾乃に感謝すべきだって、喧嘩しただろう?あの次の日、俺がシズに同じことを言ったんだ。そしたら、二人とも同じことを言うってヒステリー起こして、そん時、ガードが外れたんだ。だいたい、シズは霊力が落ちたせいか、ガードが緩いんだ。ちょっと動揺するとガードが外れる」

「気の毒に……」中島が言った。

「カも読んだん?」

「ほら、ジュニアが龍だって分かったとき透と君の家に来て、ヒステリー起こしたとき」

「何が読めたん?」

「シズが俺を選んだのは、薫るより俺が好きだからじゃなかったんだ。そりゃあ、他のヤツ等よりは好いてくれている。でも、薫より好きかって言うと、微妙なんだ。俺を選んだのは、俺達二人とも自分の影響下に置くためだ。薫は、シズが選ばなくてもシズに尽くす。だけど、俺は、シズが選ばないとシズの影響を受けない。だから、俺を選んだんだ。でも、選んではみたけど、綾乃が薫を選ばなかったので、薫がシズから離れた。それで、シズのヤツ、混乱したんだ。だから、お前に、薫を選べって、しつこく迫ったんだ」

「そうじゃないかって、ジュニアが言うてた」

「あの龍、頭いいな」小西が憮然とした。

「まだ、あっただろう?」

「ああ」

 小西が辛そうに私を見た。

「僕が言おう。透には、辛すぎる」中島が引き取って続けた。「シズが透を選んだのには、もう一つ理由があるんだ」

「何なん?」

「君が透に惹かれているのに気付いたんだ。透も君に惹かれていた。だから、君から透を取り上げようとしたんだ」

 唖然として声も出ない。

「シズは、今まで、学年委員長で、主席だった。美しくて、成績優秀。僕等の世代で唯一のパーフェクトの魔女だ。

 でも、高校二年のとき君が来た。君は何にもできなくて、シズが面倒見た。もともとシズは面倒見がいいんだ。

  でも、君には、他人に魔力を授けるほどの力があった。

 面白くなかったんだ。

 僕達が君のことを気に掛けるのも面白くなかったみたいだ。今まで、シズだけの騎士(ナイト)だったんだから。

 その上、佐藤さんが君達二人のどっちかと結婚したいと言い出した。シズには我慢できなかったんだ。

 シズは、小さい頃から、男の一方的な申込みに苦しんで来た。だから、必死で逃げた。僕達の力を借りて逃げた。

 でも、君は、自力で何とかすると言い切った。

 それで、切れたんだ。じゃあ、一人で何とかしてみたら?そう言いたかったんだろう。

 で、君が透に惹かれているのに気が付いて、あえて君から取りあげたんだ。

 君を傷付けたかったのかもしれない。でも、そんなことより、佐藤さんのことを自力で何とかしてみろって挑戦だったんだ」

 小西が説明を続けた。

「それでもって、綾乃が、佐藤さんどころか、長老にまで勝って譲歩を引き出した。そうして、薫や俺が綾乃のために発言した。シズは、結局、俺達二人とも綾乃に取られたって思ったみたいだ。

 そうなると、シズは、薫を失ったのが情けなくなって、俺のことなんか、どうでもよくなったんだ」

(ト、可哀想に……シズが好きだったのに)

「お前な!そんな風に同情されると、もっと辛いんだ」

「そうだ。自業自得だって言ってやれ」

 中島が言い募ったので、中島と小西が睨み合った。

 え?ここで、喧嘩するの?ま、いいか。緑の力もあるんだ。心ゆくまで、喧嘩したらいい。体を使うことで、心の痛みを忘れられる。

 二時間ほど、中島と小西が戦った。火や水や雷まで動員した、とんでもない喧嘩だった。私は、緑池一帯に透明の魔法をかけて、戦う二人が周りの人々に見えないようにした。

 後で、ああいう場合は普通止めに入るもので、喧嘩しやすいように場を設営するというのはおかしい、と言われた。でも、二人とも、力一杯戦って、あの後、互いに抱き合って泣いたのだ。男同士だ。青春万歳!夕日に向かって走るドラマを思い出した。

 とりあえず二人の怪我は、緑の魔法を使って治した。火傷や、切り傷それに打撲なんかが凄かったのだ。それから、二人が仲直りの酒盛りをすると言うので付き合った。三人でビールを飲んだのだ。一人だけハブってのは惨めだから、誕生日が来ててよかったよ。





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