小西と綾乃の心
小西の後悔のターンです。
こんなのって、嫌だ。いい加減帰ろう。静香と中島の痴話喧嘩なんか聞きたくもない。
立ち去ろうとすると、別の声が聞こえた。
「俺も……ここまで酷かったとは、思わなかった」
振り返ると、蒼白な顔をした小西が立っていた。しまった。この三人は、常時回線が繋がってるのだ。ってことは、こいつもしっかり聞いていたのだ。
聞いた内容に呆然としている。
おいおい。あんたには、何度も、言ったぞ。静香を好きで好きでたまらない男と、男女の仲になりたくないって。
「悪かった。ここまで酷いことしてたとは、思わなかった。ジュニアが怒る道理だ。許して……欲しい」
「終わったことや」
小西が唾を呑み込んで詰め寄った。
「綾乃」
「?」
「薫は、初心者だから気付いてない。でも、俺は誤魔化せない。この後に、何を隠している?」
「どういう意味?」
「とぼけるな。お前、この先に何か隠してる。もっと大きな、もっと重いものを隠してる」
「他人の心を勝手に読むんじゃないわ」
「言わないなら、読む」
壮絶な目つきに、たじろいだ。
「四色のあんたに、私のガードは破れない。でも、教えてあげる。これは、長老を戦う前、カに藍の力を授けた時に一緒に付いて行ったもんや。だから、長老との戦い方を隠してあった」
「隠してあるのは、それだけじゃない。もっと別の、何か大事なことだ」
ものすごい迫力だ。三十六計逃げるに如かずだ。瞬時に逃げを打つことにした。
「前に、シズがダメやったら……って言うた人がおった」
小西が絶句した。
「その人は、悪くないんや。正直な人やった。ちゃんと、嘘つかんとシズが一番好きやて言うたし。その上で、シズがダメやったら二番目は私やって。私、何となく、シズが別の人を選ぶような気ぃしてたから、もし、シズがダメで、その人がシズのことを諦められるなら、その人を選んでもいいかもって、思てしもたんや。
馬鹿やったんや。その人にとって私は二番目やけど、私にはその人しかおらんかったんや。だから、二番目に好きやて言われたら、喜ぶんじゃなくて、私を一番好いてくれる別の人を捜さなならんかったんや。
でも、シズがその人を選んで、周りの魔女が大喜びした時――魔女はすごいんや。大喜びしたんや。
だって、そうやろ?その人は私のこと好いててくれたけど、別の人は私を相手にしてなかったんや。チャンスがあるって思たみたいや――初めて気がついたんや。私は独りぼっちやったんやって。タツヤもおらん。こっちの社会は私を受け入れてくれん。それなのに、私、その人がいたんで、何となくこっちの社会でもやって行けるかもって、誤解してしもたんや。
あんたが、少しでも私のことが可哀想やと思うなら、これ以上訊かんといて。ジュニアがいないんや。疲れても、誰も助けてくれん」
小西は息をすることも忘れて、私の顔を見た。それから、呼吸することを思い出して、一つ二つ息をして訊いた。
「ジュニアとは……いつ、出会った?」
「お盆のパーティーの時。あれって、まるで、あんた達の婚約披露のパーティーみたいやった。魔女の悪意と魔法使いの下心が苦しくて……緑池行ったんや。そん時、出会った。あいつ、何も言わんと黙って見ててくれた……私、魔法使いとは付き合えんけど、ジュニアがいれば何とかなるかもって……」
小西の顔から血の気が引いた。そうして、やっとの思いで口を開いた。
「ジュニアに惚れてるのか?」
「そうかもしれん。京都に行った時だって……」
「?」
「美加と達也くんに会ったんや。長老の配慮やないかって、ジュニアが言うとった。で、四人でお茶して、別れ際に達也くんが握手してって言うたんや。仲直りの記念にって」
「お前、したのか?」
電気の魔法の最大の被害者は訊いた。
「できひん。だから、困った顔したら向こうが怪訝な顔をしたんや。そしたら、ジュニアが澄まして言うたんや」
「何て?」
「申し訳ありませんが、私は、綾乃さんに元彼と握手なんかしてもらいたくないって。で、達也くんと美加が、わっ、この人、綾乃にべた惚れやって、笑ったんや」
小西が呆然とした。
かなわない。と、つぶやいた。




