綾乃の心の提示
中島から、とんでもないお願いがあります。
ⅩⅦ 静香の霊力
翌週、緑池へ行くと、今度は中島が待っていた。端正な顔で、「久しぶりだね」と、笑った。この人の笑顔は、私を暖かく包んでくれる。
例によって、エノキの報告を聞く。そうして、気が付いた魔法を七つかけた。中島は黙って待っていた。
魔法をかけ終わって息を吐くと、中島が言った。
「透の言う通りだ」
「?」
「君は、自然と一体化しているように見える。かぐや姫のように、このまま、月に昇って行きそうだ」
「そんないいもんじゃない」
「魔法使いのような俗物的なものとは、相容れないのかもしれない」
「用事は何?」
「シズに、君の心を読ませたい」
思わず中島を見た。
「僕の心の奥にロックしてある。君の心だ」切なそうに息を吐いた。「シズは、自分だけが不幸だと思ってるんだ。小さい頃から、パーフェクトの魔女だからって、いろんな制約を受けて、そうして、 男達に良いように弄ばれて。もちろん、心の中でだけど。
でも、そのせいで、途中から来た君が活躍をするのが我慢できないんだ。だから、彼女の霊力の低下を止めたのが君のおかげだったなんて知ると、荒れるだろう。
ただ、霊力の低下は止めたけど、回復しないんだ。僕は、彼女の霊力を回復するには、君への感謝の気持ちが必要なんじゃないかと思うんだ。僕と透は、そろそろ本当のところを教えた方がいいと思ってる。君の仮説から言っても、他人への感謝の気持ちがないと、回復は難しい……と思うんだ」
「そう」
「君には、申し訳ないと思う。でも、彼女のためには、必要なんだ」
「……分かった」
「回線を繋いでおいて欲しい」
「?」
「君の知らないところで、見せたくない。フェアじゃないだろう?」
「いつ、どこで見せるん?」
「これから、シズのウチでだ」
「近くの公園にいることにする。送るわ」
☆☆☆!!!
一瞬の放電があって、次の瞬間、静香の家の前に立っていた。しまった。テレポテーションする能力のない中島と一緒に飛ぶのに、体の一部を掴んでしまった。それをすると、電流が流れることを忘れていたのだ。中島には悪いことをした。
中島は、頭を振って、電気ショックの余韻を振り払った。ニヤリと笑って、「これって、痴漢撃退方法になるね」と、冗談を言いながら、静香の家に入って行った。少し、足下がおぼつかないのは、気のせいだけじゃなさそうだ。
静香の霊力の回復のために必要なことだという理屈は、分かる。でも、私の心の秘密の部分を他人に読ませるのは抵抗があった。静香の家の近くの公園のプラタナスに寄りかかった。恥ずかしいというより、他人に踏み込んで欲しくないエリアだ。やっぱり、中島の記憶から消しておいた方が良かった。
中島と静香が話をしているのが聞こえた。いや、正確には、例によって頭に響いた。
「何とか、霊力の低下は止めたのに、どうして、回復しないのかしら?やっぱり、些細なことしかやってないからかしら?」
「何をやっても同じだと思う」
静香のぼやきに、中島の冷静な声が続いた。
「薫、あなた、何か言いたいことがあるみたいね。あなたが、そんな風に言うときは、何かあるときに決まってるの」
「君に見せたいものがある」
「何?」
中島がゆっくり、静香の両方の肩に手を置いて、目を見据える。
「君は、綾乃のことをもっと理解すべきだ」
そう言って、静香に心を投影した。
「薫。やっぱり、あなた、綾乃に藍の力をもらったの?あんな、お気楽な天然に。私、ズッと大変だったのに。あの娘、途中からお気楽に来て、簡単に長老に勝っちゃったのよ!私の今までは、何だったのよ!いろんな人に遠慮して、いろんな人に中傷されて」
静香が激した。
「とにかく、見るんだ!」中島の鋭い声が響いた。「あの娘は、決して、お気楽な天然じゃない。君に綾乃への感謝の気持ちがない以上、これ以上回復は見込めない」
「これって、何?何で、こんなことが……」
私の心を見たのだろう。静香の叫び声が上がった。
「君には、僕達がいた。でも、綾乃には、龍しかいなかったんだ。話には聞いていたけど、ここまで酷かったとは……僕も知らなかった」中島が苦しそうに言った。「僕達は、あの娘からタツヤを取りあげた」
「取りあげたのは、安本先生よ。私達は、報告しただけよ」
「安本先生に報告したら、ああなることは分かっていた」
「でも、あの娘は独りぼっちじゃなかったわ。透が見てたんだから」
「分かってたんだろ?透には君しか見えていなかった。それが、あの娘を苦しめたんだ。そうして、透があの娘を見るようになったら、君はあの娘から透を取りあげた」
「取りあげたんじゃないわ。あなたと透のどっちかを選ばないといけなかったんですもの」
「君がどうして透を選んだか、読ませてもらった」
「読んだの?」
「ああ、君のガードが緩かったんだ」
中島は、呆然とする静香に追い打ちを掛けた。
「君に、些細なことで良いから地域のために魔法をかけろ、と教えてくれたのは、あの娘だ。あの娘は、ずっと、魔法使いの霊力の研究をしていたんだ。実際、自分が些細なことで魔法をかけ続けたらリバウンドが起きたから、君にもその方法を勧めたんだ」
「その研究なら長老達がやってるわ。答えが出てないけど……」
「僕と透は、あの娘の仮説に基づいて、君に些細な魔法をかけてもらった。低下が止まったんだから効果があった、と思う。でも、回復させるには、もう一歩踏み出さないといけないと思うんだ。僕が推論するに、君に足りないのは、あの娘に対する感謝の気持ちだ」
「どうして?何であの娘に感謝しなけりゃならないの?私から、透もあなたも取りあげたのよ」
「あの娘は、どっちも取りあげていない。落ち着いて、シズ。君だって分かってるだろう?僕も透も君のことを大切に思っている。言わせてもらえば、僕達は、あの娘を傷つけただけだ。中途半端な好意であの娘を苦しめた。そのくせ、あの娘の一番大切な龍は取りあげたんだ。二人とも、あの娘の目の前で、君のことしか考えていなかったんだ」




