表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吉岡綾乃は最強の魔法をかけた  作者: 椿 雅香
29/47

とんでもない噂

綾乃をめぐってとんでもない噂が流れます。

  ⅩⅥ とんでもない噂


 木曜になると、緑池の側の林で、エノキの木に一週間の報告を聞く。町中の草木がエノキに報告を上げていて、私の知らないことはないほどだ。

 これは、受験勉強を始めてから考え出した方法だ。普段の私は学校と家を往復するだけで、受験勉強で忙しかった。だから、町の草木に情報収集を頼んだのだ。

 私は緑の魔女だ。草木を操ることができる。それを情報収集に活用することにしたのだ。

やってみて気が付いた。以前より町の事情に詳しくなったのだ。前は、目に見える範囲のことしか分からなかった。今は、町中の草木という手下がいるのだ。知らないことはなくなった。

 小学校のあるクラスが崩壊しかけている。老々介護で疲れ果てたおじいさんがいる。町の経済が逼迫して中小の製造業や小売店がつぶれかかっている。これらを根本的に解決するには、何らかの制度的な支援策が必要だろう。でも、私にそんな力はない。できることから一つ一つやって行くしかないのだ。

 崩壊しかかっているクラスには、担任や子供達にクラスを何とかしようという気分にさせて、トラブルメーカーや、いじめっ子の悩みを解決してあげた。老々介護のおじいさんには、生きる希望を取り戻すことができるように、人生って、そんな捨てたもんじゃないって気分にさせた。つぶれかかっている中小の製造業や小売店には、何となく、地域の人達がそのお店を利用しようと言う気分にさせて、製造業や小売店の人達に希望を与えた。やることは、それなりにあった。

 最終報告者のエノキは、その役目を名誉に思っているのだろう。ときどき、嬉しそうに枝を震わせた。私も、お礼にヒーリングを施した。

 夏休みが終わって、二学期が始まった。毎週、大阪から緑池へ出掛けるが、ジュニアは姿を見せない。あれからジュニアはどうしたんだろう。

 大阪の実家から緑池へテレポテーションすると、緑池は秋の気配が色濃くなって、ススキの穂が揺れていた。そう言えば、どこかの家に萩が咲いていた。ススキも萩も友達だ。軽く挨拶して、エノキの脇に立つ。月の光が冴えわたり、池の表が冷たい光を照り返す。夏が終わったのだ。

 私の龍は夏とともに消えてしまった。

 エノキの幹に手を置いて目をつぶると、町の情報が私の中に入って来る。エノキの報告が続く。静かに秋の気配に身を委ね、周りと一体化する。

「綾乃!止めろ。止めるんだ!」

 突然、瞑想を破られた。

 目を開けると、青い顔した小西が立っていた。

「どうしたん?」

と訊くと、小西が安堵の息を吐いた。

「お前、木に吸い込まれそうだった……よく考えたら、お前、龍だけじゃなくて、草木や太陽や風、他にもいろんなものと一体化できるんだ」

「魔法使いが、一番遠いかも知れんね」

 私が笑うと、小西が悲壮な顔をした。

「笑いごとじゃない。お前を誰にも取られたくない。龍にも、草木にも、太陽にも、風にも。頼む。どこへも行くな」

 そう言って、手を伸ばした。学習能力がないのだろうか。耳慣れた音がして、小西が手を振りながら叫んだ。

「他の魔法を使っている暇があるなら、あの魔法を解除してくれ!俺の体が保たない!」

「触らなきゃいいんや。簡単なことや」

「お前に触りたいんだ!」

「それは、難しい注文や」

「何で?」

「私が嫌やから」

「そんなに俺が嫌いか?」

ものすごい形相で睨み付ける。

「嫌いじゃないけど……」

「だったら……」

「でも、あんたは、シズが選んだ人や。黙ってシズに選ばれた人や。シズに左右される」

「シズのことは、言うな」

「シズが好きで好きでたまらん人に心を許したら、後が大変や」


 小西は天を仰いだ。それから、深呼吸を一つして、ボソリと言った。

「お前がそんなんだから、あんな噂が流れるんだ」

「噂って、あれ?私が龍と関係を持ったことが分かったから、トもカも佐藤さんも、私を選ばんかったって」

「お前、知ってるのか?」

「うん。先週エノキに聞いた。火元は、佐藤さんと垣内さんらしい。あの二人、利害関係が一致するんや」

「一致するって?」

「佐藤さんは私が欲しい。垣内さんはあんたとカのどっちかが欲しい。で、あの噂で、私が再起不能になれば、仕方がないからって、佐藤さんが恩着せがましく私を助けるし、垣内さんはカをゲットできるって寸法や」

「そこまで分かってるなら、月一の集会に来い!」

「行ってどうするん?疲れるだけや」

「お前が集会に来れば、そうして、俺と薫がお前と仲良くすれば、みんな、あの噂がデマだったって分かるんだ」

「シズが、させない」

「シズには、俺達から言う」

「もう少し回復するまで、そっとしといた方がいい。霊力、戻ってないんやろ?」

「頭が痛いところだ。でも、お前はどうなる?」

「別に、魔法使いと付き合わんかったらいいだけや……」

 私は、後を向いて、エノキから聞いた話をもとに、静香がかけ忘れた魔法を二つかけた。小さな保育園の遠足をお天気にする魔法と、稲刈りが終わった田んぼに来年の豊作を祈願する魔法だ。 

 それが終わると、

「話は、それだけ?じゃあ。私、用事あるし」

 そう言って、四百十年前に飛んだ。


 ジュニアが来なくなってから、私は、四百十年前で、龍を始めとするいろいろな動物の健康を祈ることにしていた。イノシシもウサギもキツネもタヌキもみんな元気で、怪我もなく生きて欲しい。それが、人間の幸福に繋がるし、龍の幸福にも繋がるのだ。お嫁さんを探しに行ったジュニアの健康を祈るためだった。でも、この地域一帯の生き物を対象とするので、ものすごく消耗する。この魔法をかけたら、しばらく動けなくなった。

 昔の緑池の畔で魔法をかける。そうして、抜け殻のように、体力の回復を待つのだ。そんな私を、タツヤ夫妻は、そっと抱きしめてくれた。その暖かさが心地よくて、しばらく、二匹と一緒に眠るのだ。

 この日は、小西が追い掛けて来た。性懲りもないと言おうか、生真面目と言おうか、キャラが変わったみたいでおかしい。ただ、私は、このとんでもない魔法をかけ終わって、消耗しきって、タツヤの奥さんの体を枕にして寝ていた。

「お前、何してるんだ?」

 小西が訊いた。

(タツヤに訊いて)

 しんどくて、声も出ない。

 小西がタツヤを振り返って訊いた。

「綾乃は、何してるんだ?」

「見りゃ分かるじゃろう。寝ておるんじゃ」

「そんなもん、言われなくても分かる。何で、ここで寝なくちゃならないか訊いてるんだ」

「魔法のせいで、疲れ切っておるのじゃ」

「そんな大した魔法じゃなかったぞ」

「それは、お前達の時代のことじゃ。この時代で、綾乃は毎週魔法をかけておる。この地域のありとあらゆる動物の健康を祈る魔法じゃ」





なんだかんだ言っても小西は綾乃の味方です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ