小西の焦り
綾乃とジュニアのキスシーンを見た小西がパニックになります。
「ジュニアは、自分のために綾乃に泣いて欲しいって言ったんだろ?君はあいつのために泣いている。あいつも、喜んでるはずだ」
「薫。それどころとじゃないんだ。あの龍、とんでもないヤツだ!」
小西が割って入ると、中島が冷たい目をして言った。
「前にタツヤに言われたことがある。それをそのまま、お前にやる」
何だよ、という小西の目を見据えて中島が言い切った。
「龍が綾乃に手を出すのを怒っていいのは、綾乃に手を出す権利のあるヤツだけだ。だから、僕も、お前も、その権利がないんだ」
「何言ってるんだ?綾乃があの魔法を解除しないから、こんなことになるんだ。さっさと解除すりゃいいんだ。そうすりゃ、龍が綾乃に逆上せることもなくなるんだ」
小西が吠えた。
呆然としている私に代わって、中島が苦しげに言った。
「あの魔法、解除できないんだ」
「何でだ?綾乃は、自由意思なら解除できるって……」
「綾乃の魔法は、せっぱ詰まったとき、必死にならないと、力が出ないのが多いんだけど、あれは、その最たるものだんだ。だから、長老の譲歩を引き出した後で解除しようとしたけど、できなかった」
小西が目を剥いた。
「そのぐらいじゃないと、長老には勝てない。
それに、綾乃は無意識にあの魔法の解除を拒んでいる節があるんだ。つまり、心の底から解除を求めていないんだ。
タツヤが言ってた。綾乃に心の底から好きな人ができて、この人のために魔法を解除しようと思わない限り、解除できないじゃないだろうかって。
少なくとも、透。僕も、お前も、そういう対象にはならない。二人とも、シズを好いていて、綾乃を苦しめたんだ」
「綾乃、じゃあ、お前を抱くのは、龍だけなのか?」
小西の声が裏返った。
「ジュニアは旅に出たんや。だから……大丈夫。あんたが心配せんでも、自分で身を処したんや。龍は……高潔や」
息を吐いて、話題を変えた。
「そやけど、あんた、そもそも何しに来たん?」
「ああ、シズの霊力の低下は止まった。でも、回復しない。元に戻らないんだ。何かいい手を教えてもらおうと思って」
「あれ以上は分からん。知んのや」
やっとの思いで答えた。
そんなこと、自分で考えりゃいい。だいたい、霊力の低下について心配するなら、自分で何とかすべきだ。みんな恋愛で忙しくしているから、そんなことを研究する暇人はいないのだろう。でも、私だって、今はそれどころじゃないのだ。
しばらく沈黙があって、小西がやっとの思いで声を絞り出した。
「お前、龍と結婚するのか?」
「分からへん。そうなってもいいと思ってた」
「魔法使いと結婚してくれ」
「あんたには関係ないことや」
「お前は、魔法使い社会にいると思ってた」
「それは、あんたの勝手な思い込みというもんや」
「魔法使いは、一生、魔法使い社会で生きて行くんだ。だから、俺は、俺が誰と結婚しようが、お前は側にいると思ってた」
「長老が方針変更してくれた」
「お前がさせたんだ。でも、今のままじゃ、龍しか、お前を抱けない」
小西の目が血走っている。
「いいやない。龍は、私に尽くしてくれたんだし」
「俺達だって、お前の味方だ」
「タツヤのこと、おおきに。お礼がまだやったね」
「俺のせいだったから」
「タツヤに連絡してくれたんやって?」
「それも、俺の責任だから」
小西は辛そうだった。私に距離を置かれたことを思い知ったのだ。
中島は何も言わなかった。彼は、私が小西を好いていたのを知っている。だから、何も言わなかった。




