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吉岡綾乃は最強の魔法をかけた  作者: 椿 雅香
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静香や佐藤との舌戦

綾乃は、優等生の静香や自分勝手な佐藤と対峙します。

 今日は、公民館は休館日。約束は夕方六時だ。通用門からそっと入り、事務室の横を通って階段を上がった。

 外から見ると誰もいなかったのに、多目的室の中には何人かの魔法使いがいた。

 開け放した窓から風が入る。夕方の風が心地良い。肌に風を感じながら、背筋を伸ばして部屋に入った。

 これが、私の、戦いだ。

 中央に百歳は越えていると思われる老婆が座っていた。多分、この人が長老だ。

 梅干しババアという言葉があったけど、本当に梅干しみたいだ。顔だけじゃなく、体全体が梅干しみたいに丸くしぼんでいるのだ。シワがいっぱいで、丸くて優しげなおばあさんだ。こんなおばあさんが長老として君臨しているのだ。

 老婆の両脇に六十前後の魔法使いと魔女が立っていた。こちらは、いかにもお目付役って感じだ。

三人の右側に、トラブルの原因となった佐藤真一が立っていた。おそらく、真一の両親だと思われる中年の男女が一緒だ。

 真一は酷薄な笑いを浮かべていた。高二の文化祭以来だ。こいつ、ますます嫌な感じになった。長老の立ち会いもあるのだ。私が変な魔法を使えないと信じているのだろう。私が長老の命令を素直に聞くとでも思っているのだろうか。馬鹿だとしか言いようがない。

 中央の三人の左側に、学年委員長の静香が立っていた。今日は薄紫色のワンピースを着ている。こんなにきれいなんだ。小西だって、中島だって、この人が好きになる道理だ。

静香に小西が付き添っていて、二人で並んでいる様子に胸が痛んだ。

 静香が責めるように私を見た。

(綾乃ちゃん。だから、私の言う通りに動いてって言ったのに。あなた、言うこと聞いてくれないから、こんなことになったのよ!)

(いいんや。来るべくして、来たんや。私が望んだことや)

(君が中島を選ばなかったのは、正解だ。彼は静香一筋だ。君が辛い思いをするだけだ。僕を選ぶんだ。きっと、優秀な子供が生まれるよ。可愛がってあげるから)

 佐藤が割って入った。

(結構です!)

 ピシャリと回線を切った。馬鹿と話なんかしたくない。

(でも、長老があなたに魔法をかけるわ。あなたが、佐藤さんを好きになるように。だから、薫を選んでおけばよかったのよ!)

(私は、刺し違えても、やりたいことをやる)

 誰が何と言っても戦うんだ。誰も、私を、自由にさせない。それが、例え、長老でも。

「お前は、どうして、魔法使いを選ばんのじゃ?聞けば、魔法使いより龍が良いそうじゃのう」

 真ん中の老婆が、口をモグモグさせて言った。

 歯が少ないからだろう。声より頭に響く。心の回線の方が分かりやすい。


 やっぱり、静香が密告したのだ。どうして、彼女には、『融通』という言葉がないのだろう。優等生を期待され過ぎたせいだろうか。でも、静香には、結構ひょうきんなところもあったのに、あのひょうきんさは、どこへ行ったんだろう。

 目の端に静香を留めて、長老に答えた。ここにいるのは、全員敵だ。巻き添えになっても仕方がない。悪いのは私じゃない。いや、多少は悪いかも知れないが、追い詰めた皆さにも責任があるのだ。諦めて付き合ってもらおうじゃないか。

 息を吸って姿勢を正した。体から青白い炎が上がる。


「申し訳ありません。好みの男性がいなかったんです」

「確かに七色や六色はおらんが、四色や三色の魔法使いの中から選べば良いのじゃ」

「八百屋へ行って、鮮度の悪いしなびたのとか、育ちすぎてトウが立ったような大根や菜っぱしかなかったら、誰もそのお店で買いません。隣のスーパーや移動販売で、新鮮でおいしい野菜を買います。そもそも、魔法使いの中からパートナーを選べとおっしゃるのでしたら、もっとマシな魔法使いを揃えて頂きたい。私が見るに、若い世代の魔法使いにはロクなのがいません。誰も好きこのんでしなびた大根や菜っぱを買う者はいないでしょう」

 一同、絶句した。


どこまでも話の通じない人たちです。

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