未来の視点:0日目:過去
「よし! うん、我ながら素早い」
私は壁に掛けられた時計を見ながら自賛する。
時計の針が示していたのは七時四十八分と少し。
着替えの所要時間は一分足らず。名立たる着替え名人でも私に適う者はいないだろう。
「後は鞄に教材を詰めて……と」
今日の授業内容を確認しつつ、卓上に散乱している教科書やノートをそろえ、鞄につめていく。
「未来さん、まだですか?」
用意を進めていると、玄関から私を呼ぶ声が聞こえた。
再び時計に目を向ける。……と、針は八時一分を指していた。
「……」
着替え自体は早くても、その後の支度が一般人より長い。それが私の欠点。身支度という点で括ると、常人の1.5倍は掛かってしまう。――って、早くしないと。
「はい、今行きます!」
やや乱暴に鞄を掴み、足早に玄関へと向かう。
「では急ぎましょう。今からなら間に合いますわ」
「う、うん。ごめんね待たせちゃって」
玄関を出て、戸締りを済ます。
さあ、いざ学校へ。
「……」
何かを忘れている気がした……。
ガスの元栓は夕べ閉じた。朝ご飯を食べていないのは、自業自得。教材は、左手に持ってる。
……でも、まだ何かが足りない。忘れてはいけない何か……何だろう。
「どうかなさいましたの? さ、急ぎましょう」
急いで思い出さないと遅刻してしまう――。そう思ったその時、
「ニャア」
耳に届いたのは猫の鳴き声。
「あ! ……葉子さん、ごめん。先に行ってて」
「え? え?」
説明している時間が無い。
急いで鍵を開けると、慌てる葉子さんを横目に居間へと走った。
居間に入ると、空の容器を目の前に、一匹の三毛猫が行儀よく座っていた。
猫の名前は『カコ』過去から取った『カコ』
私の大親友。……のはずなんだけど。
「カコ、ごめんね。お腹すいたよね、もう少しまっててね」
「ニャア」
私の問いに、一拍置いて発せられたカコの泣き声。そこから感じられるのは、疑心に満ちた負の感情。
「あー。ごめんってば、ホント、今日は金缶にしてあげるから、ね?」
私は急いで戸棚から金缶と名付けたカコの大好物を二つ取り出し、出来るだけ早く器に盛り付ける。
「これで機嫌なおして、ね? じゃ、私、行ってくるから!」
私はカコから視線を逸らすと、玄関に向けて走った。
カコは背後でこう訴えていただろう……『酷い』と。




