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【完結】秘密は守りますわ ―消えた令嬢と三冊の帳簿―  作者: 飛絽じゅらん


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第十二章 守るべき秘密 ④

 その日の午後、ロザンヌとアドリアン、マイク、ロバートはソファに座り、第一報の記事に書く内容の検討を始めた。


 マイクが判明した事実を一つずつ並べた。


「全てを書けば記事は派手になり、飛ぶように売れるだろう。だが、それではエルシー嬢とアイリーンさんの人生を見世物にしてしまう危険があるな」


 顎に手を当て、ロバートは考え始めた。


「それでしたら、こうしてはどうでしょうか」


 ロザンヌは自分のノートを取り出し、マイクにも確認を頼みながら、読み上げていった。


「まずは慈善会の不正にかかわることを挙げます。慈善会の運搬費、配布記録、倉庫記録に重大な不一致が見つかったこと。実在しない荷馬車一台分の運搬費が計上されていたこと。物資の数字も必要ですわね。毛布二十四枚、小麦粉十二袋、薬品六箱が正規の配布先へ届いていなかったこと。以上の関係書類を王都治安部が確保し、関係者への調査が始まったこと」

「そこまでは賛成だな。マイク、メモに印をつけておいてくれ」


 ロバートはうなずきながら、横にいるマイクに指示を出した。


「はい」

 マイクはロザンヌの挙げた事実を記したメモに目立つように印を書き込んだ。


 ロザンヌはノートをめくりながら続けた。


「タイラー運送の倉庫火災と強盗についても記事に。証拠書類を狙った襲撃についても捜査されることを書いていいと思いますわ。それに、行方不明だったエルシー様の無事が確認されたこと」


 マイクはうなずきながら、メモに印を入れていった。


「ということは、書かない点は、エルシー嬢が自ら失踪計画を立てたこと、アイリーンさんの名前と彼女がエルシー嬢の身代わりを務めたこと、エルシー嬢とオリバー殿の婚約の内情、セシリア嬢の姉とオリバー殿の過去、エルシー嬢の保護先、オリバー殿の浮気相手のグレース未亡人とルイス殿の関係、馭者襲撃について治安部がまだ確認していない内容、ですね」

「エルシー嬢が婚約解消を狙って地味で内気な令嬢を演じていたことは?」


 アドリアンの質問に、ロバートが答えた。


「それも、書く必要はないだろう。今後の彼女の振る舞いは変わるはずだ。婚約が解消されれば、不実な婚約者と縁が切れて明るくなったと、周りが勝手に補完するさ」

「なるほど」

 アドリアンはうなずいた。


 ロバートはマイクのメモを覗き込みながら考えた。


 馭者襲撃とアイリーンへの脅迫は当局の捜査に委ねるが、第一報では被害者や協力者を特定する細部を、当局を差し置いて書くわけにはいかないだろう。


「こうしてみると、ずいぶん多くのことを伏せることになるな。ロザンヌ、それでもこれは記事になると思うか」


 ロバートの問いに、ロザンヌはきっぱりと言った。


「秘密を守ることと、未確定情報を書かないこと。それに書く必要のないことを書かず、必要な事実だけを書くこと。叔父さまの方針とも合いますわ」


 マイクが続けた。

「これだけあれば、十分な記事になると僕も思います。むしろ、何が問題だったのかが見えやすいんじゃないかと」


 ロバートは小さく息を吐いた。


「たしかにな。新聞は、人の人生を売るためのものではないからな」


 ロザンヌとマイクとアドリアンは一様にうなずいた。


「秘密を暴くことと、真実を伝えることは同じではない。そこを間違えれば、新聞は人を傷つけるだけの紙になるだろう」


 ロバートの言葉に、ロザンヌは心の中で、得心した。ロバートが初めからエルシーの情報提供書をそのまま記事にしなかった理由がわかったのだ。


「記事の骨組みは、だいたい決まったな」


 ロバートの言葉を聞いて、ロザンヌは思わず大きく息を吐いた。


「今度こそ、本当に終わったね」


 アドリアンの安堵の声に、ロザンヌは思わず反論しようと口を開けかけた。

 まだ記事の反響も、エルシーの婚約も決着がついていない。


 それを言おうとして、カップを口に運ぶアドリアンの手の甲が目に入った。


 まだ、傷跡が赤く残っていた。昨日はその袖口が破れていた。服は着替えれば済むけれど、傷はそういうわけにはいかない。


 もう、今日はこれ以上できることはなく、あとは時間が必要なのだ。


「わたくし、もう家に帰ろうと思います」


 ぽつりとロザンヌが言うと、アドリアンとロバートとマイクはびっくりした顔になった。

 同じような顔をする三人に、ロザンヌは眉をひそめた。


「なんですの?」


 アドリアンがおずおずと言った。


「これからホーソーン殿のところへ行くと言い出すかと思った」

「部外者ですもの。そこは弁えておりますわ」


 口をとがらせるロザンヌに、アドリアンは慌てて言った。

「じゃあ僕は屋敷まで送るよ」

「そうしてくださいませ」

「そのつもりで、ここまで来たんだ」


 ロザンヌはアドリアンの言葉に、言外の意味まで込められていることに気がついた。


 アドリアンは、最後までロザンヌのそばを離れないと約束してくれていた。そのことを思い出し、ロザンヌの心は温かいもので満たされていった。


 ロバートとマイクに見送られ、二人は馬車の中でどちらからともなく手を握りしめた。


 まだ日が高い王都の道を、馬車は静かに走っていく。


 馬車の揺れに身を任せ、ロザンヌはアドリアンの肩に頭を預け、幸せをかみしめた。



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