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[第12話:初舞台!と、まさかのフラグ!?]

「さあさあ、お立ち会い! 今まで誰も目にしたことのない、極上の移動劇(ステージ)をお見せしますよ!」


西方城塞都市の賑やかな大通りにて、ウェンディ義姉さんとリリィが忙しなく宣伝チラシ(フライヤー)を配り歩いていた。

ここ最近、ウェンディ義姉さんの体調はすこぶる良い。王城で受けた手厚い治療の効果が、今になってしっかりと表れているようだ。


リリィも実に楽しそうに走り回っている。出会ってからまだ数日しか経っていないというのに、二人が実の親子のように絆を深めていく姿を見るのは実に心温まるものがあった。


「何かお手伝いすることはございますか、ヘンリー殿?」


セバスがふいに近づいてきて、二日後に迫った旗揚げ公演(デビュー戦)の準備状況を尋ねてきた。

形式上、セバスとリリィはまだ我がキャラバン(劇団)の正式メンバーではない。だが、目的地へ到達するまでは手伝いを続けたいと言ってくれている。

……ああ、そういえば言い忘れていたが、俺たちが西を目指す理由は『聖書』を探すためだ。正確には、この大陸の最果てにある隠れ里に眠るという、長耳族エルフの聖典らしい。


この城塞都市は『城塞』という物々しい名を冠してはいるが、決して前線基地というわけではない。むしろ大陸の最西端に位置し、果てしない大海原に面している。

近所の酒場で仕入れた情報によれば、ここはかつてオステリア王国の旧都だったそうだ。領土拡大に伴い首都は中央へ移転したが、緊急時の備え、あるいは特定派閥の軍事威嚇の象徴として、この重厚な城塞が維持されているらしい。


「王家の血を引くお方が、自国の歴史を知らんとはな」


俺は幌馬車(ワゴン)の奥へ向けて、意地悪な軽口を叩いてみた。


「あーもう、うるさいわね!」


案の定、不機嫌そうな声が返ってきた。

ワゴンの中では、アーリャが物資と兵糧(ロジスティクス)の整理に追われていた。昨日、王都で購入した食料はまだ潤沢に残っている。彼女は手際よく状態をチェックし、長持ちするものと足の早いものを仕分けしていた。

傷みかけた食材は自分たちで消費するか安く売り払う予定だが、いくら旧都とはいえ、王都産の高級品なら街の連中も喜んで高値で買い取るだろう。


ぷくっと頬を膨らませるアーリャを横目に、俺は再び自分たちの特設舞台(ワゴン・ステージ)へと視線を戻す。

あと二日。これが異世界における俺の初舞台——絶対に失敗できない一人芝居(ソロ・パフォーマンス)だ。

くそっ、指先がかすかに震えている……地球のあの眩いスポットライト( panggung )が、たまらなく恋しい。


「ああ、そうだ。セバス」


すまんセバス、しばし己の世界に浸っていた。


「魔法のことで、少し相談があるんだが」

「何なりとお申し付けください、ヘンリー殿。それにしても……昨夜のお話を聞く限り、すでにエルフの魔法概念を完璧にマスターされたようですね」


今朝、リリィが「ヘンリーが風の魔法で馬車を爆走させた!」と目を輝かせて報告したのだ。全員が目を丸くしていたが、俺が即座に公演準備へと話題を逸らしたため、事なきを得た。


「そうよ、なんで無詠唱で魔法が使えるのよ?」


物流整理の手を止め、アーリャが興味津々といった様子で振り返った。


「そもそも魔法に詠唱など不要なのです」


セバスが長耳族エルフとしてのプライドを覗かせ、少し不服そうに解説する。


「人間族の皆様は、反応のイメージを簡略化するためだけに術式を口にしているに過ぎません」

「ふーん……よし、さっぱり分からん!」


アーリャはアッサリ切り捨て、作業へと戻っていった。どうやら我が Princess は、難解な理論がお嫌いなようだ。


「……コホン。話を戻そう。俺はこういう『演出効果(エフェクト)』を起こすための素材が知りたいんだ」


俺はポケットから紙切れ——以前アーリャから『徴発』した聖なる羊皮紙——を取り出し、必要な舞台効果を書き連ねようとした。二日後の公演だけでなく、脳内で思いつく限りの視覚効果をだ。


だが、紙を受け取ったセバスは、それを見て深く眉をひそめた。


「……ヘンリー殿。今夜はまず、文字の書き方から勉強した方がよろしそうですな」


俺は衝撃的な事実に思い至った。

——俺、この世界の文字が書けない。


というか、地球の文字とはまるで異なるのだ。公平を期して言わせてもらえば、ここに来てから運営業務はすべてアーリャに丸投げしていたため、文字を書く機会が一切なかった。そして意外なことに、この世界では文字によるコミュニケーションがあまり一般的ではないらしい。


「つ、つまりだ! 今欲しいのは、俺が口頭で説明する効果を起こすための触媒なんだよ!」


俺は恥ずかしさを押し殺し、必要な舞台装置(プロップ)を口頭で力説した。何度かアイデアをすり合わせた後、セバスは納得したように頷き、必要な素材を買い出しに街へ飛び出していった。



すべての準備が整い、二日間の月日はあっという間に過ぎ去った。


「……緊張してるの?」


舞台の袖(ワゴンの影)で、アーリャが少し心配そうな声をかけてきた。


「問題ない、俺は演劇人(役者)だからな」


俺は親指を立て、自信満々に不敵な笑みを浮かべてみせた。

ワゴン上の舞台へと一歩を踏み出し、群がる観客の海を見下ろす。そして極上の笑みを投げかけた。

今夜、熱気に包まれた広場の中心で、俺の証明が始まる。


「皆様、こんにちは! 本日は、皆様が生まれてから一度も目にしたことのない最高の演目(ショー)をお届けいたしましょう。……どうぞお聴きください、『独白音楽劇ミュージカル・モノローグ』!」


最前線でウェンディ義姉さんが拍手を先導すると、異様な雰囲気に包まれていた広場が、徐々に大きな手拍子の渦へと飲まれていった。


キタキタ……俺の舞台の幕上がりだ。


俺が右手を高く掲げると、一陣の心地よいそよ風が舞台を包み込んだ。


シュバッ。


風に乗って優雅に飛来した『それ』が、吸い込まれるように俺の手元へ収まる。

あごと肩で本体(ボディ)を挟み込み、右手で|ネック()を優しく握る。左手には、馬の尾の毛が張られた木製弓(ボウ)を構えた。


そう、ヴァイオリンだ。


俺はセバスへ視線で合図を送る。意図を察したセバスが静かに目を閉じると——


スッ……。


広場の中央が、一瞬にして暗黒に包まれた。

観客から小さな悲鳴が上がる。しかし次の瞬間、夜空から一筋の垂直な光が降り注いだ。セバス特製の集光魔道具(スポットライト)が俺の姿を鮮やかに照らし出し、劇的な光の円を描き出す。


「これは……己の夢を追い求めた、ある一人の人間の物語」


俺は低く響く声で語り始めた。


「人々の拒絶、果ては運命(シナリオ)の拒絶の中で……それでも走ることをやめなかった男の物語だ」


弓を引き絞り、胸を締め付けるような切ないオープニングメロディを奏でる。曲は喜多郎の『(Koi)』。夜の静寂を切り裂くように美しい音が響き渡る。


「世界は常に、俺たちに『何者かであれ』と要求してくる」


弦を滑らせながら、俺は発声法(プロジェクション)に乗せて言葉を紡ぐ。大学の部室で鍛え上げた声援が、広がりに深く重く響き渡る。


「だが……自分自身に問いかけたことはあるか? 俺たちが本当に望んでいるものは何なのか、と!」


曲が第二段階の情動へと移る。

ヴァイオリンの旋律が静まると、セバスが音声操作魔法を発動させ、虚空から儚げなフルートの音色を響かせた。

その笛の音に合わせ、俺はモノローグを続ける……地球での幼少期、学業至上主義の厳格な教育によって、己の生き方を選ぶ権利を奪われていた過去を。


そして、ようやく人生の目的——演劇(舞台)を見つけた瞬間に、残酷な死の宣告を突きつけられた絶望を。


ゆっくりとしたテンポに合わせて舞台の端へと歩み寄り、最前列の観客たちの me を見つめる。身体技法(ブロッキング)感情の記憶エモーショナル・メモリーを総動員し、あの日|脳動脈瘤《 aneurisma 》を宣告された時の激痛と絶望を呼び覚ます。

そのトラウマの残渣を、すべてこのパフォーマンスへと叩きつける!


旋律が転調を迎えた瞬間、俺は舞台の床を強く踏み鳴らした。

直後、頭上のスポットライトが消灯。暗闇が舞台を呑み込んだ次の瞬間——背後から赤紫色の火花が爆発的に吹き上がり、俺のシルエットを鮮烈に浮かび上がらせた!


「「「ひッ……!?」」」


観客が息を呑む。恐怖ではなく、感情と完璧にシンクロした魔法演出の美しさに魅了されたのだ。セバスめ、最高の仕事をしやがる!


ドォォォンッ!!


第三段階。太鼓とドラ(ゴング)が鳴り響き、感情が劇的に爆発するクライマックス。

俺はヴァイオリンを下ろし、声を一オクターブ張り上げて夜空へ向かって叫んだ!


「なぜだッ!? 俺が何をしたというんだ!!『努力は裏切らない』……その言葉を信じて死ぬ気で足掻いてきた! なのにどうして、残酷な運命(かみさま)は俺を認めてくれないんだぁぁぁッ!!」


観客の息が止まる。

視界の端で、ウェンディ義姉さんが感極まって口元を押さえているのが見えた。リリィは目を丸くし、瞳を輝かせている。

そしてアーリャは——ワゴンの傍らで立ち尽くし、複雑極まりない眼差しで俺を凝視していた。


グランドフィナーレの雄大な、けれど諦解に満ちたメロディの中、俺はゆっくりと舞台上に膝をついた。

あたかも戦場で劇中人物(キャラ)が最後の息を引き取るかのように、声を震わせて結びの言葉を呟く。


最後に弦を弾き——余韻を残す長い一音を夜気に溶かしてから、深く頭を垂れた。


静寂。


広場全体が、息をすることすら忘れたかのように静まり返っていた。

あまりの悲劇に引き込まれ、拍手をするタイミングすら見失っているのだ。


パチ……パチ……パチ……


静寂を破り、まばらな拍手が聞こえた。

不思議なことに、その最初の拍手は広場の遠い隅から聞こえたような気がした。


その謎の拍手を合図にするかのように、ウェンディ義姉さんとリリィが激しく拍手を送り始め、次の瞬間——爆発的な大歓声を伴った拍手の嵐が広場全体を飲み込んだ!


これだ。俺が喉から手が出るほど欲しかった絶叫(カタルシス)

地球で死に直面したあの瞬間ですら、俺はこの賞賛の声をもう一度聴くためだけに生き ambassador っていたのだ。


明かりが再び灯り、俺は役者としての深々と一礼(カーテンコール)を決め、舞台を降りた。

割れんばかりの拍手は、俺たちがワゴンの中へ入り、ウェンディ義姉さんたちが合流した後も鳴り止まなかった。


「なんて言えばいいのかしら……まるで可愛い弟が、全く別の何かに変身してしまったみたいだったわ!」ウェンディ義姉さんが興奮気味に叫ぶ。

「すごい! すごすぎるよヘンリー!」リリィが目を輝かせる。

「見事な舞台でした、ヘンリー殿。あの演出管理術は今後の参考にさせていただきます」セバスも執事魂を燃やしている。

「みんなありがとう。それとセバス、最高の演出魔法をありがとうな」


本気でセバスの魔法サポートがなければ、ここまでの神回(パフォーマンス)にはならなかっただろう。


俺はワゴンの奥へと目をやった。先に中へ入っていたアーリャが、相変わらず複雑な視線を俺に向けていた。


「……褒め言葉になるかは分からないけれど。もう一度聞かせて。あんた、一体何者なの?」


俺はただ、彼女の困惑に小さな苦笑いを返すだけにとどめた。



道具を急速撤収し、俺たちは広場を後にして宿屋へと向かった。

宿の扉を開けた瞬間、パブにいた客たちから大歓声で迎えられた。どうやら彼らも昼間の公演を見ていたらしい。ぎこちない営業スマイルで歓声に応えつつ、俺たちは二階の客室へと駆け上がった。


部屋の doors をピタリと閉め、ベッドの上に倒れ込む。

大歓声の余韻と熱量が、まだ身体の奥底で渦巻いていた。思わず口元がニヤけてしまう。


(ふぅ……でも立ち位置ブロッキング、もう少し左寄りでも良かったかな……)


反省点を反芻していると、猛烈な眠気が襲ってきた。目が閉じかけたその時——


バァンッ!!


扉が乱暴に蹴破られ、俺は跳ね起きた!


そこに立っていたのはアーリャだった。

だが驚いたことに、彼女は小言を言うでもなく、猛烈な勢いで部屋を横切り、ベッドの脇——窓際へと突進した。


「アーリャ、急にどうし——」


ガシャンッ!!


俺の言葉を遮るように、窓ガラスが木端微塵に砕け散った!

割れたガラスの破片を散らしながら、黒装束に身を包んだ男が窓から侵入してくる。


マジで言ってる? 初舞台が終わった直後なんだが!?

第12話をお読みいただき、ありがとうございます!


ついに異世界での【初公演】は大成功!

ラドヤの魂のヴァイオリン演奏とモノローグ、そしてセバスの魔法演出が噛み合い、観客を圧倒しました!


……しかし、感動の余韻に浸る間もなく、宿屋の部屋に謎の刺客(黒装束)が窓を割って乱入!?

まさに『死亡フラグ』爆発の衝撃的な引きとなりました!


「ラドヤの演劇シーンが熱すぎる!」「せっかくの初公演の後に刺客とか展開が早くて最高!」と思ってくださった方は、

ぜひページ下部の【ブックマークに追加】や【評価(★★★★★)】を押していただけると、執筆の大きな励みになります!


次回、アーリャとラドヤ vs 謎の刺客!

更新をお楽しみに!

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