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有能なメイド

実はこの見回りに来る前、僕は部屋でシルヴィアに使用人たちの現状を尋ねていた。


そしたらなんと、「あの者たちは、ただの給料泥棒でございます」と淡々と答えたシルヴィアは、何食わぬ顔で部屋のクローゼットの奥からこの書類の束を取り出してきたのだ。


『お嬢様、彼らの不正の証拠でございます』

『……シルヴィア、よくこれを見つけたわね』

『いえ。これくらい造作もありません。また、彼らが持ち出そうとした本物はすべて私が夜な夜な回収し、倉庫のニセモノとすり替えておきました。今彼らが売り捌いているのは、ただの精巧なゴミでございます。本物はすべて無事ですのでご安心ください』

『………………』


その事実を聞かされたとき、僕は脳の処理が追いつかず、完全に固まってしまった。

(ホントに何者なんだ、このメイド……!?普通そこまでするか?いや、その前に、メイド一人でできるものなのか?っていうか、ニセモノを掴まされてる買い手側の組織、今頃めちゃくちゃ怒っているだろ)


そんな疑問や懸念点が山ほど浮かんだが、それをシルヴィアに聞いたところで意味不明な解答しか返ってこないことは予想できた。なので、その疑問を口に出すことはなかったが……



僕は怯える使用人たちに向かって、どこまでも穏やかで、包み込むような優しい声で語りかけた。


「このことが王都の公爵家に知られたら、皆様どうなってしまうかしら? 横領は重罪。最悪の場合、取り返しのつかない大変なことになると思うわ。……私はね、皆様にそんな悲しい終わり方をしてほしくないの」

ふわふわとした慈悲深い雰囲気を纏いながら、僕はそっと男たちの手元に視線を落とした。


「人間、誰しも道を誤ることはあるわ。でもね、これ以上罪を重ねたら、本当に救われなくなってしまう。……だから、これが最後のチャンスだと思ってね」

今の僕の瞳には、怯える彼らを哀れみ、更生を願うような深い温かさが宿っているはずだ。そして、それは重罪を抱えた使用人たちにとっては、唯一の希望の光に見えるだろう。


「今すぐここから出ていって、別の場所で、今度は真面目に大切な誰かのために働いて。……そうする方が、皆様のこれからのためにも良いと思うわ。」

「っ……! わかりましたっ! ありがとうございます、お嬢様……!」


男たちは僕の言葉に救われたような表情を浮かべ、なんと、一礼までして部屋から出ていった。それを見送りながら、僕はふぅと小さくため息をつき、胸をなでおろした。


(使用人たちも身寄りがなくて食い詰めた末の浅知恵だったのかもしれないからな……)

シルヴィアのおかげで、こっちの損害はないし罪を問い詰めることはしなくていいだろう。


それに、公爵家に言おうが言わまいが、あの使用人たちの未来は、そう変わんないだろうからな。


何と言っても、ニセモノを掴まされたことに気づいた組織はカンカンに怒っていることは目に見える。実際に、ニセモノとすり替えのはシルヴィアなのだが、そんなこと裏組織が気づくはずもない。ああいう組織は裏切り者への報復が恐ろしいからな。まあ、僕が知ったことではない。


自業自得の結末からは逃れられないだろうと、僕は冷ややかに思考を打ち切った。

「お見事です、お嬢様」

いつの間にか背後に音もなく立っていたシルヴィアが、パチパチと無感情な拍手を送ってくる。


「おっとりとした聖母のような慈悲深さで悪党すら優しく包み込む。素晴らしい人心掌握でございます。これであの者たちにも、明るい未来が訪れることでしょう」

(……いや、そうならないことくらいお前が一番分かっているよな!!??)


本物と精巧なニセモノをすり替え、彼らに売り捌かせた張本人は一体どこの誰だ。買い手側の組織がどれほど恐ろしいか、この有能すぎるメイドが理解していないはずがない。


という凄まじいツッコミが喉まで出かかっが、それをあえて口には出さず、僕はふっと不敵に口角を上げてニヤッと笑った。


「だろ?」

「はい。お嬢様のどこまでも温かい慈悲に、私も涙が止まりません」


もちろんシルヴィアの目は完全に乾ききっていて、表情筋も動いておらず、涙どころか感動すら伝わってこなかったが僕は楽しげに肩をすくめた。

なんだかんだ言っても、この頼もしすぎるメイドとの異世界生活は、それほど退屈なものにはならなさそうだ。

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