リアの正体
眩い光と、美しい大地、リアの両親の驚いた顔……
あ〜〜〜!!!
おしとやかな令嬢だということは頭からすっぽり抜けた僕はバッと、勢いよく右横を向く。
「シルヴィア!ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なんでしょうか?」
ベットの横に待機していたシルヴィア(突然の僕の行動にすら表情が一切乱れできなかった)を見て少し冷静を取り戻した僕は、令嬢の雰囲気を再びまとい直した。
「ごめんなさい。私……病気で寝込んでいたせいで少し記憶があやふやなの。それで念の為確認したいのだけど、私って、この国の『聖女』なの……?」
シルヴィアはトレイに手をかけたまま、感情の起伏が全く見えない無表情で、こくりと頷いた。
「はい。その通りでございます、お嬢様。」
やっぱりか……ってことは…嫌な予感しかしない……
「……念の為、詳しく説明してもらってもいい?」
シルヴィアは、なんてことない明日の天気を報告するかように淡々とした口調で語り始めた。
「この世界には、大別して3種類の聖女が存在します。一つは、怪我や病を癒やす回復と防御系に優れた聖女。もう一つは、魔を討ち払う攻撃系に優れた聖女。そして最後の一つがお嬢様が該当される神獣や精霊と意思疎通を図り、大地に恵みをもたらしす能力。」
そこまで一気に説明すると、シルヴィアはすっと視線を落とした。
「フォルカート公爵家がその力を秘匿していたこと、そしてお嬢様が病弱であったため、国からの本格的な徴集は免れておりました。ですが、その力の本質は紛れもなく本物でございます」
「…………」
はーー!?!?ふざけるなよ!?
説明を聞き終えた僕は、文字通り頭を抱えそうになった。
裏社会のボスとして修羅場をくぐってきた経験上、そんな「世界の命運を握る特別な力」なんてものは、ただの『巨大な厄介ごとの種』でしかない。
派閥争いや利権に巻き込まれる未来が、容易に想像できてる。ただでさえ親戚から邪魔者扱いされている現状なのに、ここに聖女の肩書きまで乗っかってきたら、面倒くさいことこの上ない。
(静かに、目立たず、この別荘での、のんびり人生計画が……なんて面倒な設定を背負ってやがるんだ、この身体は!)
とりあえず病気が治ったことは知られないほうがいいな。
無意識のうちに、はぁ、と深い令嬢らしからぬ重いため息をつきながら、僕は顔を上げた。
「……教えてくれてありがとう。たしかに、そうだったわね。それで一つお願いがあるのだけれど、私の病気が治ったということは、しばらく誰にも言わないで欲しいの。いいかしら?」
「かしこまりました」
シルヴィアは綺麗に一礼し、空になったトレイを持ち上げた。そのまま、いつものように淡々と部屋のドアへと歩を進める。
だが、ドアノブに手をかけたところで、シルヴィアは足を止め、振り返ることなく静かに口を開いた。
「お嬢様。一つ、よろしいでしょうか」
「なぁに?」
シルヴィアは首だけをわずかに傾げ、いつも通りの口調で大爆弾を落とした。
「先ほどから、優雅な口調を維持しようと必死なようですが、隠せてもいない本性を必死に覆おうとするそのお姿は滑稽を通り越して、不気味です。こちらの気分が悪くなるので、やめていただいて欲しいです。」
「…………は?」
「では、失礼いたします。ワイルド・エレガンスな我が主」
それだけを言い残すと、僕が返事をするのも待たずにシルヴィアは流れるような動作で部屋を出ていき、静かにドアを閉めた。
あとに残されたのは、ベッドの上で完全に固まった僕一人だけだった。
「…………なんだ、あのメイド」
僕のお願いに間髪入れずに了解したと思ったら、主人に対する物言いではない辛辣すぎる指摘。
僕はもう一度深くため息をつくと、バサリとベッドに倒れ込んだ。




