今世の目標……?
朝食の支度が整ったと告げて一度下がったシルヴィアは、ほどなくしてトレイを手に戻ってきた。
運ばれてきたのは、いかにも病人用といった風情の薄味のスープと、柔らかく煮込まれた白い粥のようなものだった。
「お嬢様、こちらをお召し上がりください。まだ病み上がりですので、胃に優しいものをご用意いたしました」
「ええ、ありがとう。いただくわ」
僕は上品に微笑み、ベッドの上でトレイを受け取った。スプーンを手に取り、そっと口に運ぶ。
出汁の優しい味が広がる。病人食なんて食べるのは、一体いつ以来だろう?
前世の「僕」は丈夫だけが取り柄だったからな。風邪なんてひいたことなかったし、銃で肩を撃たれたりナイフで腹を刺されても比較的すぐ治った。おかげで周りからは"鉄女"と呼ばれる始末だ。
僕だって普通の人間だし、腹を撃たれたときは完治に2週間くらいはかかってたんだけどな。
それにしても、のどかだ。厄介事を持ち込んでくる奴はいないし、積み重なる書類の山はない。当然、後ろから銃で撃たれる心配もない。こんなの幸せと言う以外に何と言うんだ。………今思えば、前世は穏やかとはほど遠い人生だったな。
乱闘騒ぎ、銃撃戦、サイバー戦なんてものは当たり前。ビルや車を使って世界中で命がけの隠れ鬼したり、何回か爆弾でビルだかなんかをぶっ飛ばしたこともあったっけ?後日、ニュースで見たらガス漏れで処理されてたけど。ま、こんなことを上げていけばきりがない。
よし、決めた。今世は、何が何でも波乱とは無縁の穏やかな人生を送ろう。あんな目の回る人生もうこりごりだ。平和が一番!
(この病人食も悪くないな。身体に染み渡る)
お淑やかな所作で綺麗に完食すると、僕は本格的に脳内の整理を始めた。多少の記憶整理はできているものの、まだ細かいところは、ゴチャゴチャしまくっていて気持ち悪い。
意識を集中させ、この身体の前の持ち主である『リア』の記憶を少しずつ引っ張り出していく。
フォルカート公爵家に、優しかった両親、彼らが亡くなってからの親戚たちの冷遇、そしてこの寂れた別荘へ追いやられた経緯。
ま、「よくある理不尽な苦労話」だな。今までよくやってきたもんだ。どうやら前の体の持ち主の『リア』は底抜けのバカポジティブ思考の持ち主だったらしい。
だがこの状況は僕にとって好都合だ。親戚に冷遇されているなら、無理に関わる必要はない。別荘だって、殺伐としたコンクリートの地下に住んでいた僕からしたら立派すぎるほどだ。病弱だということを理由に、貴族社会からは身を引いてこの別荘でのんびり平和に………
…………ん?ちょっと待て
いま、何か重要かつ、とてつもなくげんなりすることが頭をよぎったような………




