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これが、いわゆる異世界転生!?

は?何がどうなってるんだ!!??

それが死んだはずの僕が最初に思ったことだった。


胸を焦がすような熱さと、耳を突き刺す銃声。それが僕の——『リク』としての最後の記憶だった。

誤解されないように先に言っておく。僕は女だ。もともと男勝りだったのもあるが、小学生のときに病気で両親を亡くし親戚をたらい回しされた僕が荒れるのに時間はかからなかった。そんな僕を救ってくれて生きる手段を教えてくれた人。ま、僕の師匠だな。そのアホ師匠のせい……オホン!憧れの師匠の影響で、男のような口調になってしまった


師匠は裏世界のとある小さな組織のリーダーだった。その組織は居場所のない子どもの受け皿になってる組織だった。師匠とその組織のおかげで仲間もたくさんできて、大変なことも多かったが楽しかった。


師匠が死んでからは僕がリーダーとなり、とにかく死にものぐるいでやってきた。

破天荒な仲間がとんでもないことをやらかして警察と鬼ごっこすることになったり、

誰かが銃をぶっ放してトマトジュースの樽に当たり、みんなでトマトジュースまみれになったり


印象に残る出来事だけすら数え切れないほどだ。そんな僕の人生の幕引きは、とある組織と抗争中に死角から胸を銃で撃たれ、ほとんど即死のあっけない出来事だった。

享年22歳。後悔がないと言えば嘘になるが、やれることはすべてやってきたし、師匠も小言一つ二つくらいで終わらせてくれるだろう。などと思いながら比較的落ち着いた気分の中、意識を失ったはずだが。


助かったのか?

(……にしては、身体が妙に軽いな)

死んだはずの身体に走る、奇妙な感覚。僕はゆっくりと目を開けた。

視界に飛び込んできたのは、見慣れたアジトのコンクリート天井ではない。古びてはいるが、手の込んだ彫刻が施された木製の高い天井と、見覚えのない天蓋付きのベッド。


「お目覚めですか、リアお嬢様」

リア、お嬢様……?冷徹で、しかしどこか聞き覚えのある涼やかな声。

視線を左から右に巡らせると、枕元に一人の女……僕より少し年下だろうか。20歳前後の女性が立っていた。きちんと手入れしているのが伝わる寝癖一つない銀髪のボブヘア。隙一つなくきっちりと着こなしたメイド服。感情の読めない灰色の瞳に無表情な顔。彼女の名は……

「……シル、ヴィア……?」


は??今、声を出したのは誰だ?慌てて隣のメイド服を着ている女性を見るが口は動いていない。この部屋には僕と、この女性しかいない。つまり今、声を出したのは僕自身ということになる。


いや、たしかに僕は口を動かした。その自覚はある。だが、僕の声は男と大差ない低音だったはずだ。なのに今聞こえた声は鈴を転がすような、あまりにも可憐な少女の声。男の声とはほど遠い。まるで、どっかしらの貴族のか弱いお嬢様のような。それに、さっきから、チラチラ目に入ってくる一筋の濁りもない純粋な金髪に薄いピンク服。



同時に、頭の中に濁流のように「誰か」の記憶が流れ込んでくる。

オーレリア・フォルカート。17歳。公爵令嬢。

両親を数年前に亡くし、その上、重い病気にもかかり親戚たちから邪魔者扱いされてこの寂れた別荘に追いやられた。それでも天真爛漫に優しく小さなことに幸せを見つけていた女神のような心を持った少女。

それが、今の「僕」の身体の持ち主だった。


(なるほどな。これが風の噂で聞いた『異世界転生』ってやつか……。まさか自分が体験することになるとはな。しかも、完全に病気が治ってる。ダルい感じは一切しない)

長年リクを苦しめていた死の気配は消え失せ、身体の奥からは満ち溢れるような生命力——いや、それ以上の「何か」を感じる。だが、今はそれを確かめている場合ではない。


(まずはこの場を切り抜ける。おしとやかな公爵令嬢、だったな。演じるのは得意だ)

潜入調査で培った完璧な淑女の笑みを浮かべ、リア——僕は声を掛けた。

「ええ、おはよう、シルヴィア。少し……悪い夢を見ていたみたい。心配をかけてごめんなさいね」

完璧だ。我ながら非の打ち所のない、お淑やかな令嬢の演技


……な、はずだった。だが、シルヴィアは眉ひとつ動かさず、じっとリアの顔を見つめている。その瞳には、明らかな不審の色が浮かんでいた。

「お嬢様」

「なぁに?」

「夢の中で暗殺者にでもなってきたのですか?目の奥が完全に『修羅の修羅場をくぐり抜けてきた女』のそれです。あと、取り繕ってはいますが起き上がり方が完全に不審者の警戒態勢です。一体どうされたのですか」


(な、なんなんだ!?このメイド……!)

さすがはリアが最も信頼していた専属メイドと言えばいいのか?いや、それにしても鋭すぎだろ。あと、ついでに言えばリアはお嬢様でシルヴィアってメイドだよな。主人に対して、「暗殺者になってきたのか?」なんて言うか?普通。大丈夫なのか、このメイド……。


いくつか突っ込みたいところが出てきたが、まずはこの場をどう切り抜けるのか考えるのが先だな。ここは、いっそのこと正直に言うか?こういう鋭い者に隠し事をするのは、かえって墓穴を掘る。

隠し通せないなら、少しだけ本当のことを混ぜて言い訳を作るまでだ。それが裏社会の交渉術でもある。


よし、えっと、口調は一応、お嬢様らしく

「隠し通すのは無理そうね」

僕は口角を上げ、ゆっくりと話し始めた。

「えっと、驚かずに聞いてほしいんだけど、どうやら私、前世の記憶?みたいなものを思い出したらしいんの。地球って場所で、裏社会のリーダーみたいなものをやっていた記憶……」

「前世、ですか」

「ええ。だから少し目が鋭くなってしまったのかもしれないわ。だから、ごめんなさい。これまでとは少し性格が変わってしまうかもしれないわ……意味がわからないかもしれないけれど本当のことなの」


僕は腕を組み、シルヴィアの反応を待った。

「狂ってしまった」と言われて医者を呼ばれるか、あるいは気味悪がられるか。最悪のパターンを想定し、身体に力を込める。

しかし、シルヴィアは顎に手を当て、淡々と呟いた。

「なるほど……。前世の記憶。つまり、現在のお嬢様は、これまでの天真爛漫な優しさを根底に残しつつも、裏社会を統べるほどの圧倒的な包容力と理知的な冷徹さを兼ね備えた状態、ということですね」

「え、ええ。まあ、要約すればそうね……受け入れが早いわね、、」

「素晴らしいです、お嬢様」


シルヴィアはパチパチと、表情を変えずに無感情な拍手を送った。

「これこそ、今王都で大流行の最先端スタイル。凛々しさと気品を高度に融合させた究極のトリアド、**『ワイルド・エレガンス』**に違いありません」

「え? ワイル……もう一度言ってもらえる?」

「『ワイルド・エレガンス』です。これぞ次世代の公爵令嬢のあるべき姿。さすがはお嬢様、病を克服すると同時にトリアドの最先端を走られるとは」

「え、えっと、なんか違うような……。私は前世の記憶を——」

「では、ワイルド・エレガンスなお嬢様。朝食の支度ができておりますので、すぐに持ってまいります。その凛々しさとたくましさ、私は全面的に支持いたします」


シルヴィアは微塵も隙がない完璧な一礼をして、部屋を出て行こうとする。その背中を見送りながら、僕は呆然と頭を抱えた。

「……なんだあのメイド。ド天然にも程があるだろ……」

わ、ワイルド…なんだっけ?絶対にそんなものないだろ!だが、おかげで口調だけ気をつければ、ややこしい隠し事をする必要はなくなった。僕はクスリと笑い、ベッドから足を下ろした。

この不自由で寂れた別荘から、(元)裏組織女幹部のワイルド・エレガンスな異世界ライフが始まろうとしていた。

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