6:対魔王戦について考えてみる
魔王って何だろう?
いや、お約束としては、「ファンタジー世界に君臨している」「強い」「長生き」「知性が高い」というあたりを兼ね備えているとは思うのですが、その辺きちんと掘り下げて作られているお話の割合って少ないんですよね。甚だしい設定だと、王様って称号がついているのにただなんとなく強いだけで王扱いとか。お前んとこの魔王は国民おらんのか。統治しとらんのか。箔つけるためだけに王って名乗ってるだけなのかいと。
ここで魔王なるものを以下なるものとします。
①「人間勢力にとっては利害が対立する存在」
②「単体で軍隊と渡り合える能力を持つ」
③「ジャガイモみたいにそのあたりにぽこじゃが生えてない」
④「生命体であり、それなりの知性がある」
これ、④知性の条件を抜くと魔王じゃなくて「ゴジラ」「キングコング」になりますし、①「人間勢力にとっては利害が対立する存在」という条件を抜くと「勇者」になりますね。③の「ジャガイモみたいにそのあたりにぽこじゃが生えてない」が抜けると「エイリアンやプレデターは魔王か?」って話になります。奴らは下っ端の兵卒だからちょっと違う。魔王様は1人でないと格が落ちる。その点、ダースベイダー卿の立ち位置は魔王にあたると言えるのではないかと@私の独自定義。
ともあれ、とにかく、人間勢力にとっては目の上のたんこぶ。これが一国の王様ともなれば、もし殺す機会があれば殺してしまいたい存在。それが魔王。
利害が対立する理由については物語の作者によって千差万別ですのでここでは割愛します。
で、なんやかんやで魔王の殺害を王様なり有力者なり、あるいは地域住民の総意としてあいつぶっ殺さないとやってけんわーってなった場合。具体的な手段を考えなければならんわけです。しかしこの具体的な手段、魔王がどういう状況にあるかで変わってくる。
①魔王は王であるので、国民が存在し、国家が存在する。従って、魔王の住む場所の近くにいる者たちは魔王を守る義務や義理がある。
②魔王は単なる称号であるので、国民もいなければ国家もない。従って、魔王の住む場所の近くにいる者たちは魔王を守る義務もなければ義理もない。
①と②の決定的な違いは、「魔王を守る配下の者がいるかいないか?」です。また、さらに、この条件も考えてみます。
1.魔王には自分の命より大切な守るべきものが、ある
2.魔王には自分の命より大切な守るべきものが、ない
人質をとれるかとれないか。交渉の余地が存在するかしないか。
魔王「〇〇の命は助けてやるので〇〇しろ」という条件を切り出す物語はわりとありますけれども、人類側だって魔王側に対してもそのようなやりとりが可能かもしれない。
さて。
「魔王を殺す」という目標のみに的を絞った場合、上記①、②、1、2を加味すると条件別の難易度はこうなります。
簡単
②-1 魔王を守る配下や部下は存在せず、魔王は自分の命より大切なものがある状態。
⇒ミッションの障害は魔王自身以外は存在しない。かつ、大切なものを人質にとっておけば魔王を無力化できる。
②-2 魔王を守る配下や部下は存在せず、魔王は自分の命より大切なものがない状態。
⇒ミッションの障害は魔王自身以外は存在しない。しかし、魔王は自分の命を最優先で守るので無力化はできない。
①-1
⇒ミッションの障害として魔王の配下がいるため、魔王に到達するための工夫が必要。しかし、大切なものを人質にとれば魔王やその配下を無力化できる。
①-2
⇒ミッションの障害として魔王の配下がいるため、魔王に到達するための工夫が必要。しかも魔王は自分の命を最優先で守るので無力化はできない。
難しい(やりにくい)
②-1は、悪役らしい悪役にはなり得ませんね。後で仲間になるパターンや、実は主人公の父親だった……というようなケースが多いような気がします。ちょっとズレるんですけれども、幽遊白書の闘神、雷禅さんとかね。魔王のテンプレとしては配下の四天王がいて勇者の障害となるというケースが多いわけで、部下がおらん魔王という作品はかなりレアなのではないかと(魔王を主人公に据える作品は除きます)
①-2は、RPGゲームの王道。ドラクエからスーパーマリオまでこれ。要するに物語を面白くするためには障害は段階を追ってたくさん欲しいし、難易度は高い方がいいわけですね。勇者にとっては迷惑な話ですが。
ともあれ、先回のキルレシオの話を加味して考えると、人類側にとって困るのは「魔王がベストコンディションを発揮する状態になり、かつ魔王に対抗できる戦力が前哨戦で損耗しているという状態」なわけです。具体的に言うと、勇者が四天王攻略したばかりで瀕死の重傷の中、魔王が現れてパーティ全滅とかね。だから、人類側としてはそうならんように小細工をする必要がある。
1.魔王と配下の戦力を分断する
2.魔王に対抗できる戦力を育てておく
3.2の戦力をベストコンディションで魔王にぶつけられるようにする
4.魔王の体調を下げておく(連戦による疲労、結界術による弱体化、人質をとるなど)
5.魔王に退路は与えず、人類側には退路を常に用意する(魔王から逃げられん状態は困る)
6.魔王側に条件闘争する余地を与えない(勇者よ、世界の半分をやるから寝返れ、はまずい)
1~6は殺す場合の話ですので、魔王との協定なり条約なりを結んでの手打ちを目指すならばまた違ってきます。魔王側の視点だと、自分のコンディションを保ち、配下の戦力をなるべく削られないようにし、自分を脅かす人類側の有力な戦士を排除していけばいいわけで、運用としてはチェスや将棋ですね。
ただ、「一騎当千の存在を王座の上で腐らせておいていいのか?」というジレンマも出てきます。魔王様が魔界軍最強であるのならば、魔王の戦闘力をチェックメイトされた瞬間のみにしか用いないというのは大きなマイナスであるわけです。伝家の宝刀をお飾りにするのは効率が悪い。
このあたりは、今回のコラムで最初に出した①、②から導かれる話、すなわち「魔王が為政者であるかどうか?」ということにも関わってきます。国家元首がアタッカーになったら、誰が国内政治を回すのか、と。史実では皇帝ナポレオンがそれをやりましたし、中世期までの政体ではそういうこともありましたが、国家元首が敵国、最前線に張り付いてしまう場合、国内への目が届かないのでわりと簡単に調略できる隙を作ってしまいます。
次はそのあたりを考えていきましょう。