第五十九 『さあやり直しだ』
—————
……。
ぱちりと目を開く、倒れていたはずの体は現実に引き戻されていた。
こちらを不思議そうに見つめるロトと目が合う。
コウちゃんは、驚いたような顔をしていた。
「……お前」
「…………うん、戻ってきた」
そう言うと全て察してくれた。
この世界は破損したはずだった。
けれど、戻って来れた。
「死んだのか」
「……世界を破壊された」
「はぁっ!?」
くそっと頭を抱えるコウちゃんを横目に俺はロトへと顔を向ける。
「なあ」
「……なんだ?」
「ロトは本当に、柊花を愛しているんだな?」
「…………」
「……どうして返事しないんだよ」
視線だけがずっと交差する。
俺の問いに対して、返事を待っても答えは返って来ない。
「愛していないんだな」
「否」
愛していないには、返事がすぐにくる。
俺とコウちゃんは顔を合わせる。
なんだこいつは。
「……汝らも男なら分かるであろう。
我が最愛ではあれど、他に現を抜かし過ぎるきらいがあるのだ。
そのような女に愛を捧げられるほど、我は盲目な男ではない。」
浮気性すぎるから愛想尽きてるってことだろ。
でもさ。
「それでも、好き、ではあるんだろ。」
「……」
「婚約者だからって、わざわざ、他の男が呼んだ場所に来るくらい心配してた。
……お前らよりも下等であろう人間にも協力を仰ぐくらいには、まだ、さ。」
「……」
不機嫌そうに顔を背かれる。
「人間側は協力して、必ず柊花をロトに取り戻させると約束する。
代わりに、ロト、頼みたいことがある。」
「……ふむ」
背かれた顔がこちらを向く。
その顔は影が出来、への字だったはずの口元は引き裂かれたように弧を描いている。
ぞわりとする。
……ほんと、お似合いだなこいつら。
「必ず彼女を貶すような発言をしないでほしい。
俺も大事なやつが、今は柊花の手にある。
取り戻したいんだ。
だからこそ、俺らは協力してる。
頼む。」
「………………力で奪い返せば良いではないか。
我に刃向かった人間共は、力で対抗するものが多かった。」
「俺、俺は無力だ。
精々『諦めない』ことしか出来ない。」
「クッ、諦めない、か。
……フッ、一番厄介ではないか。」
ククッと笑いはじめるロトに、目が点になる。
諦めないが一番厄介なのか。
「もとより婚約者を貶すような発言などしない。」
嘘つけよ、と思いながら、ロトに先ほどの記憶などないので、説明をする。
不用意な発言で彼女が想像以上に悲しみ、結婚式どころではなくなり、世界が破壊されてしまったこと。
「事実だろう、いつも同じような服だ。」
「……いや、まあ………、女になってた身なんで、どっちの気持ちも分かりますよ」
「おんな、なる……?
人間は簡単に性別を変えられないのではないのか……?」
「そこからか」
七音になった経緯と柊花襲来の経緯を説明する。
すごく素直に説明を聞いてくれるが、柊花と同じような存在なので、いつ本性を見せてくるか分からず、少しドギマギする。
「可愛い服着たら、可愛いって言われたいんですよっ!女の子ってのは。」
「まじ?……前のデートのときの服可愛かったぁ〜」
「遅いし、黙れ」
「……可愛い、と言えば良いのだな?」
「……まあ、もっと感想が出るのならそれを全て伝えた方がいいと思うけど。
もちろん、ケバいとか、こっちの方のが良かったとかはやめた方がいい。」
「…………」
すごく顰めっ面でこちらを見ている。
今までのバッドコミュニケーションで、一体いくつの世界が犠牲になったのだろう。
「その。
言うか迷ったんですけど、伝えときます。
…………自分から離れた癖に、柊花はロトが会いにくるとわかった時、すごく嬉しそうに、あちらこちらを駆け回ってた。
どのメイクが喜ばれるのか、どういう服だと可愛いって言ってくれるのかとか、すごく……元々敵だったから、すごく心境めちゃくちゃだけどさ、『普通の女の子』みたいだった。
それだけ、ロトのことが好きで、想ってるんだなって。
……大事な人を取られたやつが言うセリフじゃないけど、お前の大事なやつに会う前に、会って……後悔にならないように伝えたかった。」
「……長い。」
色々もやもやしながら、話したのに、感想が長いだとっ!?
「いや、俺でも長いと思ったけど、そういうとこだぜ。」
「……善処しよう。この部屋におるのだろう。」
あっ、教室についてたのか。
と今更気づき、ドアを開けるロトを止める前に、ドアが開かれてしまった。




