「大好きだったよ」
ふわふわと浮かびながら歩いていると、薄茶色のドアが見えた。
ドアノブがない、押してみるが開くことはなく。
開き戸でもなかった。
どうするか迷い、ノックをしてみる。
「……」
コンコン。
「……」
コンコンッ。
「……穂波」
……カタンッ。
小さな物音が聞こえる。
「穂波」
「……」
きっと穂波だ、けれど穂波ではない。
ここはきっと『game over』の裏側だから。
「ごめん、穂波」
聞こえてるのか、近くにいるのかも分からない、けれど穂波がドアの奥にいる事実だけ、それだけでいい。
「俺があんなこと言わなかったら、こんなことになんなかった。」
「俺が、我儘言わなかったら、あんな……お前がああならなくてよかったのに。」
視界がぼやける。
勝手すぎる自分が嫌になる。
「…………お前も、俺みたいにならなくて済んだのに。」
「俺、失敗したんだ。
……また、戻るのかも、しれないし……。
……もう二度と戻れない、かもしれない。
あの女がこの世界を壊すから。」
ドアに手をつける、そこに温かみも鼓動も、当然ながら無い。
『大丈夫』
穂波のいつもの声が聞こえる気がする。
大丈夫じゃない。
「大丈夫、じゃないんだ。」
思わず声に出る。
「……頑張らなきゃいけない。でも…………。
…………キュウと約束もしたんだ……。
なんとか、戻って、お前も連れ戻して……
そしたら。」
そしたら。
そしたら。
そしたら。
……そしたら。
……本当に勝手だな、約束して、それを破ろうとしてる。
…………ここに穂波がいるのなら、ここにいたくなる。
裏側の世界で、ずっと。
……ずっと。
……。
………………………………。
………………。
——コンコン。
……。
——コンコンッ。
ノックの音が聞こえる。
……俺ではない音。
「穂波」
「健ちゃん」
幻聴じゃない。
ドアにつけた手に力が入る。
涙は頬を伝って、床に落ちる。
止めようにも止められなかった。
いつもの落ち着く声音、いつだって優しさを向けてくれる、ひだまりの中にいるような感覚。
「まだやり直せる。」
「リトライして。」
「ドアを開けて。」
「健ちゃんなら、大丈夫。」
「俺はずっと味方だよ。」
ドアをもう一回見ると、ドアノブが現れていた。
……。
「……穂波は」
…………。
「ここにいる、ままか。」
………………。
「……」
無言だけが返ってくる。
ドアを開ける前に、昔からずっと変わらない気持ちを告げる。
「俺も、ずっとお前の味方だ。」
「……」
ドアノブに手をかけ、開ける。
部屋などそこになく、ただただ眩しい光に視界が眩む。
思わず目を瞑ると、ぐらりと体が揺れる。
そのまま体が床に落ちる前に、微かに穂波の声が聞こえてきたような気がした。




