第五十六 『くぜつは犬も食わぬ』
「……まじ?」
「まじまじのガチ」
「俺いる?」
「古文わかんね、解読担当頼んだ」
スマホを取り出して、かけてみる。
後ろからコウちゃんの焦った声が聞こえるが、無視する。
コール音数回の後、すぐに出てくれる。
「もしもし、飯岡健です。
彼女さん来てますよ、なんか泣いてるんですけど、少し男同士で話しません?」
『…………………………わかれる、そこよりかれよ』
「はぁ……離れろだと。」
言われた通り、数歩離れる。
『一度に聞け、なほかれよ、危ふし』
「危ねぇから、もっと離れろ」
「ゔっ、襟引っ張んなって苦しい、それにポッケに…………あれ」
キュウがいない。
会長たちと残ったのか……?
消されたのか……?
焦りで手汗がやばい、嘘だろ。
そんな俺の焦りや不安を増長させるように風が吹く。
周りの木々がまるで台風の時のように、ぐわんぐわんと揺れ始める。
ミシミシと聞こえる木々の近くを避けるように立つ。
……後で確認をすればいい、焦るな、今は目の前に集中しろ。
会長たちにも言って、探すのは後でもいい。
心に言い聞かせ落ち着いていると、まるで魔法のように、目の前に人が現れる。
金髪の男性だ。
金髪の男性は、名を名乗ることなく、喋り始める。
「来しぞ人。
ちぎり者が泣けばは何事か。
よも汝らのやりし、とは言ふまじな。」
「はぁ!?違う違うっ!
お前らが喧嘩したんだろっ!」
コウちゃんは俺に翻訳を通じることなく、返答する。
お前らが泣かせたのかって聞かれたのか?
「あれは喧嘩ならず。
ちぎり者の心誤りなり。
心誤りを正さむとせるところ、言ひ訳なり!と言はれ、こなたもこうじたりき。
に、ちぎり者はいまいづこなり?」
「………………あー、なるほど。
あっちの勘違いだから、勘違いを正そうとしたら、あっちがもっと怒っちゃったと。
婚約さんなら、教室だけど、まだ行くなよ。」
容易に想像出来る。
あーと、コウちゃんと共に悩んでると、金髪は浮き始めた。
「待てよ!どこ行くんだよっ!」
「ちぎり者のがりされど?」
「だが?じゃねぇよ!!
お前ら最悪破局だぞ!破局!!」
「……別れ」
コウちゃんが止めてくれ、金髪が素直に下りてくるのを見ながら、どうするかを考える。
最悪、世界を壊しかねない危険な痴話喧嘩。
穏便に済ませれば良いが、あの女の暴走っぷりだ。
さらに勘違いを重ねかねない。
「そもそも、なんで、勘違いされたんだよ。」
俺がそう聞くと、金髪は心底わからないという顔をする。
……だめだ、こりゃ。
「分かんないならいいが、事のあらましを話してほしい。
まず、あいつに勘違いされる前の行動を。」
「…………」




