第四十六 『大事』
「中庭、七音も入れるのか?」
「貴方が行けていたなら行けるでしょう。
あちらの世界に行ったから、半分バグみたいなものよ、私たち。」
「そうか………。
……その、ごめん。」
「私、謝罪は求めてないわ。
……着いたわ、座りましょう。」
ベンチに並んで座る。
木々が風に揺らされ、葉の擦れる音がざわざわとあたりに響く。
「……これはさっき言えていなかったけど、私、あいつと契約したみたいなの」
「え゙え゙っ!!?」
「そんな大きな声を出さないでちょうだい。
耳が痛いわ。」
「ごめん……でも、契約って」
「私たちもあんなところで悠長にしていられなかったから、早めに戻りたくてね。
あの女に、契約をするって言ったわ。
最悪なことに結婚式もどきまでさせられたけど」
うえーと舌を出しながら、気持ち悪そうに七音は話す。
俺が、あんなゆっくりしちゃったから。
「そんな。
でも、何を契約したんだよ」
「さあ、私は『明日と2人、元に戻りたい』って言っただけ。
あの後放置されて、見ての通り、元通りよ。
まあ放置されている間は楽しませてもらったけど」
「た、楽しっ!?」
「…………貴方むっつりすけべね。
普通にさっき見たとおりよ、明日とはそんな関係じゃないもの。
——ああ、そんな考えをするなら貴方たちそういう関係だったの?」
ほ、穂波とそんな関係なわけないっ!と全力で首を横に振り、否定する。
「ふっ、真っ赤。」
顔が熱い自覚はあるが、指摘されるほど赤くなってるのかと、また恥ずかしくなる。
「でも、貴方たちお互いが大切って言う割に、そういう感情はないのね」
「いや、大切な幼馴染であって」
「もし、もう片方がそうじゃないなら?」
「………………、どっ」
「その返答がくる時点で分かってるでしょう。
幼馴染ってやつは、1人は鈍感がいないと気が済まないわけ?」
はぁとため息をつく七音はベンチに深く座る。
……もう1人がそうじゃないなら?
俺が?穂波が?脳内がパニックになる。
「仮にも恋愛ゲームの攻略対象でしょう。
それで貴方…、はぁ…。」
「2回もため息つかなくても…!」
「じゃあ、その穂波くんを貴方はどう思ってるのよ」
「どうって、幼馴染で」
「で?」
ふと、後悔した時のことを思い出す。
「…………泣き虫なんだ、あいつ。
俺の後ろにひっついてて」
「明日と同じね」
「うん、いじめられるほど弱っちいし」
「……前原さんとも似てるのね」
「で、小さい時は俺より小さくてさ、なのに、だんだん大きくなって、それで煽ってきて……」
「それで?」
「ゲーム一緒にやったら、負けて悔しくて泣いてくるし。
……ソーダアイスを分ける時、俺は絶対大きい方をあいつにやるんだ」
「あら、どうして?」
「——笑ってくれるから」
ぽつりと話すと、逐一返答を返してくれる。
とんとんと言葉が出てくる。
俺って、こんなに。
「…………ふふ、いい関係なのね」
「うん、大事なやつなんだ」
「そう、大事……ね」
七音がなにか言いたそうな顔をしている。
「うん、あいつがいないと嫌だ」
が、俺の言葉を聞くと、ふっと笑う。
「それを大事の一言で済ますなんてバカなのね」
「……そーかも」




