いつかの幸せなエンディング
「…………」
「もう……♡」
抜け殻になっちゃうのは早いよぉ♡と後ろから突つかれる。
怒り狂って叫んで、叫んで、喉を枯れても、ずっと、ずっと、抗った。
喉が痛い、血の味がする。
痛い、痛いはずなのに、痛くない。
「ねぇ〜♡
…………面白くなぁい。
じゃあ、じゃあ……好感度アップアイテム〜!
使わなきゃもったいないよね♡」
黒八木柊花は、とても大きなプレゼントボックスを出してきた。
ろくなものじゃない。きっと、クラスメイトだ。
先生かもしれない。
死体のように動かなくなった、クラスメイトの鼓動は止まっていた。
けれど、身体は温かく、まるで生きているようだった。
怒りで泣き始める俺を見ながら、くすくすと笑いながら、まだ生きてるよ♡と告げてくる。
どんな手段を尽くしても、みんな、みんなは目を開けることはなかった。
その温かみだけが残った体だけを残して、心だけどこかへと消えてしまったかのように動いてはくれない。
クラスメイトの半分を超えたあたりで、もう泣くことをやめた。諦めた。
受け取ったら、綺麗に寝かせてあげた。
なにもない、くそみたいな空間だけれど。
ベッドなんかない、空間だけど。
みんなをそこらへんに放ってはおけなかった。
それでも、プレゼントを与えるのをやめてくれなかった。
「おままごと楽しいわねぇ♡」
頭上から降ってくる言葉にも反応しなくなった。
きっと、この中にも他のクラスメイトが入っている。
あと、いないのは。
いないのは。
——いないのは。
汗が止まらなくなる。
息が上手く出来てるのか分からない。
頼む、頼む、頼む。
俺の予想が外れていてくれ。
そう願いながら、初めて箱に手を伸ばした。
「んふふ♡きっと喜んでくれると思うわ♡」
子供の望むものをあげる親のような声音。
俺を見下ろしながら、笑う。
そんな女を無視して、リボンを解く。
どくんどくんと脈打つ心臓は今にも口から出てきてしまいそうだった。
蓋を開ける。
「……………………」
「ああ」
掠れた声が漏れる。
「ああ」
泣くことなんかやめたはずだったのに。
「ああ゙あ゙あ……」
無意味な言葉しか出てこない。
どうして、どうしてと怒りと悲しみが湧き上がってくる。
どうして。
どうして。
「健ちゃん、けんちゃん……」
箱に指を擦って、切れる。
血が出る感覚がした、そんなことどうでもいい。
箱の中にうずくまっている幼馴染を、箱を壊しながら取り出す。
鼓動がある。
涙で健ちゃんの服にシミができる。
温かい。
温かい。
どくん、どくんと脈打つ心臓に安堵する。
「生きてるっ……いきてる゙っ……!」
健ちゃんの胸に耳を押し付けながら、抱きしめる。
生きてる。
生きてる。
どくん、どくん。
生きてる。
「良かったわねぇ♡」と頭を撫でられる。
そんなことを気にしている余裕などなかった。
健ちゃんが取られないように、強く、強く抱きしめる。
取ったりしないわ♡と女が離れていく。
「健ちゃん、健ちゃん」
「……」
どくん。
名前を呼ぶ。
「健ちゃん」
「…………」
どくん。どくん。
名前を呼ぶ。
……鼓動だけが返事を返してくれる。
健ちゃんは目を開けることはない。
「起きて」
——寝坊助だなぁ。
「健ちゃん、もう朝だよ」
涙は出ない。
「もう、目覚まし時計鳴ってるよ」
怒りも、悲しみも、もうない。
健ちゃんは生きてる。
生きてるんだ。
「おばさん、怒ってるよ……はは……」
それだけでいいんだ。
「早く起きなきゃ」
目を開けることなく、あどけない寝顔をする幼馴染が愛しい。
もう一度抱きしめる。
「大丈夫、大丈夫だからね」
「——俺はずっと一緒にいるからね」
『ア・カペラの星』高岡穂波ルート ノーマルエンディング
>この時、幼馴染を与えなければ、ハッピーエンドだったのよ♡ ;D




